若い世代を中心に「FIRE(ファイア)」という言葉が話題になっている。FIREとは「経済的自立と早期退職」のことだ。アメリカ発祥のこの概念は、単に資産を作って早期のリタイアを目指すだけでなく、自分らしい生き方を叶えるという点が特徴的だ。

読者のなかにも、「FIREを実現したい」という人がいることだろう。そこで今回は、FIREとは何か、あらためて説明し、FIREを理解するうえで重要な4つの「FI思考」、FIREを実現するための4つのステップや具体的な資産形成のための投資方法などを解説していこう。

目次

  1. 1. FIREとは経済的自立と早期退職
  2. 2. FIREを理解するうえで重要な4つの「FI思考」
  3. 3. FIREの「4%ルール」とは
  4. 4. FIREを実現するための4つのステップ
  5. 5. FIREを実現するためのシミュレーション
  6. 6. FIREを実現するための具体的な投資方法
  7. まとめ:FIRE実現に向けて目標と現実のギャップを認識し、コツコツと資産形成を

1. FIREとは経済的自立と早期退職

FIREとは? 実現するためのステップや資産づくりのための投資方法を解説
(画像=PIXTA)

「FIRE(ファイア)」とは、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った言葉だ。それぞれの単語の意味をつなげると、FIREとは「経済的な自立を実現して早期退職すること」と言えるだろう。

▽「FIRE」を構成する単語
・Financial=経済的な
・Independence=独立
・Retire=退職
・Early=早期

単に「早期退職(Retire Early:アーリーリタイア)」と聞くと、会社を売却した起業家や、元トップアスリートなど、大金を稼いだ成功者が悠々自適に生活することを想像するかもしれない。

しかし、FIREはこのような限られた成功者のリタイアを指す言葉ではない。「普通の人が自分らしい人生を送るために、身の丈に合ったリタイア生活を送ること」が前提になっている。

2. FIREを理解するうえで重要な4つの「FI思考」

アメリカにおけるFIREブームの火付け役となった1冊の書籍がある。ヴィッキー・ロビン氏とジョー・ドミンゲス氏が著した『お金か人生か 給料がなくても豊かになれる9ステップ』だ。

【参考】ダイアモンド社「ヴィッキー・ロビン 著/ジョー・ドミンゲス 著/岩本 正明 訳『お金か人生か給料がなくても豊かになれる9ステップ』」

同書では、FIREを理解するうえで、4つの「FI思考」が重要だと説く。4つの思考はすべて「Financial」に続くIから始まるワードで構成されることからFI思考と呼ぶ。それぞれ簡単に解説していこう。

2.1. FIREのFI思考1:経済的理解(Financial Intelligence)

1つめは、経済的理解(Financial Intelligence)だ。経済的理解とは、お金に関する思い込みや感情から一旦距離を置き、それらを客観視する能力である。

経済的理解を深めるためには、自分がこれまでにいくら稼ぎ、いくら使い、どれくらいの資産を築いているかを知る必要がある。また、自分は何があれば本当に幸せになれるか、お金のために自分が何を犠牲にしているか、などを知ることも重要だ。

経済的理解とは、個人の財務諸表を見える化し、今後の人生を送るうえで本当に必要な収入の金額を知ることと言えるだろう。

2.2. FIREのFI思考2:経済的調和(Financial Integrity)

2つめは、経済的調和(Financial Integrity)だ。経済的調和とは、自分の収入と支出が、自分とその家族に与える真の影響を知ることだ。

同書では、個人の満足度と支出額の関係について、満足度曲線を用いて説明している。縦軸を満足度、横軸を支出額としたとき、満足度曲線は右上がりではなく、逆さのU字を描いている。満足度は、支出額が多ければ多いほど高まるわけではなく、ある一定の支出額でピークに達するのだ。

経済的調和とは、自分が満足度曲線のピークにいられるだけのお金とモノの量を知るということだ。そして、それらを知ったうえで、自分の経済活動を自分の価値観に調和させる必要がある。

2.3. FIREのFI思考3:経済的自立(Financial Independence)

3つめは、経済的自立(Financial Independence)だ。経済的自立とは、ひと言で言えば「お金のために働く必要がない状態」ということだ。自分の価値観に合った生活を送るための生活費は、FIREまでに築いた資産の運用益で賄う。

ただ同書では、それらに加えて、経済的自立とはお金に関する誤った考え方、現代の便利な生活に対する過度な依存など、身を滅ぼすものからの自立でもあると説いている。

2.4. FIREのFI思考4:経済的相互依存(Financial Interdependence)

4つめは、経済的相互依存(Financial Interdependence)だ。経済的自立を果たしても、ほとんどの人は1人で自給自足の生活をしながら生きていけるわけではない。同書では、ほとんどの場合は社会インフラ(道路、空港、図書館など)を利用することになり、何より、もっとも幸福な瞬間は人を愛し、人に尽くすことによって訪れると述べている。

経済的相互依存とは、経済的に誰かに依存して生きるということではなく、経済的自立を果たしても人は1人では生きられないと理解することだ。それによって、社会貢献の気持ちが湧き、FIRE後の生活がより有意義なものになるだろう。

3. FIREの「4%ルール」とは

FIREを理解するうえで重要なキーワードが、「4%ルール」だ。4%ルールとは、簡単に説明すると、年間支出額を投資元本の4%以内に抑えることで、投資元本を目減りさせずに生活ができるという考え方だ。言い換えると、年間支出額の25倍の資産を築けば、年利4%を続ける限り資産は減らないということだ。

3.1. FIREの4%ルールの具体例

具体的な例で考えてみよう。仮に、年間支出額を500万円とする。

年間支出額を投資元本の4%以内に抑えるということは、投資元本として築くべき資産は500万円÷4%=1億2,500万円となる。つまり、1億2,500万円を年利4%で運用し続ければ、運用益500万円で年間支出額を賄うことができ、投資元本を取り崩すことなく安心してFIRE生活を続けることができるというわけだ。

書籍『お金か人生か 給料がなくても豊かになれる9ステップ』においても、一般的なポートフォリオにおいて、4%は「安全引き出し率」として紹介されている。4%以内の引き出しであれば、投資元本を毀損する可能性は低いので「安全」というわけだ。

3.2. FIREの4%ルールの注意点

ただし、4%ルールには注意点がある。FIREは米国で生まれた概念であり、同書の内容も含め、上記の計算ロジックは米国仕様になっている。一定の参考にはなるものの、米国と日本では経済成長率やインフレ率が異なるため、日本の生活にそのまま当てはめることができるかは、別途議論が必要だろう。

また、資産運用は必ずうまくいくわけではない。低金利が続く昨今において、年利4%はそれなりに高い数字であり、ある程度のリスクを取らないと実現できない数字であろう。リスクを取る投資は、投資元本を大きく毀損する可能性もあるので、注意したい。

4. FIREを実現するための4つのステップ

ここからは、FIREを実現するためのステップを紹介していこう。今回はFIREの4%ルールを踏まえながら、4つのステップを解説する。

4.1. FIRE実現へのステップ1:自分らしい生き方を考え、リタイア後の年間支出額を計算する

まず、FIREを考えるうえで重要なのが、「自分らしい生き方や、自分が本当にしたかった生き方とは、どのようなものなのか」を定義することだ。言い換えれば、4つのFI思考における経済的理解と経済的調和を深めることだ。

自分らしい生き方が定まったら、その生き方に必要な年間支出額を計算してみよう。ファイナンシャル・プランニングの普及啓発などを行う日本FP協会では、支出項目ごとに金額を書き出して年間支出額を割り出せる「家計の収支確認表」をウェブサイトで配布している。同表はステップ4の家計の見直しにも活用できる。

【参考】日本FP協会「便利ツールで家計をチェック」

今回は、年間支出額が500万円と仮定しよう。

4.2. FIRE実現へのステップ2:4%ルールに基づいて必要な資産額を計算する

次に、4%ルールに基づいて、年間支出額(500万円)を生み出すために必要な資産額を計算する。3.1. で計算したように、500万円÷4%=1億2,500万円の資産が必要という計算結果になる。

4.3. FIRE実現へのステップ3:家計を見直し貯蓄を増やす

必要な資産額を計算できたら、現在とのギャップを明確にして、その資産額を目標に資産形成(貯蓄)を行う。

たとえば、現時点で2,500万円の資産が手元にあるとする。その場合は、目標の資産額(1億2,500万円)とは1億円のギャップが生じている。そこで、家計(支出)を見直して年間の収支を改善させ、余剰分を貯蓄に回していこう。

4.4. FIRE実現へのステップ4:同時並行で資産運用を行う

多くの場合、家計の見直しによる年間収支の改善だけでは、限界があるだろう。たとえば、仮に毎年200万円を貯蓄に回せたとしても、目標とのギャップである1億円を築くためには、50年かかってしまう。

また、低金利の昨今においては、銀行預金だけでの資産増加はほとんど期待できない。そのため、貯蓄の強化と並行して投資を行なう必要がある。具体的な投資方法については後述する。

5. FIREを実現するためのシミュレーション

ここまで見てきたように、多くの場合において、FIREを実現するためには、資産運用を行うことが必要だ。しかし、無計画で始めることは避けたい。FIREを実現したい場合は、目標となる資産額が決まっているはずなので、その資産額から逆算して運用計画を検討しよう。

そのために重要なのが、「毎月○万円ずつ投資に回し、利回り△%で運用すれば、□年後に目標金額に到達する」という運用シミュレーションだ。今回は、目標金額を1億円と仮定して、さまざまなパターンを考えてみよう。

なお、シミュレーションには、下記の金融庁ウェブサイトのツールを利用した。年1回の複利計算で、計算結果は小数点以下を四捨五入している。

【参考】金融庁「資産運用シミュレーション」

<想定利回りが3%の場合>
・10年間で1億円を築くには、毎月71万5,607円の積み立てが必要
・20年間で1億円を築くには、毎月30万4,598円の積み立てが必要

想定利回りが3%の場合は、毎月の積み立てが、やや非現実的な金額になってしまった。では、想定利回りが5%の場合はどうだろうか。

<想定利回りが5%の場合>
・10年間で1億円を築くには、毎月64万3,988円の積み立てが必要
・20年間で1億円を築くには、毎月24万3,289円の積み立てが必要

毎月の積み立ては、想定利回りが3%の場合に比べ多少低くはなったが、多くの世帯にとって、まだまだ現実味が薄い金額だ。続けて、想定利回りが10%の場合も見てみよう。

<想定利回りが10%の場合>
10年間で1億円を築くには、毎月48万8,174円の積み立てが必要
20年間で1億円を築くには、毎月13万1,688円の積み立てが必要

上記のように、毎月13万円強の積み立てであれば、対応できる世帯もそれなりにあるだろう。ただし、20年間ずっと10%のリターンをあげ続けるのは容易なことではない。

このように、期間と想定利回りによって、毎月の積み立ては大きく異なってくる。実際はすでに保有している資産を加味して計算する必要があるが、いずれにせよ、FIRE実現に向けて事前にある程度の運用シミュレーションを行うことが重要だ。

6. FIREを実現するための具体的な投資方法

それでは、FIREを実現するための具体的な投資方法には、どのようなものがあるのだろうか。必ず成功する資産運用の方法は存在しないため、「この運用を行えば必ずFIREを実現できる」と言い切ることはできないが、その確率が高い方法を挙げることは可能だ。今回は、4つの具体的方法を紹介してこう。

6.1. FIRE実現への投資方法1:米国株のインデックスファンドに投資する

1つめは、米国株のインデックス(市場の動きを示す指数)に連動することを目指す投資信託(インデックスファンド)への投資だ。代表的な米国株のインデックスは「ダウ工業株30種平均(ニューヨーク・ダウ)」や「S&P500」だ。

インデックスファンドであれば、少額から分散投資することができ、個別銘柄を深く分析する必要もない。本業があり、資産運用に多くの時間と工数をかけることができない人におすすめの方法だ。

なぜ日経平均株価などの日本のインデックスではなく、米国株のインデックスかというと、米国のインデックスは、ITバブル崩壊や世界金融危機(リーマン・ショック)などの危機を乗り越えつつ、ずっと最高値を更新しているためだ。

一方で、日経平均株価やTOPIXといった日本の株価指数は、1989年につけた最高値をいまだに更新できていない。

米国の株価指数がずっと最高値を更新し続けているからといって、今後もそうなるとは限らない。しかし、株価の動向は誰にもわからない以上、過去の実績を重視するならば、米国株を選んだらどうかという投資アイディアだ。

6.2. FIRE実現への投資方法2:連続増配銘柄への投資

2つめは、連続増配銘柄への投資だ。連続増配銘柄とは、毎年配当金を増額(連続増配)している銘柄のことだ。

前項に続き米国株の話になるが、米国株のなかには、60年以上増配を続けている銘柄も存在する。長期間の増配は、基本的に業績が伸び続けないと実施することはできない。原則として、配当金は企業の利益から支払われるものだからだ。

米国株へのインデックス投資と同様に、今まで連続増配しているからといって、今後もそうなるとは限らない。しかし、株価の動向は誰にもわからない以上、過去の実績を重視するならば、連続増配銘柄を選んだらどうかという投資アイディアだ。

なお、連続増配銘柄のように一定のインカムゲイン(株式投資における配当金、不動産投資における家賃収入など)をもたらす資産は、FIRE実現後の保有資産としても相性がいい。基本的に運用益で生活することになるFIRE後において、定期的に配当金を出す連続増配銘柄は、投資元本を切り崩す手間がかからないためだ。

6.3. FIRE実現への投資方法3:不動産への投資

3つめは、マンションやアパートなどの不動産を購入して、値上がり益や賃料収入を狙う投資方法だ。

FIREの実現に不動産投資が適しているのは、レバレッジをかけることができる、つまりローンの活用で頭金が少額でも物件を購入できるからだ。言い換えれば、他人資本(他人のお金)で自分の資産運用ができるということだ。

FIREを目指す人は、まだ手元にまとまった資産がない人が大半だろう。そのため、いかに効率よく資産形成ができるかが重要だ。不動産投資であれば、自己資金が少なくても大きな金額の投資ができるので、投資効率が高まるというわけだ。

なお、不動産投資とひと口で言っても、個別物件によって投資妙味は大きく異なるため、各物件の精査が重要であることには注意が必要だ。

6.4. FIRE実現への投資方法3:ドル・コスト平均法を活用する

ここまでの3つは「何に投資するか」に視点を置いた方法であった。最後は「どのように投資するか」に視点を置いた方法を紹介しよう。

投資の世界では、リスクを抑える「分散投資」が広く活用されている。これは、投資する金融商品、地域、時間を分散させるもので、このうち時間の分散を図る投資手法が積み立て投資だ。

積み立て投資には、定期的に決まった金額を購入し続けるドル・コスト平均法(定額購入法)と、定期的に決まった量を購入し続ける定量購入法がある。長期的に見て平均購入価格を抑えることができるのはドル・コスト平均法と言われている。

ドル・コスト平均法は、たとえば毎月5万円ずつ、S&P500のインデックスファンドに投資する、といった買い方だ。手元の資金を無駄遣いすることなく確実に投資に回せるともに、買い時を見極める工数や時間を費やすことなく、コツコツと資産形成ができることがメリットだ。

FIRE実現には、家計の収支を改善させ、余剰分を投資に回すことが必要だ。余剰分を現金としてプールしておき、買い時を見定めたうえで随時投資することも可能だが、投資商品の買い時を見極めるのは難しく、また、手元に現金があるとどうしても消費してしまいたくなるのが人情というものだ。ドル・コスト平均法は、こういった失敗を防ぐのに適しているだろう。

ドル・コスト平均法は、特にインデックス投資と相性がいい。「インデックス投資+ドル・コスト平均法」による資産形成は、少ない時間や工数で行えることもメリットだ。なお、運用状況は日々細かく確認する必要はないが、運用報告書などで定期的に確認したい。

まとめ:FIRE実現に向けて目標と現実のギャップを認識し、コツコツと資産形成を

FIREとは、経済的な自立を実現して早期退職することであり、同時に自分らしく生きることであると言えるだろう。本稿では、FIREを理解するうえで重要な4つのFI思考、FIREを実現するための4つのステップや具体的な投資方法などを解説してきた。

FIREの重要なキーワードが、4%ルールだ。年間支出額を投資元本の4%以内に抑えることで、投資元本を目減りさせずに生活ができる、という考え方である。だが、多くの人にとって、運用益だけで生活が成り立つほどの資産を準備することは、無計画で実現できることではない。FIREを実現したい人は、目標と現実のギャップをしっかり認識して、正しい方法でコツコツと資産形成していこう。

著者:菅野陽平