法人企業統計
(画像=PIXTA)

目次

  1. 要旨
  2. はじめに
  3. 32都道府県3週間発出で個人消費▲3,000億円近く減
  4. 実効再生産数はピークアウト

要旨

  • 過去のGDP個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年9月の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば▲0.8兆円(1日当たり250億円)程度下振れしたと試算される。
  • まん延防止発出32都道府県の消費押し下げ圧力を前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果は▲2,962億円程度、GDPの減少額は▲2,547億円程度、それに伴う3か月後の失業者の増加規模は+1.1万人程度と試算される。
  • 過去、新規陽性者数の推移は実効再生産数に3週間程度遅行して連動する関係があった。その点、全国の実効再生産数が1月9日にピークアウトしていることは注目される。
  • 仮に新規陽性者数がピークアウトすれば、経口薬が普及していることなどもあり、行動制限の影響は限定的にとどめられる可能性があるといえよう。傷口をできるだけ広げないためにも、政府は海外を見習い、指定感染症の見直しも含めて、国内でのワクチンブースター接種率や経口薬の普及をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められる。

はじめに

全国的に新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」(以下、まん延防止)がこれまでの16都県に加えて、関西3府県と北海道、福島、茨城、栃木、静岡、長野、石川、島根、岡山、鹿児島、福岡、大分、佐賀の13府県にも適用される可能性が高まった。

こうした改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくまん延防止が導入されたとしても、コロナ4段階ステージ指標の「ステージ3」での発出となるため、「緊急事態宣言」ほどの経済活動抑制圧力とはならないだろう。しかし、過去の緊急事態宣言により、その後の経済が大きく悪化したことからすれば、経済活動自粛の悪影響が出ることは確実だろう。

32都道府県3週間発出で個人消費▲3,000億円近く減

過去の緊急事態宣言発出に伴う外出自粛強化により、最も悪影響を受けたのが個人消費である。そして、実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2021年9月の個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲0.8兆円程度下振れしたと試算される。こうしたことからすれば、昨年9月の緊急事態宣言に伴うマクロ的な個人消費押し下げは一日当たり▲250億円程度だったことが推察される。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用g)

そこで、今回のまん延防止発出の影響を試算すべく、直近2018年の県民経済計算を基に家計消費の全国に占める昨年9月時点での緊急事態宣言発出地域の割合を算出すると計77.9%となる。

ただ、今回のまん延防止は今のところ32都県に3週間程度の発出になりそうであり、発出地域の個人消費割合は全国の87.9%になる。このため、32都府県の消費押し下げ圧力を前回の緊急事態宣言の半分程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果としては、250億円/2*21日*87.9/77.9=▲2,962億円程度になると試算される。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額は▲2,547億円程度と計算される。

また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると1四半期後の失業者数が+4.4万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、32都府県でまん防が3週間発出されれば、それに伴う3か月後の失業者の増加規模は+1.1万人程度と試算される。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用g)

実効再生産数はピークアウト

このように、32都道府県に3週間程度のまん延防止措置にとどまれば、マクロ経済に及ぼす影響は前回の緊急事態宣言ほどは大きくないと言えるかもしれない。しかし逆に考えれば、国民の新型コロナウィルスや行動制限慣れなどにより、人流抑制効果は限定的となる可能性もある。このため、新型コロナウィルス陽性者数の抑制が限定的となれば、緊急事態宣言に格上げされる可能性があり、発出期間もさらに長期化することを警戒すべきだろう。

こうした中、政府は新型コロナワクチンのブースター接種を開始している。しかし、海外に比べて接種率の進捗が圧倒的に遅れていることからすれば、政府は更に接種率を早めることも検討すべきだろう。

一方、これまで新規陽性者数の推移は実効再生産数に3週間程度遅行して連動する傾向があったことも注目に値する。

そこで、足元の実効再生産数を見ると、1月9日にピークアウトしていることがわかる。仮に、過去の関係が今回も当てはまるとすれば、いずれ新規陽性者数がピークアウトする可能性がある。その場合、経口薬が普及していることなどもあり、行動制限の影響は限定的にとどめられる可能性があるといえよう。

従って、傷口をできるだけ広げないためにも、政府は海外を見習い、指定感染症の見直しも含めて、国内でのワクチンブースター接種率や経口薬の普及をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められるといえよう。(提供:第一生命経済研究所

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣