本記事は、國光宏尚氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています

ゲームがSNSになり、メタバースになっていく

ゲーム
(画像=DCStudio/PIXTA)

私は現在、Thirdverseとフィナンシェという会社の代表取締役CEOですが、「元gumiの國光」といった方がわかりやすいかもしれません。2007年にモバイル向けのサービス開発会社であるgumiを創業、主にスマートフォン向けのゲームを開発してきました。

2015年からVR・ARなどに関するインキュベーションを手掛け、Thirdverseはその中で生まれたVR関連ゲーム開発会社「よむネコ」を母体として創業しました。

2019年にマルチプレイ可能なVR剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」を発売。現在、日本と北米のスタジオで、それぞれ1本ずつ新規のVRゲームを開発中。それらを武器に「世界を獲る」ことを狙っています。

一方で、弊社の目的はVRゲーム大成功を収めることだけではありません。

Thirdverseは『10億人が生活する、新しい仮想世界の創造』をビジョンに立ち上げました。

「自宅や学校・職場とは違う、自分らしい時間を過ごすことができる第三の居場所(サードプレイス)を仮想世界(メタバース)上に創る」社名にはこのような想いが込められています。VRゲームをただのゲームでは終わらせず、そこに経済圏を加えることで「多くの人々が住む、新しい仮想世界」を作っていくことを目指しています。

昨今メタバースをビジネスに掲げる企業は多く、そこに珍しさはありません。

私は、この流れでただのゲーム会社を作ろうとは思っていません。ゲームがSNSになり、メタバースになっていく、この流れを作っているのです。作りたいのは「人が集まる場所」ですが、現状ではどうしてもハードウェアの性能から制約を受けます。Oculus Quest 2を使った場合でも、いまは同時に参加できるのは10人ほどが限界です。いまはまだ「メタバース」には遠い。技術的な課題が解決できるまで、まだ数年かかると思っています。

なぜVRに可能性を感じてきたかというと、「そこに人がいる感じ」が今後より出せるようになるからです。現状、プレゼンス(実在感)があるのはもちろんリアルな世界ですが、それをいかに上回っていくかが重要です。

それをどう実現するのか?

ハードの制約から来るユーザー数の問題は、すぐには解決できません。だからそこに向けて「こういうものを作りたい」というビジョンを作り、段階的に登っていくしかないのです。

私が2007年にgumiを創業した当初に開発したのは、フィーチャーフォンに特化したTwitterのようなSNSでした。つまり、コミュニティサービスからスタートしたのでこの領域は詳しいのですが、コミュニティサービスは、大きく二つに分類できます。

(1)リアルの友人とつながるもの
(2)趣味などを通じて、リアルとは違う関係でつながるもの

現在、SNSをはじめとする世界でヒットしているコミュニティサービスのほとんどは前者です。基本的にはリアルの友人とつながるものです。スマートフォン向けのコミュニティサービスが世界中で多数開発され、後者を狙ったものも出てきたのですが、結局うまくいっていません。新しい関係を築くには共通の話題が必要ですが、匿名で知り合った同士だと、なかなかそれが難しく、話題が続かない。

だから、結局リアルな友達が集まるところが強くなります。もともと知り合い同士なら、共通の話題がいくらでも見つかります。FacebookやLINEが多くの人に使われているのはそのためです。

一方で、「バーチャルな友達同士のコミュニティ」が成立しているのは、大半がゲームの中です。ゲームという共通の話題があり、共通の敵や共通の仲間意識があるから、つながりが維持できます。

リアルと別の人格で別のコミュニティ、「趣味などを通じて、リアルとは違う関係でつながるコミュニティ」という世界は大きな可能性を持っています。ゲーム×VR(メタバース)によってこの世界がついに実現されるかもしれません。

これからは、バーチャルでもノンバーバルなコミュニケーションが可能になる

メタバースで大切なのは「右脳」

VRとブロックチェーンがともに大事なのは、リアルの世界を完全に置き換えていくために必要だからです。これらの実現に右脳的な感覚、センス・オブ・プレゼンス、という実在感が決定的に重要です。

コロナ禍でZoom会議が増えたことで、私たちは何がZoomでもOKで、何が嫌なのかが見えてきました。打ち合わせはいいけれど、食事会や飲み会をオンライン上でやっている人は、いまほとんどいないでしょう。

これが、まさにプレゼンスです。

Zoomに足りない要素は次の2点です。

(1)レゾリューション(解像度)
(2)レスポンス

(1)はシンプルに画質が良くなればなるほど、そこにいる感じが出てきます。もう1つ重要なのはレスポンスで、いまのインターネットはまだまだ遅い。だからノンバーバルな仕草やうなずきが、リアルタイムで伝わりません。

そのため、話がかぶる、表情が読み取れない、というようなことが結構あります。これは、リアルではまずないことですよね。

逆にいうと、リアルでは言葉だけでなく、ノンバーバルな表情や仕草などによるコミュニケーションにとても重要だということです。

ところがZoomだと、それがリアルタイムでは伝わらない。つまり、左脳的な言葉でのコミュニケーションはできても、右脳的な感覚的なコミュニケーションはZoomではムリなのです。

これはすごく重要な点で、たとえば、人が誰かを好きになるときは、おそらくノンバーバルな部分で、「この人とは気が合う」などを判断しています。

バーチャル空間で人と出会い、友達や恋人になるという人間関係を作ろうとすると、Zoomだけでは厳しい。だからVR、ARが、ここの部分を完全に解決していく。これが実在感です。

バーチャルでも、「人間関係を築ける」=ノンバーバルなコミュニケーションを可能にすることが、1つの大きなゴールです。そこにNFTなどがくっついてきて、バーチャル空間上に新しい経済圏を作っていく。

ここが交わってきたところで、初めてバーチャルでもリアルと変わらない人間関係、生活が完成していくのです。

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(画像=『メタバースとWeb3』より)

本当のメタバース時代は、VRネイティブからはじまる

メタバース時代を実現するには「いかに長くバーチャル世界で過ごせるか」ということが重要になってきます。いまはハードウェアの制約も多く、長時間過ごせる人は限られていますので、ハードウェアの進化も必要になります。

ARグラスがメガネくらいのサイズになって、もっと快適になり、解像度などもさらに上がらないといけないでしょう。ただ、その未来は100%来るでしょう。

一方で、いま話しているメタバースの世界は、私の世代の話ではないなとも思っています。いずれ、どこかのタイミングで「VRネイティブ」世代が出てくるはずです。私たちはまだいろいろな部分で試行錯誤をしていますが、それを乗り越えた世代になると、本格的なVRメタバースの世界が広がるのではないでしょうか。

そもそもVRネイティブ世代になると、もう私の世代のようにVRで酔ったりしなくなり、長時間VR空間にいることを苦にも思わなくなると考えてます。

VRはリアルよりもリアリティーが重要になる

VRでは「リアルの代替となるバーチャルな世界を目指す」という話になりがちですが、VRの中にリアルな世界をそのまま再現することには、ほとんど意味はないと思っています。

大学などで「いかにVR空間においてリアルを再現するか」という研究が多く行われてきましたが、私は「そうじゃないな」と常に感じていました。

これはゲームの開発から学んだことですが、ソード・オブ・ガルガンチュアは剣戟のリアリティーを徹底的に追求したことで、VRの中で自分自身の身体を使って刀でリアリティーをもって斬り合うことができるようになりました。

しかし、ユーザーが望んでいたのは「VRの中でリアルなチャンバラを体験する」ではなく「VR世界であの好きなキャラになりきった体験をしたい」ということでした。人気作品のあの技やこの技を、自分の身体でやってみたかった。

結果として「俺すごい」「俺強い」という感覚を体験したい。

実際、「あの技を再現」みたいな形で楽しんでいるプレイヤーの方はたくさんいらっしゃいます。「バーチャルでしかできないことをリアルに感じる」のがバーチャルリアリティーの本質なのだ、と学びました。

メタバースとWeb3
國光宏尚(くにみつ・ひろなお)
株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェ代表取締役CEO/Founder。1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業。2004年5月株式会社アットムービーに入社。同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュースおよび新規事業の立ち上げを担当する。2007年6月、株式会社gumiを設立し、代表取締役社長に就任。2021年7月に同社を退任。2021年8月より株式会社Thirdverse代表取締役CEO、およびフィナンシェ代表取締役CEOに就任。2021年9月よりgumi Cryptos Capital Managing Partnerに就任。

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