本記事は、國光宏尚氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています

一人ひとりの個性、楽しさを尊重した多様性のある社会へ

バーチャル
(画像=adam121/PIXTA)

メタバース上に新しい場所・社会を創る

3つの段階に分けてThirdverse構想をお話ししてきましたが、行き着くところ「一人ひとりにとっての豊かな人生を、それぞれがいろいろな選択肢の中から選び、心地よく暮らしていける世界を創る」ことに尽きます。

一昔前のように、物質的に豊かになることが人生の幸せとはならなくなってきました。人生で大切なものは何か、これはなかなか難しい問題で、みんなが考え続けている問題です。

人間の内面は、とても複雑なものだと思っています。一人の自分で生き続けること、「持って生まれた一つの外見と社会から期待される役割」に縛られることは、本当は不自然なのではないか。いろいろな面を持つ一人の人間として、その日の気分によって使い分けてもいいはずなのに、なかなか現実世界では難しい。

バーチャル空間のいいところは、リセットがきくことです。複数の自分がいるから、もし所属するコミュニティが嫌になったら、別のコミュニティに行けばいい。そうなってくると、わざわざ苦しいところでもがき続ける必要もない。どこかに自分と合う人たち、コミュニティは必ずあります。世界中から自分と合う人たちを探して、その中でコミュニティをつくっていけば、よりみんながハッピーに生きていけるのではないでしょうか。

そのために、メタバース上に、新しい場所・社会を創るのです。

これまでの当たり前だった画一的な生き方で、苦しい思いをしている人を減らしたい。アイデンティティやライフスタイルを好きに選んで生きていける世界を創りたい。重要なのは、選択肢の幅を広げることです。そのための世界を私はメタバース上に創っていきます。

もうSF映画の中だけの話ではありません。自分の人生にとって何が大切かを一人ひとりが考え、自分の人生を自分の取捨選択によって豊かに生きていける人を増やしていきます。

そして、もう一つの会社フィナンシェでは「10億人の挑戦を応援するクリエイターエコノミーの実現」をビジョンの実現に向けて、FacebookやInstagramに代わる、Web3時代の新しいソーシャルネットワーク(DAO)をつくっていきます。

これまでのWeb2.0時代のSNSは承認欲求をベースにつな がっていました。これは今後長くは続かないと思っています。

Instagramでは、ただ一瞬の「いいね」をほしいがために「フェイクのライフスタイル」を送り「映える写真」をわざわざ撮るのです。みんなからの「いいね」をもらうことだけを目的にすると、どこかのタイミングで疲れてきます。「なんだか、ばかばかしいな」と思うタイミングがかならず来るでしょう。

これからの時代のSNSはDAO化していきます。ビジョンをベースに、共感する人が集まってコミュニティが形成され、DAOが発行する独自トークンがある。みんながビジョンの実現に向けて頑張って、コミュニティメンバーが増えるとみんなハッピーになる。

これが新時代のSNSなのです。

賛同者が集まれば、リスクをとった冒険も可能になる

時計の針を戻して、産業革命の時代――。

この時代は、蒸気機関などいろんな発明がありましたが、いちばん大きな発明とは何だったでしょうか?私は「株式会社」がいちばん大きな発明だったのではないかと考えます。

株式会社の歴史は意外に浅く、1602年にオランダ東インド会社が設立されたところから始まります。では、株式会社の何がすごかったのでしょうか?それは「リスクをとった挑戦ができるようになった」ということです。

株式会社ができる前は「事業を始めよう」と思っても、お金を借りるしかありませんでした。たとえば親が金持ちだったりしないとビジネスすら始められなかった。

けれども、株式会社ができたことで、「夢」に賛同してくれる人を集めて、リスクをとったチャレンジができるようになったのです。そこに、あらゆる新しい新技術が加わり、いろんなイノベーションが起こって、産業革命が花開いたのです。この「リスクをとったチャレンジ」ができるようになったことで、イノベーションが一気に起こった。その延長線上で完全に花開いたのが、GAFAMを代表とするいまのシリコンバレーでしょう。たった10年、15年ほどでここまで大きくなりました。

翻って、個人はどうでしょうか?

これからは「組織の時代」ではなくて「個の時代」だとすごく言われています。スポーツ選手や、アーティスト、ミュージシャンにYouTuber、研究者や料理人……いろんな個人が、これまで以上に活躍し始めました。

ただ、彼ら彼女らが自分の夢に挑戦するときに、ほんとうに「株式会社」という仕組みが一番向いているのかな、と思うのです。ひょっとすると、他にもっといい仕組みが発明できるのではないか――。

さらに、いまの日本でも「夢はあっても家にお金がない。だから、夢をあきらめなければいけない」という人もたくさんいます。世界に目を転じても、貧しい国ではやっぱり「お金がない」という理由であきらめることがいっぱいあるはずです。

私がフィナンシェでやりたいことは「個人や団体が、自分の夢やビジョンに賛同する人を集めて、リスクをとった挑戦ができるようになる」ことです。そうすることで、「会社」という仕組みではできない、新しいイノベーションが起こってくるのではないかと思うのです。

もう一つ、時代を読むうえで大切だと思うポイントをお伝えしておきます。

この何十年間かで「消費者」という存在が変わってきたと いうことです。もともと消費者はただの「コンシューマー」。つまり、消費するだけの人でした。次に「プロシューマ―」という、より生産に関わっていく存在になりました。

そしていま、マーケティングにおいていちばん重要だと言われているのが「ファンエコノミー」です。消費者を「ファン」として巻き込んでいって成長していく。そこがすごく重要だといわれています。

だから企業は「ストーリー」を伝えることがより大切になってきているのです。ファンエコノミーがうまく回っているのがアップルであり、シャオミといった会社でしょう。これからはファンエコノミーがさらに重要になってくると考えています。

「夢」がみんなの「共有財産」になる

ただ、既存のファンエコノミーには最大の欠点があります。それは「初期から応援したファンにメリットがない」ということです。ここはすごく大きな問題です。

たとえばアップルは大成功しました。実は私も初期のころからめちゃくちゃ「ファン」です。iPhone、MacBookなど、ほとんどのアップル製品を購入してきましたし、ほぼアップルのエコシステムの中で生きているようなものです。だからアップルの成功に、少なからず貢献してるはずです(笑)。

ただ、アップルが大成功して、世界一の時価総額になった。「じゃあ、ファンである私は……?」特に見返りはない。しかも、アップル用のゲームをつくるたびに30%もの「税金」を取られてしまう。これはやはりおかしいな、と思うのです。

人情のある商店だったら「ちょっと國光さん、昔からお世話になってるし、お得意さんだから25%でいいよ」となってもいいでしょう(笑)。しかしアップルでは、残念ながらそういうことは一切ありません……。

これはアイドルたちを売れないころから応援している人も同じでしょう。初期から応援していたファンにメリットがないのです。ここがファンエコノミーの最大の欠点です。

ということは、逆にいえば、初期から応援してくれたファンにもメリットがあるようにすると、よりファンエコノミーは加速するのではないでしょうか。

自分の夢をかなえたい人と、他人の夢を応援したい人。その「夢」がみんなの「共有財産」になる。カーシェアやルームシェアならぬ「ドリームシェアリングサービス」なのです。「夢を持つ人」と「ファン」がこの「フィナンシェ」というコミュニティで出会って、夢の実現に向けて一緒に歩んでいく。夢をかなえる人も、支援する人も、「夢」というものをみんなの共有財産として、一緒に豊かになっていける。そういう「クリエイターエコノミー」のプラットフォームです。

10代や20代の若い世代は「物質的に豊かになる=人生が豊かになる」ではないことに、すでに気づいています。

そして、ここから10年間で起こることは容易に想像がつきます。物質・モノをつくる作業はすべてAIがやることになります。人間がやる必要はなくなる。

するとどうなるかというと、「人間はめっちゃ暇になります(笑)」。いまの「働き方改革」などの次元ではなく、おそらく週休4〜5日になる。1日の労働時間も3~4時間以内になるでしょう。人はものすごく暇になるのです。

そこで、この「暇になった時間をどうやって有意義に過ごすか」が問題になってきます。どうやって、ありあまる時間を幸せに過ごせるか。そこが、人生の満足度につながっていく。

私は、有意義な時間を過ごすための重要な鍵を握るのが「多様性」だと考えています。

モノをつくるときに「正義」だったのは「生産性」です。しかし、これからの暇な時間を楽しむうえでの正義は「多様性」になる。ようするに「私はこれが好き」「私はこう思う」「私はこんなことがしたい」ということが大切になり、尊重されるようになってくる。

一人ひとりの個性を引き出して、一人ひとりが「楽しい」と思うことをどんどんやっていく。そういう多様性がある社会をつくっていきたい。その中心に新時代のSNSとなるフィナンシェがあると思っています。

「フィナンシェ(Financie)」はフランス語です。「r」がつくと「Financier」になる。これは「Finance」の語源で、ひとつは「金融」という意味。もうひとつは「資本家」という意味になります。

これまでの時代の「資本家」といえば、お金や土地を持っている人を指しました。でも、新しい時代の資本家は「自分の夢を応援、協力してくれる仲間がたくさんいる人」じゃないかと思うのです。一方で、「他人の夢を応援する」資本家もいるわけです。

フィナンシェのある世界ではこんなことが起きます――。それなりにお金を持っている一人のおじいちゃん。自分の資産の7〜8割は土地や株や銀行にある現金です。ただ残りの2~3割は「若い子の夢を応援する」という資産です。「他人の夢」が資産なのです。

そうなったときにどんな楽しみがあるのでしょうか?

私がエンジェル投資をしていて楽しいのは、お金が儲かるというよりも、頑張っているのを見るときです。投資した人が頑張って成功していくのを見ると、すごくうれしい。こういう応援で人の活躍を見ることは、いままでごく一部の投資家しか体験できなかったけれども、今後は多くの人がそういうことを楽しめるようになるのです。

アフリカにいるお金のない少年。彼は「サッカー選手になりたい」という夢を持っています。あなたはフィナンシェを通じて彼を応援します。

彼はものすごく頑張って、ワールドカップでゴールを決めました。そのヒーローインタビューで彼はこういいます。「お金のない頃からあなたが支援してくれたから、俺はここに立てています! ありがとうございます!!」。

こんな言葉を聞いたら、どれほどうれしいでしょうか。その喜びは、金利3%とか4%といったものとはまったく違う豊かな喜びになるはずです。

これからの「資本」は、お金や土地などだけではなく「どれだけ人とのつながりがあるか」。そこが大きな資本になってくるでしょう。それは応援する側でもいいし、当然応援される側でもいい。

誰かの「自己実現」を軸にして、「善意」によって世界が回る。私はこのフィナンシェを通じて、そんな未来を実現させたいと考えているのです。

メタバースとWeb3によって生まれる多様性のある社会

ここまでメタバースとWeb3が変える未来について語ってきました。

1つの外見、1つの性格、1つのコミュニティ、1つの経済圏、1つの社会体制に縛られて生きるのではなく、複数の外見、複数の性格、複数のコミュニティ、複数の経済圏、複数の社会体制を選んで生きることができるようになると人はより自由になれると信じています。

承認欲求でなく、自己実現をベースにみんなで夢を実現する世界。「夢を持つ人」と「支援する人」が出会って、夢の実現に向けて一緒に歩んでいく。夢をかなえる人も、支援する人も、「夢」というものをみんなの共有財産として、一緒に豊かになっていける。

一人ひとりの個性が、押しつぶされずに、発見されて、伸ばされる。そして、人それぞれも自分のやりたいことを頑張って突き詰める。それがみんなにとってのハッピーに繋がるような社会が、新しい社会なのだと思っています。一人ひとりが夢に挑戦して、みんながサポートし合って、お互いに肯定し合う。そういう社会を作っていけたらいいなと思います。

産業革命時代のこれまでの社会は生産性を追い求めた、画一的な社会だったと思います。それに対してこれからは、一人ひとりが自分の選択でより自由に生きられる、多様性に満ちたそんな社会がメタバースとWeb3によって生み出されてくると思います。

リアルが主でバーチャルが従だったこれまでの世界から、バーチャルが主でリアルが従な「バーチャルファースト」な時代が誕生しようとしています。

夢を語っているだけでは、何も起こりません。未来は予想するものではなく、自分たちで創りだすものです。

私たちはこれから理想とする世界の実現に向けて、バーチャルファーストの時代を先頭で駆け抜けていきます。さあみなさんも一緒に!

メタバースとWeb3
國光宏尚(くにみつ・ひろなお)
株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェ代表取締役CEO/Founder。1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業。2004年5月株式会社アットムービーに入社。同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュースおよび新規事業の立ち上げを担当する。2007年6月、株式会社gumiを設立し、代表取締役社長に就任。2021年7月に同社を退任。2021年8月より株式会社Thirdverse代表取締役CEO、およびフィナンシェ代表取締役CEOに就任。2021年9月よりgumi Cryptos Capital Managing Partnerに就任。

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