本記事は、國光宏尚氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています
NFTが実現するDAOの可能性
Web3で重要なのがNFTです。
つまりデジタルデータでも供給量が制限できるからデータに価値がちゃんと出る。ここでのポイントもシンプルでバーチャル空間上に経済価値を作れるようになったということです。
いままでのインターネットは複製コストがゼロでコピーが自由でした。そのため違法コピーなども含めてバーチャル空間上に経済圏を作れずにいたのです。そのためインターネットが生まれて四半世紀が経っていますが、大きなビジネスモデルは次のものしかありませんでした。
①広告 ②コマース
本当に大きなビジネスモデルはこの2つだけでした。お金に替えるところではリアルが必要だった。ただ、ここにWeb3、NFTがでてきたことでバーチャル空間上に価値を作れるようになりました。
たとえば、「Minecraft (マインクラフト)」上で、すごい家や建物を作ることができる子どもがいてもいまはまだ無価値です。でもNFT化し「世界で1つしかない家」となると、お金を出しても欲しいという人は大勢現れてくると思います。さらに、その家の中の家具や、部屋を飾る絵画、服やデジタルスニーカーなどありとあらゆるものが価値を持つようになってくる。バーチャル空間上に経済価値を作るということが、NFTで可能になるということです。
バーチャルファースト、完全なるメタバースを作る。その上でメタバースが果たす役割というのは、センス・オブ・プレゼンス。つまりリアルと変わらない人間関係がバーチャルでも作れるということ。あとはNFTやWeb3によって、この中に経済圏を作れる。これらを両軸にしながら最終的に到着すべき山に登っていっている。
私が代表を務めるThirdverseは開発するVRゲームをただのゲームでは終わらせず、そこに経済圏を加えることで「多くの人々が住む、新しいメタバース」を作っていくことを目指しています。
最近、メタバースの誤った取り組みとして「まず場を用意してしまう」例を、しばし目にします。「Second Life(セカンドライフ)」的な場を用意して、そこで「みんなで、なんでもやってください」という感じのものが多い。しかし、そのやりかたでメタバースに到達するのは難しいと思います。よくメタバースっぽい例として出されるRobloxとFortniteですが、これらがどうメタバース化していくのかはシンプルです。
めちゃくちゃおもしろいコンテンツがあって、ゲームがおもしろいから話題になり大勢の人が集まって、さらにその先でプラットフォーム化していって、その中で音楽ライブを開催したり、ショッピングができるようになったりし、その結果メタバースになっていく。
メタバースの競争に勝つのはVRやARで、おもしろいコンテンツをリリースして月あたりのアクティブユーザー数で1億を握り、プラットフォーム化できたところだと思います。
さらにいうと、たった1つのメタバースしか存在しない世界は絶対にありません。要するにメタバースはコミュニティという話なのでゲームにFortniteやMinecraft、「あつまれ どうぶつの森」があるのと同様複数の価値観でつくられた世界が存在するようになります。
SNS にもLINE があってFacebookがあってInstagramがあります。将来はコミュニティとして、こういうメタバースがあって、別の場所には別のメタバースがあって、という感じになっていくのだと思います。さらに、それぞれのメタバースがNFTによって経済圏を持ち、DAO的に運営されるようになってくる。
いま、注目を集めているDAO(Decentralized Autonomous Organization)は日本語にすると「自律分散型組織」ですが、Web3領域ではDAOが大ブームになっています。
DAOの最小構成は、まずビジョンがあり、そこに賛同する人が集まるコミュニティがあって、そこが発行する独自トークンがある、これがDAOと呼ばれているものの基本概念なのだろうなと思っています。
私が力を注いでいる新しいプラットフォーム「FiNANCiE(フィナンシェ)」では、スポーツ領域に力を入れており、サッカー、バスケ、アイスホッケー、野球など46チームのトークンを発行させて頂くところまできました。独自トークンを発行したりNFTを発行したりして、簡単にDAOが作れるサービスです。
まずはそれぞれのコミュニティに明確なビジョンがあり、そこに共感して集まってコミュニティができ、この中に独自トークンがあって、このワールド自体がすべてNFT化していて、経済圏ができている。そしてそれぞれのメタバースが相互運用(インターオペラビリティ)できるようになってくる。これこそ最終的に私がイメージするメタバースです。
ここで少しややこしいのが、いまのメタバースやVRがまだ「分散」に向いていないという点です。現在、VRで3Dコンテンツを作るのは、中央集権的な作り方でないと難しいのです。3Dでもクオリティが高いものを誰でも簡単に作れるようになるところまで来ないと自律分散は難しいのだと思います。
しかし、これからそういったツールなどを作り出していけばいいだけの話なので、まずはVR、メタバースは中央集権的な感じでどこかが主導しておもしろいコンテンツを作る。これがおもしろくて爆発的にウケて、中央集権的なプラットフォームになってきていろいろなコンテンツが乗っかってくるようになる。
次第に、その頃にはWeb3のテクノロジーもどんどん進化してきて、誰でも簡単に3Dでコンテンツが作れるようになり、最終的にそれぞれが自律分散的なものになっていく。いまはそれぞれ別のところから山を登っていっているところだと、私は思っています。
そして私たちの生活の変化ですが、仕事や日常で「1日のうち半日はメタバースで生活する」というレベルになるには、ユーザー自体の進化も必要になります。フレームレート(1秒間の静止画で見せる「コマ」の数)が速くなってきているのと、開発各社が酔い防止のノウハウを蓄積していっているので、ずいぶん改善されてきていますが、「VR酔い」もあります。どうしても、酔う人は一定数いるものです。
VR酔いは、実際のところ毎日使っていると慣れてきます。そのため次に重要になってくるのが「VRネイティブ」な若者たちの登場です。
だから、教育現場というのがとても重要だと思っています。若いと環境に慣れやすいので、小さい頃からVRに親しんだという子どもはより早く慣れてくるでしょう。いま現在、中高年の人がVRヘッドセットをつけて半日以上を過ごす、というのは負担がありますので、この年代が「1日の半分をメタバースで生活していた」となるのは厳しいと思いますが、VRネイティブの子どもの世代になると変わってくるでしょう。
私が開発してきたVRゲームでも、現在ユーザーはアメリカが8割。その中でも10代、20代が多くて、彼らが働きはじめるタイミングになってくると「VRで仕事をしたほうが楽だよね」となってくると思います。
VRネイティブの子どもたちが、10年後、バーチャル空間を主な仕事場として働いている、ということは現実化すると思います。
70代の人が現役で仕事をしていたときにパソコンはまだ本格的に登場していなかった、けれどもいま、40代のビジネスパーソンにとっては「パソコンがないと仕事ができない」と思う人のほうが多いでしょう。これと同じです。
すぐにバーチャルファーストに変わるわけではありませんが、私が確信を持っていえるのは、20年以内にはリアルの世界のGDPをバーチャルな世界のGDPが超えるということです。
さて、世の中がどんなに変わっても、変わらないものに時間があります。時間は有限で、1日24時間は誰にとっても変わるものではありません。その中で、すべての産業はこの「時間を奪い合って」います。
よく「ゲームのライバルは何ですか?」と聞かれるのですが、当然テレビであったりオンラインショッピングであったり本、新聞、音楽、友だちと会う、これらすべてがライバルであり可処分時間を奪い合っているのです。この可処分時間をどこに使うのか?ということがバーチャルファーストで変化していきます。
リアルとバーチャルの大きな違いでいえるのですが、リアルの世界で存在している自分は一人で、分身を持つことはありません。そして、自分自身の外見にみんながみんな満足しているわけではありません。さらに自分の性格、周りの人間関係、これらに縛られ生きているのがリアルな世界です。
それに対してバーチャルな世界では自分の好きなアバターで生きることができます。どんなイケメン、美少女になることも可能ですし、住む国や性別を変えることだって可能です。人種を変えるのも自由、猫や鳥にだって、その日の気分で変えてもいい。
人間関係も、いまは学校や会社など偶然周りにいて、気が合った人が友だちになっていました。それが、バーチャルな世界になってくると世界中から気の合った人と友だちになってコミュニティを作れるように変化します。
そうなるとリアルの友だちをつくる行為がバーチャル上になって、可処分時間が圧倒的にメタバースに移行します。するとリアルの自分に服を買うのか、バーチャル上の自分のアイデンティティーにアバターを買うのか選択が変わってきます。アバターで会議に参加するならアバターにビジネスアイテムを足したり、というようになってきます。
すでにいまの若者の間では、リアルに友達と会う時間よりもLINEやInstagramで友だちとつながっている時間、つまりバーチャルのほうが長くなってきています。これまでLINEやInstagramでやりとりしていたものが、センス・オブ・プレゼンスによって、より実在感のある、自分らしい自分になれるバーチャルの世界が出てくると、若者を中心に多くの人がバーチャルの中でより多くの時間を過ごすようになるでしょう。
すると可処分所得をよりバーチャルな自分のアイデンティーに使うようになってくるというのは自明です。これから20年後、こうした社会が経済の主体になるころにはリアルな経済を超えてくるようになります。
この話のすごいところは、これが一から生まれるということです。これから20年でリアルな経済を超えるバーチャルの経済圏(バーチャルの不動産、バーチャルの家具、バーチャルのアパレル、バーチャルの自動車など)が誕生します。ここから、さまざまな新しいビジネスが生まれてくるでしょう。
Fortniteの中では約1億人のユーザーがプレイしています。これは日本の人口とほぼ変わらないのです。ここで独自トークンの発行をしたらどうなるでしょうか?
ゲームは先に述べたとおりある程度限定的ですが、たとえばFacebookはユーザー数でいえば30億人と中国の人口より大きい。そこでLibra(フェイスブック社主導の仮想通貨)のような独自トークンを発行するとなると、国家も警戒心を抱くのは当然です。しかしながら大きな流れは変えられないと感じています。
極端にいえば、この世にもう1つの地球が生まれるイメージです。
起業家の方で「成功するのにいちばん大切なものは何か?」と問われた際、自身の能力や資金力、技術力、チームと返答する人が多いと思うのですが、私は、少し違うと思っています。
決定的に重要なのはマーケットとタイミングです。
マーケットとタイミングがよければ、きちんとやれば成功します。しかし、マーケットとタイミングが悪ければ何をしてもなかなかうまくいきません。ビジネスをする上で私がいちばん重要だと思っていることです。
実際に私が取り組んできたモバイルゲームの世界でも、iPhone初期のころは何を出してもヒットしたものです。これはマーケットが急成長していてユーザーがどんどん増えていたためです。ところが現在、ゲーム開発会社は各社が苦戦を強いられています。これはマーケットが成熟化してしまったことで起こるユーザーの奪い合いです。
いまや新しいユーザーはなかなか入ってきません。既存のゲームから剥がさなくてはいけない。だから難しい。
現在のリアルなビジネスは基本、奪い合いです。GDPの上限もほとんど成長していません。
しかし、ここからのメタバースはいまのリアルな世界に匹敵する経済圏が一からできてくる。そして、そこは誰かから奪う必要もないのです。それだけの広大なフロンティアが生まれてきた、というのが「まさに、いま」だと思います。
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