本記事は、國光宏尚氏の著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています

盛り上がるバーチャル市場。その動向をゼロから解説!

メタバース
(画像=Tapati/PIXTA)

一過性のブームではないメタバース

今回「メタバース」という言葉がここまで流行ったのは、間違いなくマーク・ザッカーバーグの影響です。彼がこのタイミングでメタに社名変更したのは、明確な意図があります。よくファイスブックのイメージが悪すぎるのでリブランディングしたという批判がありますが、そこに囚われると間違えます。彼はよくも悪くも、自分のビジョンに忠実というか、周りに流されないタイプの経営者です。いまの社会的常識の善悪の感覚はほぼ関係なく、自分が信じているテクノロジーの未来に対してプラスかマイナスかだけで突き進んでいく。だから、このタイミングで社名をメタに変えた理由は明確で、メタバースビジネスの立ち上がりに自信が出てきたからです。

2020年に(VRヘッドセットの)Oculus Quest 2を投入して約1年間で販売台数1,000万台を超えて、いまもさらに売り上げを伸ばしています。

当初よりもかなり早いペースで売れていて、ゲームの売り上げもとても伸びているので、ザッカーバーグの中で「VRで勝てる」というのが確信に変わってきた。

その証拠に決算でも、この事業の数字を独立させました。これは経営的には重要で、もし自信がなければ、「その他」の事業に入れたままにしているはずです。一度切り出すと、ずっと公表しないといけなくなります。

今後ハードとプラットフォームがどれくらい売れたか開示し続ける判断を下したのは、それをしても大丈夫なくらいの自信が出てきたから、です。

もう成功を確信して、これまでのFacebookを筆頭にしたWeb2.0のSNS事業から、いよいよ次に進みはじめたわけです。

これはザッカーバーグにとっての悲願です。Web2.0の勝者はGAFAMとよくいわれますが、本当の勝者はアップルとグーグルです。特にハードからOS、ストアまで握っているアップル。

ファイスブックは、アップルやグーグルの上でなんとかサバイブしているだけです。もし、いきなり彼らに「Facebookアプリを全部排除する」と切られたらビジネスが終わってしまうわけです。

そもそも、アップルがiMessageを早い段階からAndroid対応にして、iPhoneから(メタ社の)WhatsAppを排除していたら、メッセンジャーアプリを独占できた可能性は高かった。それをしなかっただけの話で、スティーブ・ジョブズが生きていたら強行していたかもしれません。もちろん、独占禁止法の問題などはありますが、いまのFortniteの訴訟をみるにつけても、やはりアップルに「生殺与奪の権」を握られている──。

ここに対するザッカーバーグの絶望的な怒りはあったはずです。

だからこそ、次の戦いでは「自分で自分の運命をコントロールできるプラットフォームを作る」との強い意思で、VRには2014年から累計数兆円もの資金を投じてきました。

そして、いよいよ1,000万台を超えて、完全にアップルから独立した自分の城(プラットフォーム)が見えてきた。だから、もうザッカーバーグ自身はアップルの奴隷に過ぎなかったFacebookアプリ群には興味がないはずです(笑)。

「ここからいよいよ俺が一国の主だ」と。過去の屈辱とは決別して、ついに自分の時代になると、社名もメタに変えたわけです。

メタバース市場に参入したマイクロソフトの戦略

メタバースによって世界規模の変革に乗り出したのはメタ社だけではありません。

2022年1月マイクロソフト社がゲーム大手アクティビジョン・ブリザードを687億ドル(約7兆8,700億円)で買収したという衝撃的なニュースが報じられました。これほど大規模な買収を行うのは、マイクロソフトの創業以来のことです。これは、メタバースが動く3つの方向性のうちの1つ「ゲーム市場」での覇者を狙った買収とみていいでしょう。日本ではオフィスソフトのイメージが強いマイクロソフトですが、実は任天堂、ソニーと並ぶゲーム業界における三大プラットフォームの1つで、同社のXbox360は世界で8,600万台の売り上げを達成しています。

そして、ここにきてマイクロソフトは攻勢を強めており、Xbox Series X/Sという最高水準の新たなゲームハードに加え、充実度の高いゲームのサブスクリプションサービスXbox Game Passの配信。更に、このサブスクをクラウドによってどこでも楽しめるようになるProject xCloudを立て続けに発表したのです。

エンターテインメント業界の構造を「Spotify(スポティファイ)」や「Netflix(ネットフリックス)」が変えたように、ゲーム業界もいま、ゲームのダウンロードからサブスクへと地殻変動が起こっています。

時価総額270兆円の巨人がVR市場にも参入し大きなプレイヤーになることは明らかでしょう。

マイクロソフト社のメタバースへの戦略は、実はゲームの領域にとどまりません。アクティビジョンの現在の業績を含めたとしても、ゲーム部門は年間売上高の13%にすぎません。ソフトウエア開発ツールから仮想会議プラットフォーム、日本では馴染みが薄いですが世界最大級のビジネスSNSのLinkedIn(リンクトイン)など企業や消費者向け技術にまたがる同社の各事業に、メタバースが応用されることは確実です。

OSのWindowsやオフィスソフトMicrosoft Officeで知られるマイクロソフト社はもともと「働くうえでのコミュニケーション」をつくる分野でGAFAMの中でも存在感を表していました。

コロナ禍で急速に導入されたリモートワークでは、リモートワークやテレワークの「コミュニケーション不足」を解決するツールとしてMicrosoft TeamsがZoomなどに並び普及した事実もあります。

ARヘッドセットHoloLens 3の開発は難航しているという報道もありますが、MRソフトウェアのQualcommとARプラットフォームの融合などでメタバース市場のトップを狙いにいく同社の動向から目が離せません。

メタバースとWeb3
國光宏尚(くにみつ・ひろなお)
株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェ代表取締役CEO/Founder。1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業。2004年5月株式会社アットムービーに入社。同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュースおよび新規事業の立ち上げを担当する。2007年6月、株式会社gumiを設立し、代表取締役社長に就任。2021年7月に同社を退任。2021年8月より株式会社Thirdverse代表取締役CEO、およびフィナンシェ代表取締役CEOに就任。2021年9月よりgumi Cryptos Capital Managing Partnerに就任。

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