この記事は2022年2月8日に「第一生命経済研究所」で公開された「年末消費の動向にみる今後のリベンジ消費の形」を一部編集し、転載したものです。
要旨
- 家計調査で2021年末までの日次支出データを確認すると、年末のサービス消費が回復。宿泊料などが2019・20年の水準をともに上回っており、感染状況の落ち着きとともに需要が回復していることが確認できる。
- 1月以降はオミクロン株の感染拡大もあって、再び旅行・外食等の対面型サービス消費は低迷する公算が大きい。緊急事態宣言後の消費回復の様相を見る限り、オミクロン株収束後の消費回復もコロナ前に一律に戻るわけではなく、品目毎の濃淡が大きくなると予想される。旅行消費はコロナ前をも上回るリベンジ消費の様相を呈するとみられる一方、外食飲酒代や化粧品への支出はコロナによる消費構造の変化が長期化する可能性が高くなっている。
年末サービス消費が好調
本稿ではこれまで に引き続き、緊急事態宣言解除後の消費回復過程やリベンジ消費の動向をウォッチするため、総務省「家計調査」における品目別・日別のデータチェックを行う。粒度の細かいデータであり、消費のつぶさな動きを把握するには有用だ。
まず、日毎の消費支出全体、財、サービス支出の動向をみたもの(極力曜日や祝日の影響を除去するために後方7日移動平均をとっている)が次ページのグラフである。横軸に時間軸を取り、2019・2020・2021年での色分けを行って、前年・前前年同時期との比較を行えるようにしている。
2021年のグラフ(青)をみていくと、前年・前前年と比較して財消費の回復に落ち着きがみられる一方、特徴的な動きをしているのが年末にかけてのサービス消費だ。12月最終週のサービス消費が2020年、コロナ前の2019年をともに上回っている。感染状況の落ち着きが年末のサービス消費を後押ししたようだ。
年末の飲酒代(外食)が前年を上回る
食関連の支出をみると、カップ麺や調理食品などの支出が2020年並みを維持、コロナ前を上回っており、内食需要は底堅い。また12月の外食代は20年のレベルを上回った。外食の飲酒代は2019年のコロナ前水準を下回るが、12月に増加する季節パターンが復活しており、宴会需要等の回復がみられる。また、菓子類が11月に引き続き好調。贈答用の需要が回復しているとみられる。
コロナ前を上回る年末の「宿泊料」
鉄道等の交通機関の支出は概ね2020・2019年の間を推移するような姿。バス代は他の交通手段に比べて回復に遅れ。感染対策の観点で長距離バスなどが敬遠されている可能性があろう。宿泊料は年末にかけてコロナ前の2019年を超えている。感染状況の落ち着きを受けて、年末年始の旅行需要が盛り上がったようだ。このほか、値上がりを背景にガソリンの支出は2019・20年を超過している。
化粧品支出の回復が限定的
外出機会増加で11月に好調だった洋服やカバン類の支出は、12月に落ち着き。化粧品関連の消費は全般的に伸び悩みがみられる。感染状況の落ち着きがみられた中においても回復は限られており、リモートワークの増加等の影響が根強いようだ。
コロナ後消費は元の形ではない
1月以降はオミクロン株の感染拡大から再び対面型サービス業の低迷が進む可能性が高そうである。回復の見られた外食や旅行も鈍ることになるだろう。
筆者がみてきた緊急事態宣言解除後の消費動向は、今後オミクロン株の感染収束が進んだ後の消費回復の姿を考えるうえでの試金石になる。オミクロン株収束後の消費は一律にコロナ前に戻るわけではなく、品目毎の濃淡が大きくなろう。旅行消費はコロナ前を上回る“リベンジ消費”の様相を呈するとみられる一方、外食飲酒代や化粧品への支出はコロナによる消費構造の変化が長期化する可能性が高くなっている。コロナ後消費はコロナ前の形に素直に戻っていくわけではないだろう。(提供:第一生命経済研究所)
- Economic Trends「リベンジ消費は起きているのか?」(2021年12月8日発行)
- Economic Trends「家計調査・日次・品目別支出の動向(2021年11月)」(2022年1月13日発行)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 星野 卓也