SDGsとは?ESGと何が違う?日本政府の動きも解説
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「SDGs」という言葉はここ数年で広く浸透した。しかし、その意味をしっかりと理解している人は意外と少ないかもしれない。また、同じくバズワードとなっている「ESG」との違いについても、正しく解説しようとすると、戸惑ってしまうこともあるだろう。そこで今回は、あらためてSDGsとは何か、ESGとは何が違うのか、日本政府などを動きも交えながら解説していこう。

目次

  1. SDGsとは。前身となる「MDGs」から理解する
  2. SDGsに対する日本政府の動き
  3. SDGsとESGの違いとは。投資家向けに提唱されたESGの概念
  4. SDGsは全世界が達成を目指している国際目標

SDGsとは。前身となる「MDGs」から理解する

SDGsとは、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の略で、2030年を達成期限として、「持続可能でよりよい世界」を目指す国際目標だ。この目標は、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され、その後、世の中に広がっていった。具体的には、17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。

▽SDGs(持続可能な開発目標)の17のゴール

ただ、SDGsの概念自体は、2015年に突然生まれたものではない。SDGsは、2001年に策定された「MDGs」の後継という位置付けだ。MDGsとは、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)の略で、開発分野における国際社会共通の目標だ。2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」をもとにまとめられた。

MDGsは「2015年までに達成すべき8つの目標」を掲げ、達成期限となる2015年までに一定の成果をあげた。その内容が、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に引き継がれたというわけだ。

▽ミレニアム開発目標(MDGs)の8つの目標

SDGsの17のゴールと169のターゲットは後述するとして、先にMDGsの8つの目標を紹介しよう。SDGsの17のゴールと169のターゲットと合わせて確認することで、よりSDGsが目指す世界を理解できるようになるはずだ。

▽MDGsの8つの目標
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
目標2:初等教育の完全普及の達成
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
目標4:乳幼児死亡率の削減
目標5:妊産婦の健康の改善
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
目標7:環境の持続可能性確保
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

なお、「MDGsは一定の成果をあげた」と述べたように、極度の貧困半減(目標1)やHIV・マラリア対策(目標6)などは達成した。一方で、乳幼児や妊産婦の死亡率削減(目標4、5)などは未達成だった。

MDGsの8つ目標から大きく増えたSDGsの17の目標

それでは、SDGsの17のゴールを紹介しよう。17のゴールは、社会、経済、環境の3側面から、世界が直面する課題を網羅的に示している。

▽SDGsの目標が網羅する3つの世界的課題
・社会:貧困や飢餓、教育など未だに解決を見ない社会面の開発アジェンダ
・経済:エネルギーや資源の有効活用、働き方の改善、不平等の解消などすべての国が持続可能な形で経済成長を目指す経済アジェンダ
・環境:地球環境や気候変動など地球規模で取り組むべき環境アジェンダ

具体的には以下の17項目だ。SDGsは、これらの目標を統合的に解決しながら「持続可能でよりよい世界」を目指している。

▽SDGsの17の目標
目標1:貧困をなくそう
目標2:飢餓をゼロに
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標4:室の高い教育をみんなに
目標5:ジェンダー平等を実現しよう
目標6:安全な水とトイレを世界中に
目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
目標8:働きがいも経済成長も
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10:人や国の不平等をなくそう
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任、つかう責任
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標14:海の豊かさを守ろう
目標15:陸の豊かさも守ろう
目標16:平和と公正をすべての人に
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう

SDGsの169のターゲット

ここからは、SDGsの169のターゲットについて解説していこう。169のターゲットは、上記の17の目標をさらに細分化したものであり、それらに対応する指標が設定されている。169すべてのターゲットの紹介は割愛するが、総務省仮訳(国連統計部ウェブサイトを総務省で仮訳。最終更新日2021年6月)をもとに、「目標1:貧困をなくそう」を例に解説する。

【参考】総務省 持続可能な開発目標(SDGs)指標仮訳(PDF)

「目標1:貧困をなくそう」のターゲットは7項目に分かれている。たとえば最初のターゲットには、「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」と明記されている。2番目のターゲットには「2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる」と明記されている。

このように、「目標1:貧困をなくそう」という大きな概念に対して、169のターゲットのなかから該当するターゲットを具体的に提示し、定量的な目標数字や具体的なアクションに落とし込んでいるというわけだ。

▽「SDGs目標1:貧困をなくそう」における7つのターゲット
1:2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
2:2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。
3:各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
4:2030年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
5:2030年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
6:あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
7:貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。

実施をレビューしフォローアップする「国連ハイレベル政治フォーラム」

SDGsの特徴に、定期的なフォローアップの場が設けられていることがある。その1つが「国連ハイレベル政治フォーラム(High Level Political Forum : HLPF)」だ。国連ハイレベル政治フォーラムは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施をレビューするグローバル・レベルでのフォローアップの場と位置づけられている。

国連ハイレベル政治フォーラムには、国連総会のもとで行われる会合(首脳級=SDGサミット、4年に1回開催)と経済社会理事会の下で行われる会合(閣僚級、毎年開催)がある。すべての国連加盟国および専門機関加盟国が参加するため、定期的に世界中の閣僚級以上で議論を行う場が設けられているというわけだ。

2019年9月に国連本部で行われたSDGサミットでは、安倍内閣総理大臣(当時)から日本のSDGs達成に向けた取り組みについて発信した。また、グテーレス国連事務総長が「取り組みは進展したが、達成状況にはかたよりや遅れがあり、あるべき姿からはほど遠く、今、取り組みを拡大・加速しなければならない。2030年までをSDGs達成に向けた『行動の10年』とする必要がある」とSDGsの進捗に危機感を表明するなど、貴重な議論の場となっている。

同サミットでは「SDGサミット政治宣言」が採択され、 SDGs達成に向けて取り組みを加速化していくことを各国首脳等の間で確認した。

SDGsに対する日本政府の動き

SDGsは発展途上国、先進国問わず、各国が率先して取り組むべきユニバーサル(普遍的)な目標だ。当然、日本も積極的に取り組んでいる。ここからは、SDGsに対する日本政府の動きを紹介していこう。

SDGsへの取り組みにおける実施体制の構築

2015年9月に国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択されたことを受けて、日本政府は2016年5月に総理を本部長、官房長官および外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し、年2回のペースで本会合を開催している。ここで、日本政府としてのSDGsに関する大方針が議論されているというわけだ。

▽日本政府が定めたSDGs推進本部の体制図

そのうえで、日本政府は2016年12月に、SDGs推進のための中長期戦略である「SDGs実施指針」を策定し、2019年12月には初めて同方針の改定を行った。SDGs実施指針改定版では、これまでの4年間における日本の取り組みの現状分析に基づき、17のゴールを日本の現状と照らし合わせて再構成した「8つの優先課題と主要原則」を提示した。8つの優先課題は以下の通りだ。

▽SDGsの17のゴールを日本の文脈に即して再構成した8つの優先課題
・1. あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
・2. 健康・長寿の達成
・3. 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
・4. 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
・5. 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
・6. 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
・7. 平和と安全・安心社会の実現
・8. SDGs 実施推進の体制と手段

たとえば、世界を見渡したときに、先進国である日本は比較的所得水準が高く、貧困に困っている人がいないわけではないものの、「目標1:貧困をなくそう」は相対的に優先順位が低い。そのため、8つのなかには明記されていない(あくまで明記されていないだけで、取り組まないという意味ではない)。一方、世界で最も高齢化が進む国の1つであることから、「目標3:すべての人に健康と福祉を」は優先順位が高く、2番として明記されている。

このSDGs実施指針を基に、政府の具体的な取り組みを加速させるため、全省庁による具体的な施策を盛り込んだ「SDGsアクションプラン」を毎年策定し、推進していくという。

ジャパンSDGsアワードの創設と表彰

日本政府はSDGsの達成に向けて、オールジャパンの取り組みを推進するために、2017年6月の第3回SDGs推進本部において、優れた取り組みを行う企業・団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」を創設した。

受賞者は、SDGs推進円卓会議構成員から成る選考委員会の意見を踏まえて決定され、最も優れた1案件を総理大臣によるSDGs推進本部長表彰、その他の4案件程度を官房長官・外務大臣による副本部長表彰とする(その他、特別賞を付与する場合もあり)。

2022年5月現在においては、「第5回ジャパンSDGsアワード」の選考が終了し、結果が発表されている。第5回のSDGs推進本部長(内閣総理大臣)表彰は「株式会社ユーグレナ」が「バングラデシュにおける貧困農家の収入増と難民への食糧支援を実現」する活動により、受賞している。

▽第5回「ジャパンSDGsアワード」結果

第5回SDGsアワード

SDGs未来都市

日本政府は2018年から、SDGsを原動力とした地方創生を推進するため、優れたSDGsの取り組みを提案する都市·地域を「SDGs未来都市」として選定し、資金面で支援をしている。また、そのなかで特に優れた先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定し、成功事例の普及を促進している。

▽SDGs未来都市所在地の一覧

2021年度においては、「SDGs未来都市」31都市、「⾃治体SDGsモデル事業」10事業を選定している。また、これまでの4年で「SDGs未来都市」124都市、「⾃治体SDGsモデル事業」400事業を選定している。 地方の各自治体がSDGsの理念を取り込むことで、政策の全体最適化、地域課題解決の加速化という相乗効果も期待できるという。

【参考】【参考】内閣官房 内閣府総合サイト 地方創生 地方創生SDGs・「環境未来都市」構想・広域連携SDGsモデル事業

SDGsとESGの違いとは。投資家向けに提唱されたESGの概念

SDGsと似た概念に「ESG」がある。ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字をつなげた略語だ。それぞれは以下のようなことを表している。

▽E=環境(Environment)
・環境汚染(森林伐採、排水など)への配慮
・再生可能エネルギーの使用
・生物多様性の確保 など

▽S=社会(Social)
・職場での人権対策
・ダイバーシティの推進
・ワーク・ライフ・バランスの確保
・女性活躍の推進
・児童労働問題の改善
・地域社会への貢献 など

▽G=企業統治(Governance)
・業績悪化に直結する不祥事の回避
・情報開示や法令順守
・社外取締役の構成および活用
・通報制度の確立および通報者の保護
・少数株主の保護 など

ESGという言葉が知られるようになったのは、2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(Principles for Responsible Investment:PRI)を提唱したことがきっかけといわれている。

▽責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)の6つの原則

したがって、ESGは主に「ESG投資」という言葉の文脈で使用されることが多い。投資をするために企業の価値を測る材料として、従来は主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われていたが、ESG投資では、投資先企業の環境問題や社会的責任を果たすことへの姿勢、ガバナンスへの意識なども考慮した投資を行う点が特徴だ。

投資家に広がるESG投資の概念

近年においては、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心にESG投資の概念が広がっており、ESG投資は時代のメガトレンドとなっている。日本においても、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したことを受け、ESG投資が広がっている。

ESG投資がいかに急拡大しているかは、PRI署名機関数とその運用資産総額を見れば一目瞭然だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の調べによると、ともにここ10年で急拡大しており、2020年3月末時点でのPRI署名機関は3,038で、その運用資産総額は100兆ドルを上回った。SDGsと同様に、ESG投資もアンテナを張っておくべき分野(言葉)といえるだろう。

▽PRI署名機関と資産運用額・保有額の推移

モルガンスタンレー_PRI署名機関
※アセットオーナーとは、公的年金や企業年金、保険会社など資金の出し手となる投資家を指し、資産運用機関はそれらの資金の運用を受託する組織を指す。データは各年の3月末時点。出所)PRIのデータを基に三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
画像引用:三菱UFJ銀行 今注目のESG投資とは?

大きな契機となったパリ協定 企業や投資家の意識が変わりつつある

このESG投資やSDGsの急拡大の大きな後押しとなったのが、2015年11月30日~12月13日に行われた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」だろう。歴史上はじめてすべての国が参加する公平な合意で、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みが構築された。

投資家の間では、ESG投資の1つであるダイインベストメント(環境や社会に悪影響を与える企業から資金を引き上げること)が広がりつつある。米国の代表的な資産家、ロックフェラー家に関連する基金「ロックフェラー・ファミリー・ファンド」は化石燃料業界への投資中止を表明し、その一環として、ロックフェラー家にとって最も由緒のある企業だったエクソンモービルの株式すら売却した。

このような動きを受けて、企業側もESGやSDGsを意識した動きを強めつつある。「ESGやSDGsの概念に反する企業」の烙印を押されてしまうと、資金を引き上げられて、経営がうまくいかなくなるリスクがあるためだ。ESGやSDGs への意識が希薄な企業は、反社会的とまではならなくとも、将来的なファン離れなどにつながる可能性はあるだろう。

SDGsは全世界が達成を目指している国際目標

ここまで、SDGsとは何か、ESGとは何が違うのか、日本政府などを動きも交えながら解説してきた。SDGsは全世界が達成を目指している国際目標だ。目標達成のためには、1人ひとりがSDGsのことをよく理解して、達成に資する行動をしていく必要があるだろう。