この記事は2022年5月13日に「株式新聞」で公開された「<中原圭介の相場観>日本株の割安さに注目し始めた海外投資家」を一部編集し、転載したものです。
米国の2022年4月のCPI(消費者物価指数、季節調整済み)は前年同月比で8.3%上昇し、市場予想(8.1%上昇)を上回った。その結果、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め観測はさらに強くなっている。株式市場への逆風は吹きやまない。
日経平均PERが過去10年最低水準に迫る
しかし、日本株に関していえば、割安さに注目する向きも増えてくるように思う。最も一般的なPERを比較すると、NYダウは昨年の30倍超から18倍程度まで急調整したとはいえ、過去10年の平均的な水準に回帰したにすぎない。一方で、12倍台の日経平均株価は過去10年の最低水準に迫っているのだ。
ここ10年で日経平均のPERが12倍を下回ったのは、欧州債務危機が起こった2012年春~秋、米中貿易戦争が過熱した2019年夏場、新型コロナ・ショックが襲った2020年3月の3回だけ。さらに、これら3回のPER低下局面では円高も進んでいる。1ドル=130円を挟んで推移している現状とは大きく異なり、そういった意味では日本株は売られ過ぎているようにも見える。
東証の投資部門別売買状況(2市場)によれば、海外投資家は5月2日〜9日の週まで6週連続で日本株(現物ベース)を買い越している。単なるショートカバーもあるだろうが、そうではない「日本株買い・米国株売り」のロング・ショート戦略を採用するケースがじわりと増えているとも考えられる。
2万5,000円は逆張り有効か
日経平均は2021年4月初めに上昇トレンドが終わったあと、ごく短い期間を除いて2万5,000~3万500円のボックス圏にいる。世界的な景気後退が意識されるとはいえ、その下限である2万5,000円に接近するにつれて、逆張りが有効になるのではないだろうか。
そして、支援材料は割安感だけではない。筆者が2022年7月の参院選後の本格化を心配してきた「岸田リスク」は、緩和するかもしれない。先日、岸田首相は英国の金融街シティでの講演で「インベスト・イン・キシダ」と述べ、日本への投資をアピールした。「反市場的」というレッテルが貼られている岸田氏だけに、これだけでもマーケットからみれば一つの進歩だ。
本当のところ、岸田氏が投資家を重視する姿勢を積極的にとるとは信じ難い。それでもああ言ってしまった手前、従来のようなマーケットの足を引っ張る発言も容易にはできなくなることが期待される。
ガイダンスリスク顕在化も計画は保守的
しかし、日本企業の前3月期決算では、ガイダンスリスクが顕在化した。原材料価格や物流コストの高騰をシビアに見積もり、想定為替レートも円高寄りにみる企業が多い。トヨタ自動車(7203)の1ドル=115円が象徴的だ。同社は前期が過去最高益だったが、今期は2割の営業減益を計画している。
混とんとする外部環境を踏まえると、こういった保守的な見通しが改まるまでにはあと2四半期程度の時間を要するかもしれない。ただ、株価が先を織り込むことを考えれば、決算発表がピークを迎え、かつSQ(特別清算指数)を通過するきょう以降は、年に何度かの買いのチャンスになるとみている。