この記事は2022年5月23日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol208『活況なハワイ住宅市場からの示唆』」を一部編集し、転載したものです。
• ハワイの住宅取引は活発で、日本人購入者にも依然人気がある
• ハワイ内外から実需の購入者が集まり、価格が下がらない
• 日本のリゾート地も、リモートワーク定住やインバウンド回復で市場発展の可能性
コロナ禍でハワイの住宅取引はますます活発に
「密の回避+リモート」による住宅ブーム
日本に住んでいると意外かもしれないが、ハワイにおいては、コロナ禍で観光客の数は減少したものの、住宅の取引件数はコロナ前を上回る勢いで伸びている(図表1)。
取引価格も急上昇しており、2022年3月には、戸建ての取引価格は115万ドル、コンドミニアム(マンション)は51.5万ドルと、過去最高値をつけた(図表2)。
ハワイの住宅取引の買主のほとんどは、ハワイその他の米国在住者である。当初はコロナ禍での密を避けるために戸建ての引き合いが目立ったが、まもなくマンションの需要も増加したという。
米国本土からの購入者の影響も大きい。現在3割ほど占めると言われているが、彼らは移住目的での購入が多く、投資や投機目的ではないらしい。コロナ禍への対応でリモートでも仕事が可能になり、生活の拠点をハワイに移すというのだ。ITの発達で、仕事と生活の場を大きく隔てて両立させることが容易になり、遠隔地リゾートの需要が高まっている。
売買される住宅の新築:中古の割合は、2:8ほどであり、増加する需要に対して、売り物件の数は恒常的に不足気味である。
ハワイの住宅を購入する日本人
外国人購入者の中での日本人の存在は一番
購入者の中で外国人の割合はわずかだが、その中での日本人の割合は群を抜いており、後に続くカナダ、韓国、シンガポールや中国等を大きく引き離していると言われ、現地の不動産ブローカーにとって日本人は有力な見込み客である。日本人の購入物件の多くはオアフ島に集中している。
ホテルコンドが人気
日本人が購入する不動産は、コンドミニアムも戸建てもあるが、ホテルコンドの購入が目立つ。ホテルの一室を購入し、自分で利用することもできるし、ホテル用に賃貸することも可能な形態である。ワイキキのトランプタワー・ワイキキや、ザ・リッツ・カールトン・レジデンスなどが人気があり、100平方メートル程度の部屋が150~200万ドルほどで取引されている。
しかし、いままで見えていなかった弱点が顕在化するホテルコンドも一部にはある。コロナ禍でホテルの稼働率が低下した際、一律ではなく、立地や設備で劣位にある物件から先に大きく低下した。収益物件としての評価額にも影響したため、売買価格が下がったという。当然のことではあるが、賃料収入を最優先に考えていなくても、ホテルの運営パフォーマンスには注意が必要である。
注目の開発地域はワイキキから西へ
ワイキキ中心部の多くの建物はホテル用途として開発されていることもあり、新規の住宅開発は西に展開している。アラモアナショッピングセンターの付近の比較的新しい低層のレジデンスにある約400平方メートルの部屋は、1,200万ドル以上で取引された。その価格は、数年前に比べて2割以上あがっているという。
アラモアナよりさらに西にあるカカアコ地域では、民間デバロッパーによる約60エーカー(約7万3,000坪)の大規模な再開発が進められている。エリア内に多数のコンドミニアムが建築、販売されており、日本人も積極的に購入している。
価格上昇トレンドが続く、ハワイの安心感
結果的に値下がりしていない
ハワイは、年間を通して気候が良く、美しい景観と便利な都市生活が両立し、治安も比較的良い。日本とは歴史的に交流が深く日本語も通じやすい。ハワイの不動産を購入する富裕層の多くは、ハワイという場所を好み、自己の滞在を前提とする場合が多い。この点が、東南アジアや米国本土に不動産投資を行う動機と大きく異なる。
投資が最優先の目的でないとしても、ハワイの住宅価格は、今世紀になってから上昇トレンドを続けており、2008 年のリーマンショックの後でも値下がり幅は小さかった。このことは購入者に安心感を与えていると考える(図表4)。
エリアは小さくても購入者の層が厚い
ハワイ諸島という限られた土地の中で居住可能地域は狭く、さらに政府により乱開発が抑制されている。一方で、米国の一部として米国本土からも人気のエリアであり、マーケットの買い手には、米国全体の厚い購入者層が控えていると言うことができる。潜在的な買い手が多く存在することが、高い人気と価格を維持し、好循環を生み出している。
ハワイのアフォーダブル住宅
ハワイ外からの需要に牽引されて新築住宅が高級化し、マーケット全体の価格水準が上昇していくと、地元の人間にとっては購入しにくくなる。ハワイでは、政府主導でアフォーダブル(購入しやすい)住宅を供給するプログラムが運営されている。
民間会社の開発事業に対して許認可等でインセンティブを与えつつ、その開発地域において市場価格より割安な住宅を一定戸数供給させるものだ。供給されるアフォーダブル住宅は、年収など一定要件を満たした購入者に優先的に販売され、転売にも制限がかかる。こうして外需と内需のバランスをとろうというのである。
先に紹介したカカアコ地区でも、アフォーダブル住宅の供給がされている。地域の中間所得を基準にその80%から140%の収入のある者に購入資格が与えられる。ただし、基準となる中間所得は、2022年では4人世帯で年収11万3,300ドルであり、1ドル130円換算では1,500万円近くになる。ハワイでは、不動産価格の水準はもとより、物価や所得の水準も日本を上回っていることには注意するべきだろう。
日本のリゾート地への示唆
日本のリゾート地の中には、コロナ禍にあっても地価上昇傾向を示す地域がある。ハワイオアフ島のように、都市機能とマリンリゾートが融合して島内外から厚い需要が得られる環境には及ばないものの、参考にできる点はある。
例えば、長野県の高原リゾートである軽井沢では、都心の密を避けつつ移住や多拠点居住を目的とした住宅の需要が増えている。冒頭紹介したように、米国本土に拠点を持つ人が、海を越えてハワイに移り住む時代である。リモート・ワークの拡大は、リゾート地において長期滞在または定住先としての住宅需要を高めてゆくと予想される。
また、コロナ後インバウンド訪日客数が回復する際に、リゾート地での不動産市場が発展するチャンスが来ると考える。コロナ前の2018年度は、沖縄県への入域観光客数のうち外国からが30%を占めていた(*)。
北海道のニセコエリアにある倶知安町も、道内からの観光客が多いものの、宿泊客延べ数で見ると、訪日客の占める割合は36%であった(*)。各自治体は、訪問客の滞在長期化に力を入れている。長期滞在者が増加すれば、ハワイのように、ホテルに加えてホテルコンドや別荘へと不動産の種類が多様化していくだろう。地元産業を支える人々に地価高騰の悪影響が及ぶ場合は、行政によるアフォーダブル住宅供給の誘導も有効となろう。
物件が多様化し、需要層に厚みが出ることで、一過性のブームに翻弄されないリゾート地の不動産市場が、日本でも形成され得ると期待する。
(*)各自治体公表数字より算出
大溝 日出夫 三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部
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