この記事は2022年5月26日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「時を駆けるか中高年-時間は夢を裏切らないか」を一部編集し、転載したものです。


目次

  1. 時間の流れは一定だろうか
  2. 実際の時間と体感する時間
  3. 時間を味方につけること

時間の流れは一定だろうか

時間
(画像=RomixImage/stock.adobe.com)

自分が年を重ねるにつけ、身につまされて感じる変化が幾つかある。まず、記憶力の衰えが顕著である。先日も趣味を同じくする友人と話している際に、共通の知人のハンドルネームが浮かんで来ない。ましてや、本名が出て来るはずもない。このような固有名詞に関する記憶の衰えとともに強く感じるのが、時の流れが速くなってしまったという実感である。

時間があっという間に過ぎ去ってしまうという意味で、日本では古くから「光陰矢の如し」と表現して来た。他の国でも同旨の表現は多く、中国では「光似箭」などと言うらしく、むしろこちらが本家である。英語でも“Time and tide wait for no man.”などの慣用句を大学受験に際して暗記したことが懐かしい。つまり、時が早く過ぎてしまうことを、世界中の人々が実感していることは間違いない。

こうした感覚的な表現に対して、時間の流れる速さは一定であると、物理学者は反論するだろう。かつて一日の長さは地球の自転周期を基に定められていた。しかし、そもそも自転周期自体が24時間ちょうどでないこともあって、現在はセシウム原子時計で観測される周波数を基に定義された「秒」が時間を計測する際の基準にされている。

また、年についても、当初は地球の公転周期に基づいて定められたものだが、遅くともユリウス暦の採用される以前の紀元前には1年=365日ちょうどでないことが認識されている。加えて、地球の公転周期自体すら必ずしも一定でない。

実際の時間と体感する時間

客観的なはずの時間そのものが、このように「揺らぎ」を持っているだけではない。個々人の感じる主観的な時間の長さも、大きく変化することが知られている。大学での1コマ90分の講義は、面白ければあっという間に終わってしまうが、詰まらない内容・教授ならば無限に続く地獄の責め苦であるかのように感じられるだろう。職場での勤務時間も、集中して取組むとすぐに終業時刻になってしまうのに、面白くない業務だとなかなか終業時刻にならないと感じることがある。このように、客観的に計測される時間と主観的に感じる時間とは、長さの異なるものと感じられる可能性が高い。

さらに、主観的な時間の価値は、観測する自然人の年齢によっても影響されると考えられる。つまり、10歳の小学生にとっての1年は、これまでの人生に対して1/10=10%にも相当する(厳密には物心ついてからで、より大きなウェイトになる)。そのため、子供は1年を長いと感じる。一方、50歳の中高齢層にとっての1年は、1/50=2%にしか相当しない。結果として、年をとってしまうと、流れる時間の価値が相対的に小さくなってしまっており、時の流れを早いと感じてしまうのではないか。

時間を味方につけること

年齢を重ねるにつれて時間の流れを速く感じるのであれば、間違いなく、将来に向けた備えは早めに取組んでおいた方が良い。しかも、次第に、残された時間は短くなって来る。定年延長といった雇用慣行の見直しが進みつつあるものの、継続雇用においてすら従来の給与水準を維持されることは多くないし、新しい職場では賃金水準が低下する可能性は高い。そもそも、個人差はあるものの、以前と同じように働くことは、体力的にも精神的にも容易でないだろう。

『自助・共助・公助』という表現は、個々人の努力を求めるものとして反発を受けているが、高齢化が進行し人口が減少しつつある日本において、公助に限界があることは自明のことである。共助や自助を活用しない限り、将来の老後生活は厳しいものとなることが必至だろう。

そのためには、時間を味方につけることこそが重要である。長期に及ぶ日銀の低金利政策を受けて、投資による利回り獲得よりも、暗号資産やCFD(差金決済)取引などの投機的な手段による一攫千金が注目されて来た。しかし、物価や海外の金利上昇によって、日本国内の金利水準も超長期年限を中心に上昇の兆しが見られはじめている。

金利が0%ならば複利効果を得ることは出来ないが、プラスの利回りならば、複利効果によって資産の増殖を実現できる。7%で10年間運用することが出来れば、元利金合計がほぼ倍になること(1.0710=1.967)が知られている。ここまでの高利回りは実現出来なくても、金利水準の上昇によって資産運用による果実の拡大が期待できる。

時の過ぎ行くままにせず、時間を味方につけ利用することで、将来に備えてはどうだろうか。時間は決して夢を裏切らないものと信じたい。

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

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