世界経済フォーラム(WEF)が2022年5月24日に発表した『旅行・観光開発指数(Travel &Tourism Development Index , 以下TTDI)2021年版』で、日本が世界117カ国中1位に輝いた。
中国が3つ順位を上げたほか、韓国は15位と過去最高を記録。ベトナムやインドネシアも大幅に順位を上げるなどアジア圏が健闘した。
旅行・観光開発指数トップ10
TTDIは、WEFが国際機関の統計や世界経済フォーラムの調査データに基づいて作成した、旅行・観光産業調査レポートだ。
観光政策やその優先度、交通・観光インフラ、文化・自然資源、価格競争力、安心・安全対策、健康・衛生対策といった観光分野から、グローバルなビジネス環境、人材・労働力、環境の持続性まで、各国の経済的・社会的な発展に寄与するさまざまな要素を包括的な視点から評価している。
同機関は過去15年間にわたり、『旅行・観光競争力指数(Travel & Tourism Competitiveness Index、以下TTCI)』を発表してきた。TTDIでは、パンデミックにより深刻な打撃を受けた旅行・観光産業の復興に不可欠な「レジリエント(回復力、適応性)」や「持続可能性」がより重視されている点が、TTCIと大きく異なる。
TTDIは新しい枠組みや評価手法、評価指標を採用しており、5つのサブインデックス(補助的なベンチマークと17のピラー(柱)、112の個別指標で構成されている。
以下、TTDIの上位10カ国を見てみよう。
「コロナ鎖国」の日本を1位に押し上げた要因は?
長期間にわたり厳格な水際対策を実施し、つい最近まで外国人観光客の受け入れを拒否してきた日本が、米国から首位を奪首するとは意表を突いた結果である。
「コロナ鎖国」という造語まで生みだした日本を、TTDI世界1位に押し上げた要因は、豊かな文化背景や充実した観光サービス、交通・観光インフラ整備など、ウィズコロナやアフターコロナのインバウンド需要に適した環境だからである。
個別項目ごとの評価では「文化資源(世界遺産登録文化財の数など)」が4位、「非レジャー資源(グローバルシティーの存在感、一流大学の数など)」が3位と、高スコアを獲得。「健康・衛生対策」が9位、「安全・安心対策」が15位など、観光・ビジネス客が安心して滞在を楽しめる環境作りも高評価を受けた。
その一方で、「価格競争力(96位)」や「旅行・観光の優先順位(42位)」といった項目は苦戦しており、日本が旅行・観光産業の復興を目指す上で重要な課題となるだろう。
中国は「観光の需要促進要因」で世界1位に
近隣国である中国は3つ、韓国は4つ順位を上げて、それぞれ13位と15位に上昇。トップ10入りまであと一歩というところまで向上している。
特に中国は、サブインデックスの一つである「観光の需要促進要因」が世界1位と、日本(3位)より順位が高く、3つのピラーでは「天然資源(世界自然遺産の数など)」が5位、「文化資源(世界遺産登録文化財の数など)」が2位、「非レジャー資源(グローバルシティーの存在感、一流大学の数など)」が4位と、軒並みトップ10入りという快挙を成し遂げた。3つのピラーすべてでトップ10入りした国は、他にフランスしかない。
なお、韓国は「文化資源」が8位、「非レジャー資源」が10位だった。
イタリアがトップ10入りし、カナダは圏外へ
米国を除く上位10カ国は、欧州やアジア太平洋地域の高所得国だ。
前回と比較してスコアを上げたのは、トップ10の中では日本とイタリアのみ。イタリアは「文化資源」で中国を抜いて1位となり、総合ランキングでトップ10入りを果たした。それに対して前回10位だったカナダは、3つ順位を下げてトップ10圏外に落ちた。
最も順位を上げたのは、指数全般が向上した32位のインドネシア(+12)と33位のサウジアラビア(+10)、52位のベトナム(+8)だ。今後、サービスインフラや環境の持続可能性の改善にさらに注力することで、より大きな飛躍が期待できるだろう。
これらの国々とは対照的に、38位のマレーシア(−9)や54位のインド(−8)は大きく後退した。
「レジリエントな未来」に向けた戦略が復興のカギ
コロナショックを経て、旅行・観光産業は徐々に回復の兆しを示しているものの、課題はまだまだ多い。
ウィズコロナあるいはアフターコロナの旅行・観光産業で重要なカギを握るのは、ニューノーマル時代の需要に対応可能な柔軟性と、持続可能でレジリエントな未来に向けた戦略だ。
WEFは、「各国は今後数十年という長期的な視点から、旅行・観光産業が体験・サービスを提供できる環境作りに投資を行う必要がある」と指摘している。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)