民法の改正により、2022年4月1日より成年年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりました。相続税そして贈与税においても、年齢の判定を20歳としている制度が多く、今回の改正はこれまでの相続税や贈与税の制度内容自体に影響を及ぼすことになります。
本記事では、成年年齢が引き下げられたことによる相続税および贈与税の制度内容についての影響について解説します。
相続税への影響
相続税においては、その相続税額の計算の際、未成年者控除が設けられています。未成年者控除とは、法定相続人が未成年だった場合に、所定の要件を満たすことでその未成年者の相続税額から一定額を差し引くというものです。
控除額については、2022年3月31日までに発生した相続については、その法定相続人が20歳に達するまでの年齢に10万円を乗じた額とされていましたが、2022年4月1日以後に開始する相続における未成年者控除の取り扱いについてはどのようになるのでしょうか。
未成年者控除額の計算
改正後の未成年者控除額は、以下の計算によって求められます。
未成年者控除額=(18歳-相続開始時の年齢)×10万円
年数の計算において、1年未満の端数は1年として計算します。例えば法定相続人の年齢が15歳6ヵ月の場合、18歳-15歳6ヵ月=2年6ヵ月となり、計算上は3年とみなします。
なお、未成年者本人の相続税額から上で計算した未成年者控除額を引ききれない場合においては、その引き切れない部分の金額を、その未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引くことになっています。
それでもなお引き切れない部分が残る場合は、次の相続開始時においても未成年の場合に、一定の限度額の範囲で未成年者控除を受けることができます。
具体的には、2回目の相続が2022年4月1日以後に開始した場合において、1回目の相続の際に18歳になるまでの年数に10万円を乗じた金額から、実際に未成年者控除額として控除した金額を差し引いた金額を限度として未成年者控除を受けることができることになります。
実際に以下のケースを想定し、控除限度額を計算してみましょう。
1回目(2021年)の相続開始時:6歳(このときに受けた未成年者控除額:70万円)
2回目(2024年)の相続開始時:9歳
まず、2回目の相続開始時の未成年者控除額について、1回目の相続における未成年者控除がないものとして計算します。その際の未成年者控除額は以下のとおりです。
(18歳-9歳)×10万円=90万円
そして、1回目の相続開始時に引き切れなかった額を計算します。
(18歳-6歳)×10万円=120万円-70万円=50万円
2回目の相続開始時の未成年者控除額の限度額は、1回目の相続の際に18歳になるまでの年数に10万円を乗じた金額から、実際に未成年者控除額として控除した金額を差し引いた金額となることから、上の式で求めたとおり、50万円となります。
ここで注意しておきたいのは、2022年4月1日以後に開始した相続において、2回目の未成年者控除額の計算における1回目の控除額については、成人年齢を18歳として再計算することです。
贈与税への影響
贈与税においても、今回の成年年齢引き下げによる影響が見られます。
相続時精算課税制度の取り扱い
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の直系尊属(父母もしくは祖父母)から財産の贈与を受けた際に選択できる贈与税の制度です。
この制度を選択することにより、贈与者である父母もしくは祖父母が亡くなった際の相続税の計算において、相続財産の額にこの制度を適用した財産の価額を加算し、最終的な相続税額を計算します。
この制度における財産の受贈者は、2022年3月31日までに行われた贈与については、その贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上の法定相続人である子どももしくは孫となっていましたが、改正後(2022年4月1日以後)に行われる贈与については、その贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であれば、相続時精算課税制度を選択できます。
ただし、1月1日が年齢の判定基準となるこれらの制度において、18歳そして19歳の制度の適用は、その制度によって異なる点に注意が必要です。
相続時精算課税制度の適用については以下の通りです。
・2022年1月1日~2022年4月1日の間の贈与:18歳および19歳は適用なし
・2022年4月1日以後の贈与:18歳および19歳の適用あり
暦年課税の取り扱い
暦年課税とは年間の贈与において、受贈者の贈与税が110万円まで非課税となる枠が設けられているもので、非課税枠である110万円を超えた部分については、それが直系尊属からの贈与である場合に特例税率が適用される仕組みになっています。
2022年3月31日までの贈与については、その年の1月1日時点で20歳以上の受贈者に対して特例税率が適用されますが、2022年4月1日以後の贈与についてはそれが18歳以上に改正されます。
この特例についても、2022年1月1日~2022年4月1日の間の贈与に対しては18歳および19歳の適用はありませんが、2022年4月1日以後の贈与であれば適用されます。
住宅資金等贈与に関する取り扱い
自分が住むための住宅を新築および購入する際の資金に充てるために、直系尊属である父母や祖父母から贈与を受け、一定の要件を満たす場合に、省エネなどの住宅であれば1,000万円、それ以外の住宅なら500万円までの非課税枠が設けられています。
この制度は今後も引き続き利用可能ですが、適用要件が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上となっていました。こちらについても2022年4月1日以後の贈与については、18歳以上が対象です。
結婚・子育て資金一括贈与に関する取り扱い
結婚や子育て資金として、金融機関などと契約し、直系尊属である父母もしくは祖父母から贈与を受けた場合は、1,000万円までが非課税の対象となります。
この制度の利用要件は、2022年3月31日以前の場合、「金融機関との資金管理契約の締結日」において20歳以上50歳未満であることとなっていましたが、2022年4月1日以後においては、それが18歳以上50歳未満となります。
また、この制度は現時点(2022年6月)では2023年3月31日までの贈与に適用されることとされています。
納税猶予および免除制度にも影響が?
親が事業を行っており、その後継者(相続人)が「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の認定を受けている非上場会社の株式などを相続もしくは贈与によって取得した場合、それによって発生する相続税および贈与税に対しては、一定の要件のもとでその納税を猶予もしくは免除される制度があります。
この制度には、「一般措置」と「特例措置」があり、贈与税に該当する場合は後継者が贈与を受けた日に20歳以上である必要がありましたが、2022年4月1日以後の贈与については18歳以上に改正されます。
影響する制度と年齢の判定日を理解しておくことが大切
相続において成人年齢の引き下げが影響するのは、未成年者控除だけではありません。遺産分割協議については未成年者の参加は認められず、その法定相続人(親権者)が参加することになっており、2022年4月1日以後は、遺産分割協議時点で18歳以上であれば協議に参加できます。
この140年ぶりの制度改正により、相続税そして贈与税にはさまざまな影響が及んでいます。特に判断に迷うのはその制度における年齢判定日ではないでしょうか。
年齢判定日 | 制度名 |
---|---|
贈与を受けた年の1月1日 | ・相続時精算課税制度 ・暦年課税の特例税率 ・住宅資金等贈与の非課税 |
贈与を受けた日 | 贈与税の納付猶予および免除制度 |
相続が開始した日 | 未成年者控除 |
遺産分割協議時 | 遺産分割協議 |
年齢判定日とそれに該当する制度については上に記載している通りですので、必要に応じて確認しておきましょう。
(提供:Incomepress )
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