企業のサポート態勢や社員の理解は不可欠
もっとも、英語の社内公用語化の試みにはリスクやデメリットもある。導入をうたう企業が社員に対するサポート態勢を整えていなければ、「絵に描いた餅」に終わりかねない。当然ながら、企業が社内公用語化の方針を掲げたからといって、社員がすぐに英語を話せるようになるわけではない。
研修プログラムを用意したり、場合によっては社外のスクールに通う費用を補助する制度を整えたりする必要もあるだろう。
また、英語の社内公用語化を性急に進めれば、日々の業務に悪影響をきたしかねない。例えば、英語の社内公用語化に伴い想定されるデメリットのひとつは、人材の流出だ。
社員全員が企業の方針に賛同してくれるとは限らず、英語の上達スピードには個人差があるため、英語の習得を重荷に感じて会社を辞める社員も出てくる可能性がある。
無理に進めればミスコミュニケーションの原因に
英語を社内公用語にすれば、資料を英語で作成し、会議や打ち合わせは英語で行うことになるだろう。社員の英語力が十分に向上していなければ、微妙なニュアンスが伝わらないなど、ミスコミュニケーションの原因にもなる。
その一方で、デメリットが顕在化することを懸念し、英語の社内公用語化を徹底できなければ、日本人同士はこれまで同様に日本語で会話をするようになるかもしれない。こうなると、社内公用語化の試みは形骸化し、投じた費用と時間は回収できなくなる。
経営トップのリーダーシップは必須
英語の社内公用語化を成功させるには、企業経営のトップ自らが率先して英語を身につけ、模範となる必要があるだろう。昇格基準の項目として英語力を設けるなど、人事制度に英語を組み込むことも手段として考えられる。
英語の社内公用語化は、さまざまなリスクを引き受けて経営資源を投入したところで、企業の業績向上を約束するものではない。しかし、英語の社内公用語化から多様性が生まれ、活力の源となって企業風土の変革につながる可能性を秘めているのも事実だ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)