サウジアラビア王子などから総額9,894億円以上調達

前述の通り、買収資金はTesla株に依存している部分が大きい。株価の下落により、担保に入れる株式か現金を増やす必要性が生じた。マスク氏がこのような負担を軽減するために、金融機関を介して共同出資者を募ったことは事実である。

5月にはサウジアラビアのアル・ワリード・ビン・タラル王子や、大手ソフトウェア企業オラクルの共同設立者ラリー・エリソン氏を含む19人の投資家から約71億4,000万ドル(約9,894億6,873万円)を調達し、Tesla株を担保とする証拠金ローンの融資枠を半分に減額するなどしていた。

「ウォール街の歴史の中で最大の法的闘争の一つ」の行方は?

注目を集めているのは、「ウォール街の歴史の中で最大の法的闘争の一つ」になると予想されている裁判の行方である。マスク氏の主張の焦点は、事業に生じる潜在的な「重大な悪影響(Material Adverse Effect 、MAE)」だ。今回のケースがMAEと判断された場合、マスク氏は違約金等を支払うことなく買収合意を撤回できる。

一般的に買収契約におけるMAEの定義は、テロなどの特定かつ広範な事象を指す。法律専門家の見解によると、デラウェア州の裁判所はMAEについて、「企業の業績に長期的な損害を与える、劇的で予期せぬネガティブな要因や出来事」と定義付けている。

裁判所がMAEと認め、買収撤回に成功した例は過去に1件だけある。2018年のドイツのヘルスケアグループ、Fresenius Kabi(フレゼニウス・カビ)と、米ジェネリック製薬企業エイコーン・ファーマシューティカルズのケースだ。

この法廷闘争では、エイコーンがフレゼニウスに対して行った規制遵守の保証が不正確であったことが立証されたほか、業績悪化の事実をエイコーンが隠蔽していたことも内部告発で明るみに出た。

この事例に基づいて予想すると、マスク氏が裁判で勝訴するためには、同氏が主張しているデータに関する「Twitterの虚言」を立証する必要がある。

マスク氏の訴えが退けられた場合はどうなるのか。

取引には「特定の履行条項」と呼ばれる条項が含まれており、裁判所はマスク氏が買収資金を調達し保有している限りは買収の完了を法的に強制することができる。違約金の支払いを命じられた場合、その額は10億ドル(約1,385億3,173万円)前後になると一部の専門家は見積もっている。

同氏はTeslaの他に、航空宇宙メーカーのSpace X(スペースX)や脳に埋め込まれたブレイン・マシン・インタフェース(BMI)を開発するNeuralink(ニューラリンク)を所有しているが、SEC(米国証券取引委員会)がこれらの企業から同氏の退任を命じる可能性も予想される。