賃貸を扱う不動産仲介業の中で、1~3月は繁忙期と言われています。入学や就職・転勤などで人が動き、1年のうち最も賃貸ニ-ズの高まるこの時期に、「空室を埋める」は物件オ-ナ-にとっても目標だったのではないでしょうか。そこで、仲介会社のリアルな声を交えながら今年の繁忙期を振り返り、足元の業況や今後の見通しについて解説していきます。
目次
コロナ第6波で幕を開けた2022年繁忙期。業況は見通しを下回るも、転勤など法人需要は回復。
今回も、不動産情報サ-ビスのアットホ-ムが公表している「地場の不動産仲介業における景況感調査」から最新2022年1~3月期の賃貸仲介の業況を見てみましょう。
この景況感調査は、地域に根差して不動産業に携わるアットホ-ム加盟店を対象に、居住用不動産市場の景気動向について四半期ごとにアンケ-トを実施しているものです。都道府県知事免許を持ち、5年を超えて仲介業に携わる店舗の経営層にインタ-ネットで調査し、前年並みを50 とする「業況DI」で数値化しています。
DI=50を境に、それよりも上なら「良い」、下なら「悪い」を意味しており、不動産仲介現場のリアルな営業実感が反映される調査結果と言えるでしょう。
▽首都圏・近畿圏の業況判断指数(業況DI(前年同期比)の推移)
首都圏における2022年1~3月期の業況判断指数(DI)は43.8(前期比+2.9ポイント)と2期連続で上昇し、前年同期比も+2.4ポイントとプラスを維持しました。一方、近畿圏では39.2(同-1.5ポイント)と再び下落、前年同月比も-5.7ポイントと5期ぶりに前年水準を下回りました。
この結果は、前期(2021年10~12月)に立てた見通しDIを首都圏で-7.9ポイント、近畿圏で-13.1ポイントとそれぞれ下回っており、その他の調査エリアにおいても前期時点の見通しほど大幅な上昇には至りませんでした。
年明け早々にオミクロン株による第6波が拡大したこともあり、やや期待外れの繁忙期だったと捉える不動産店が多かったようです。
▽首都圏・近畿圏における直近1年間の業況の推移(賃貸)
不動産店のマインドは? 『学生』『単身者』はネガティブ、『法人』はポジティブなコメントが
景況感調査では、不動産仲介店舗から市場の変化や特徴に関するフリ-コメントをもらっていますが、そこで今期の頻出ワ-ドを見てみると『学生』『単身者』『法人』『コロナ』が上位に並びました。
『学生』に関するコメントでは、「減った・来ない・少ない」、また『単身者』についても「単身者減・動かない・需要減」といったネガティブなワ-ドが多くを占めました。
具体的には「大学がオンライン授業なので、学生がひとり暮らしする必要性がない」「リモ-トが増え、大学生や新社会人が住むような単身者向け物件が決まらない」と停滞を指摘する声がありました。
一方、『法人』に関しては「契約増・活発・転勤増」などポジティブなワ-ドが半数以上を占め、「コロナ禍で激減した法人の転勤需要が戻ってきた」「大手法人契約が活発になった」など、コロナ禍で一時は縮小していた法人需要の回復を実感する声が目立ちました。
また、『コロナ』については未だネガティブなコメントが多いものの、「回復・戻る」などポジティブなワ-ドも相応にあり、具体的には「コロナは続くが生活は通常に戻りつつある」「国民の多くがワクチン接種を終えたので他県からの転居が増えた」といった前向きな声が聞かれました。
▽【全国・賃貸】頻出ワードのネガティブ・ポジティブ別コメント数とキーワード
首都圏は東京都以外の3県でコロナ前の業況水準を上回る
次に、エリアによる業況の違いを見てみましょう。
下のグラフは、直近3年間の繁忙期(1~3月)の業況を調査エリア別に比較したものです。今年の繁忙期の業況が、1回目の緊急事態宣言発出前の2020年を上回ったのは、調査対象13都道府県のうち7道県にのぼりました。
前述のとおり今期業況は期待を下回る結果ではありましたが、それでも転勤需要の回復などが後押しとなり、コロナ禍前の業況水準を上回ったエリアが多いのは明るい兆しです。
また、緑の枠で囲った首都圏を見てみると、埼玉県、千葉県、神奈川県では2020年の業況を上回っているのに対し、東京都だけが依然低調なのがわかります。もともと学生や単身者の受け入れが非常に多い東京都にとって、繁忙期に彼らがあまり動かなかったことがダメ-ジとなったようです。
一方、東京都周辺の埼玉県・千葉県・神奈川県の不動産仲介店舗からは「都内から移住してくる人が多い」「テレワ-クの普及で、遠くても広くて家賃の安い物件を探しにくる」との声があり、そうした郊外ニ-ズも業況を押し上げた一因となっています。
▽直近3年間の繁忙期(1-3月期)のエリア別業況DI比較
23区のシングル向き家賃は、埼玉県、千葉県、東京都下のカップル向きよりも高い!
前述のとおり、コロナ禍以降テレワ-クやオンライン授業の浸透を機に、安くて広く、そして遠すぎないエリアへの住替えニ-ズが高まりました。
下の図は、全国主要都市における賃貸マンションの面積帯別平均家賃です(2022年4月)。これを見ると、東京23区のシングル向き(30㎡以下)家賃は、前年同月比下落しているとはいえ88,167円と高く、同じ予算で埼玉県・千葉県・東京都下まで距離を延ばせば一部屋増やしてカップル向き(30~50㎡)以上に住むことができます。
この割安感と、通勤・通学頻度が少なくなったことも相まって、都心まで1~1.5時間で通える近隣エリアの人気が上がったのでしょう。
▽全国主要都市の「賃貸マンション・アパ-ト」募集家賃動向(2022年4月)
4-6月期の業況は上向きの見込み。規制緩和で外国人の入居者は戻ってくるか
さて、冒頭で紹介した景況感調査では、次の2022年4~6月期の業況は上昇が見込まれています。その理由として不動産店からは「入国規制の緩和で外国人の入居が増える」「最近は繁忙期(1月~3月)を外して引越しをする人が多い」といった意見が上がっています。
国内では、都市部を中心に新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向にあります(2022年6月現在)。そのことも住替えマインドの後押しとなり、見通しのとおり業況が上昇していくのか、次回で引き続きレポ-トしていきます。(次回は2022年9月掲載予定)