コロナが収束に向かうなかで企業経営者は、「出社したくなるオフィスづくり」を試行錯誤する。ビルオーナーがこのニーズに応えられれば、リーシング力の向上にも寄与する。Officefaction(東京都江東区)はオフィスやビル共用部といったデッドスペースと、そこでサービスを提供したい事業者をつなぐプラットフォーム「Officefaction」の構築に向けて事業を展開している。これまでに大手デベロッパーが提供するシェアオフィスなどでトライアルを実施。昨年創業のスタートアップながらも注目を集めている。
広告代理店から起業、マッサージが好評得る
代表取締役の樋口徹氏は経済産業省の「出向起業等創出支援事業」を活用して、大手鉄道系広告代理店に在籍したまま昨年起業した。エンジェル投資家とベンチャーキャピタルから資金を調達。大手デベロッパーが運営する施設でトライアルを実施。PARCOの「SKiiMa吉祥寺」、三井不動産の「THE E.A.S.T.」、野村不動産の「H¹T」などで展開し耳目を集めている。他の大手デベロッパーとの連携も前向きな話が進んでいる。
事業のアイデアを構想したのはコロナ禍前の2019年頃のことだ。それまでキャリアを積んできた広告業界の仕事と「考え方は似ている」と話す。
「広告の価値はどれくらいの人数の、どういう層の人たちが見るかで決定します。デッドスペース活用もそこを使う人たちのニーズにマッチしたコンテンツを用意することで、スペースオーナー・使用者・コンテンツ提供者の三方良しが、実現できるのではないか。このように考えたのがこのビジネスアイデアの最初でした」
コロナ禍で一時は起業どころではなくなったものの、情勢を注視し「リアルのオフィスが無くなることはない」と判断して2021年秋口に事業を立ち上げるに至った。
これまでのトライアルで実施してきたコンテンツが「リラクゼーション」だ。セラピストがマッサージなどを行うもの。「テレワーク主体となり、外回りの件数が減り運動不足から肩こりがひどかったのでスッキリしました」(30代、男性、営業職)、「デスクワークがメーンなので、慢性的な腰痛持ちです。仕事中に気軽にもみほぐしてもらえるのは助かります」(40代、女性、デザイナー)と好評を博した。
「独自にワーカーにアンケートを取りますと、マッサージの需要が高いです。特に働くママ社員のニーズが高いです。『勤務終了後は保育園などのお迎えや家事、休日は子どもの世話で自分の時間が取れない』という背景があります。今後当社のコンテンツのなかでもマッサージに加えて働く女性が嬉しいネイルなども取り揃えていきたいと考えています」(樋口氏)
ビル価値向上×健康経営、「福利厚生のウーバーイーツ」に
起業して1年足らずで大手不動産デベロッパーと連携できた要因は何か。デベロッパー側にとってはビルのバリューアップというメリットがある。健康経営や「出社したくなるオフィスづくり」がテナント企業の課題となるなかで、オフィススペースを提供するデベロッパー側にとってもかっこうの側面支援となる。外部企業のリソースを活用しテナントへ提供することで、自社のビルへの長期の入居にもつながる。
一方、オフィスを構える企業は健康経営、社員のエンゲージメント向上などがミッション。政府が企業に対して「人的資本」の情報開示を求める意向が判明したことも企業側の本気度を高めている。Officefactionが提供するサービスは社員への福利厚生の一環となり、社員の「受け」も良い。導入しやすいサービス設計にもなっていてデベロッパーや企業といったスペース提供者は、費用ゼロでコンテンツを設置することができる。コストをゼロにすることで導入の敷居を下げた。
「コロナ禍を経て多くの企業ではリモートワークとオフィス出社を併用したハイブリッド型が一般的になると予想されます。そのようななかでも積極的に出社してもらいたい、というのが多くの経営者の本音です。当社のサービスは『出社してリフレッシュできる』コンテンツを揃えていきますので、出社したくなるオフィスづくりに寄与できると考えています」
プラットフォームは当初はクローズドで運営。秋口から年内に一般ローンチを目標としている。登録に際しては、スペースオーナー、コンテンツ事業者ともに審査制。樋口氏によれば「活用するスペースの広さの制限はなく、たとえばマッサージなら椅子ひとつ置ければサービス提供可能です」という。人数の条件は設ける。たとえばオフィスであれば50人以上が出社していることだ。
樋口氏はこのサービスを拡大させていき「福利厚生のウーバーイーツを目指したい」と語る。日本国内の主要都市、そして中長期的には海外展開も見据えている。
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