本記事は、カン・ハンナ氏の著書『コンテンツ・ボーダーレス』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
2030年には誰もがコンテンツの人になる
今、私たちが24時間の中で最も時間を費やしていることは何でしょうか。多くの人がスマートフォンやパソコンの使用に時間を費やしていると思います。その中でも面白いものや役に立つような情報をテキスト、動画、音声などで楽しんでいます。そのすべてをコンテンツと言います。つまり、私たちの日常の中に、コンテンツがどんどん浸透しているのです。文化の多くがデジタル上のコンテンツを通じて形成されています。
何百年も前の時代では文化を享受するということは時間やお金に余裕がある人の特権のようなものでしたが、今はデジタルコンテンツが拡大するとともにコンテンツをバディのような存在だと定義する人も多く、むしろ日常の中に欠かせない存在にまでなっています。
Netflixの「イカゲーム」の成功は、韓国ドラマに関する関心を高める大きなきっかけとなり、第2第3の「イカゲーム」とも呼べるコンテンツが生まれれば「韓国ドラマは面白いよね」とその完成度に関する信用度も高まり、コンテンツが生み出す収益や影響力を見て、人々はますますコンテンツ産業に参加しようとします。またグローバル動画配信サービスによる巨大な投資金額などの影響で、俳優やスタッフ、作家などの人件費もますます高くなるため、優秀な人材が集まる産業になってきているのです。
たとえば、韓国の動向をよくみると、韓国ドラマの制作に関しては、以前はメジャーな放送局と手を組んでいるドラマ制作会社「スタジオドラゴン」「JTBCスタジオ」がNetflixなどグローバル動画プラットフォームから制作機会をもらえる対象でしたが、今は数十社の制作会社がOTTと協業をおこなっているのです。またチャンスが増えているため、クリエイターが経験を重ねて独立するケースも増えています。
ところで、韓国コンテンツ振興院の「2020海外コンテンツ市場分析」(2021年1月)によると、世界のコンテンツ市場規模は、現在(2019年時点)2兆4,320億ドル規模に集計されています。また2024年には2兆7,966億ドルまで成長する見込みで、右肩上がりと予測されています。
ただし、ここでもうひとつ大事なのはコンテンツ市場の規模だけではなく、コンテンツによる経済効果がほかの産業にどれほど影響を及ぼすのかということです。韓国輸出入銀行の海外経済研究所が発表した「韓国文化コンテンツの輸出による経済効果」(2019年)のレポートによると、韓国コンテンツの輸出額が100ドル増加すると消費財の輸出額は248ドル増加するという貿易創出効果が明らかになりました。さらにK–POPの音楽の場合は牽引効果が最も高くて音楽輸出が100ドル増加すると消費財の輸出額が1,777ドル増加すると発表しました。これによってK–POP音楽はコンテンツ自体の市場規模を超え、他産業への影響を及ぼしていることがわかります。
なぜこのような現象が起きるのでしょうか。
それはインターネットやSNSの発達により、海外の消費財への情報も手に入れやすくなってきたからです。また映画やドラマ、もしくは好きなアーティストの日常の姿などをデジタル上で見ることができるため、K–POPアイドルが好きであったり、もしくは韓国ドラマをよく見ている人が韓国食品や化粧品、衣類、家電などの消費財にまで親しみを感じるようになるというケースが多く見られます。
実際に日本で韓国ドラマ「愛の不時着」や「梨泰院クラス」が大人気になってから、日本に韓国式のフライドチキン屋さんが増えたり、日本のスーパーで〝スンドゥブチゲ〞と書かれた商品を目にすることも増えたりしました。このように韓国コンテンツの拡散は韓国食品や化粧品、ファッションなどの輸出に大きく影響しています。化粧品の場合だと、2014年以降輸出が大きく増加し、全体の輸出額の0.8%にしか至らなかった割合が、今では13.3%まで伸びているのです。
このような流れをよくみれば、コンテンツというものはコンテンツとしての収益も増加するだけでなく、でさまざまな消費財にも大きく影響を及ぼしており、もはやどんな産業もコンテンツと関わりのあるものになってきました。むしろ情報やストーリーを持つすべての無形のモノをコンテンツと言っても過言ではないでしょう。
つまり、既存のメディアだけではなく、デジタルメディアプラットフォームからソーシャルメディア、自動車、金融、消費財、音声AIによる家電操作、スマートホームサービス、メタバースなどまで、どのようにコンテンツ化するのかという時代になるのです。だからこそ2030年頃には単にコンテンツ業界の人だけではなく、誰もがコンテンツと関わる人になるのです。
これからの時代は「あなたは誰ですか?」から「あなたはどんなコンテンツを持っている人ですか?」というのが大事なテーマになるでしょう。たとえば、最近のInstagramはコマースプラットフォームとトータルポータルに進化しつつあり、誰かが載せているコンテンツを「見る」だけではなく「見つける」「買う」という行動まで拡大しています。つまり、マスメディアではなく、個人が配信するコンテンツへの関心が高まり、Eコマースとして、ソーシャルメディアのなかで信用を築いた人はモノを売る人になり得るのです。
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