本記事は、弓削徹氏の著書『アイデア体質になる! 課題が解決する! キャリアが広がる! メモ・ノートの極意』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
アイデアは選択することのほうが重要
アイデアは出すより通すほうがむずかしい
世界がひっくり返るようなアイデアを出すことを求められているわけではありません。とにかく、アイデアを出すクセをつけようということなのです。
そしてアイデアの数を多く出す。アイデアは質より量の世界です。量を多く出す人には敵いません。ムダに思えた無数のアイデアのなかに、前例のないスゴイ案が埋もれているかもしれませんし、バラバラの3つのアイデアを組み合わせたら画期的な仕組みに変わるかもしれません。
そして、この項で書きたいのは、アイデアを出すことより、それを通すことのほうがむずかしいということです。
ゾンビのイベントで入場者が激増
森岡毅氏は赤字続きのUSJをあっという間に立て直したマーケッターとして有名です。
ジェットコースターを反対向きに走らせたり、アルバイトにゾンビの格好をさせたりして、アイデアマンであることが伝わっています。
しかし、彼が本当にすごいのは、ジェットコースターに手を加えて走らせるというリスクをはらむ案を実行に移したり、ハリー・ポッターの巨額なアトラクションへの投資を引き出したりする交渉力です。
アルバイトにゾンビの格好をさせる、というイベントはプロの企画マンが時間をかければ出てくるアイデアです。しかし、そのアイデアを出したうえに、さらにあれほどの覚悟と交渉力を持ちあわせたマーケッターは2人といないでしょう。
日本のトップ企業がこぞって依頼
あるいはセブンイレブンやユニクロなどのブランドデザインで有名なアートディレクターの佐藤可士和氏。
彼も、見るべきは秀逸なコンセプト構築やグラフィックデザインより、企業のトップを説得して採用に至るそのプレゼン能力です。
ユニクロの柳井正社長やソフトバンクグループの孫正義社長、セブンイレブンの鈴木敏文元会長も、佐藤氏を信頼して仕事を任せています。
日本を代表するトップブランド企業が、こぞって依頼しているのです。正直に言えば、佐藤氏と遜色のない実力を持つデザイナーやアートディレクターはほかにもいるでしょう。
ところが、日本を牽引するようなブランド企業が発注するのは佐藤氏なのです。その結果に、決定的な差があります。
つまり、いいアイデアを出すだけでは足りず、その案をプレゼンし、採用にまで強力に牽引していく人間力を要求されるのだといえます。
アイデアの選択眼があるかどうか
実施こそがむずかしいと書きましたが、そう考えるとアイデアは選択することも大事だとわかります。
あなたが広告会社からプレゼンを受け、アイデアを採用する立場であったとしたら、その責任は重大です。逆にいえば、よい選択ができればコストパフォーマンスは大きく高まります。
テレビCMを見ていると、つい見入ってしまう面白い表現を見せてくれる企業の顔ぶれはいつも決まっていますよね。
テレビCMは製作費やタレントのギャラより放映料のほうが高額になります。そのため、少ない放映回数でも目立って印象に残るCM作品をつくることに集中するほうが効率的です。
それなら、テレビCMを放映するくらいの予算をとれる企業であれば、そこに注力することもできるはずです。
ところが、企業によってCMのクオリティは決まってしまっている。どういうことかというと、企業側がよいCM案を選べないからなのです。
広告会社からよい提案があっても選択することができず、また中途半端に口出しをするので、イマイチのテレビCMができてしまうのです。
広告会社も仕事なので、その条件のなかでもマシになるように努力をしてくれます。その結果が、企業のレベルによってCMの質が決まってしまう現状なのです。
おバカなアイデアで上等
クリエイターは、CMを担当するような人たちであれば、一定水準の作品を仕上げられる能力はあります。ですので、丸投げしていっさい口出しをしないほうがよい宣伝になるといっていいでしょう。
ではありますが、そこまでクリエイターを信頼できないのも事実であり、なんともいえません。
とにかく、アイデアを正しく選ぶ視点を持ってさえいれば、それはとても価値のあることなのです。
クリエイターとして「A案を採用すればぜったいに効果がある」と思ったプレゼンに限ってB案で決まってしまうことが多くありました。
企業は、刺激的で目立つ効果が見込まれる案よりも、無難な案を選ぼうとするのです。しかし、最近は状況も変わりました。それは、例えばヤマザキ食品という会社が、山崎というタレントを起用するようなことでいいのです。
かつての大人たちは「そんな安直なやり方ではバカにされる」といって採用しませんでした。しかし、“おバカなアイデア上等”です。
受けとる側、つまりお客さまはヒマではありません。表現の背景や原理を、時間をかけてきちんと理解してはくれない。だからこそ、シンプルでわかりやすいアイデアを、私たちは発信していくべきなのです。
いいダジャレ、わるいダジャレ
TOTOの「おしりだって洗ってほしい」というヒットコピーで知られるコピーライターの仲畑貴志氏が、かつて語っていた言葉に「冗談のパワー」というものがあります。
ビルを解体するとき、以前は巨大な鉄球をぶつけていましたが、あれだって誰かの冗談みたいなアイデアがはじまりに違いない、というのです。
その冗談を試してみたら、うまくいった。実社会での成功とは、そのようなことなのです。
卑近な例でいえば、ダジャレのネーミングやキャッチコピーだっていい。ちょっとバカにされつつも、覚えてもらいやすいのです。
それも、ただのダジャレではなく、商品の大切な特長やメリットを刷り込んでしまうようなダジャレだったら、それは間違いなく尊い。
エライ、スゴイ、カッコイイには限界があります。人によってカッコイイの定義も異なります。しかし、バカバカしい、笑っちゃう、の許容範囲はけっこう広いのです。
アイデアは採用者との相性もある。不採用がつづいたとしても、「たまたまだ」と受け止め、くよくよしないことです。自分がいいと思う発想をやめてはいけません。
なにしろ、たいていのアイデアはすでに案出されています。Google検索すれば見つかるでしょう。ですが、ノーベル賞を受賞する発明家でもない限り、まったくの新発想でなくてもいいのです。
異業種の成功例をアレンジしたものでもいい。あるいはアイデアに触発されて生まれた亜流の発想でもいいのです。
ノートでヒューリスティクスを進める
経験則で発想のスピードを高める
発想のスピードを加速するのがヒューリスティクスです。
ヒューリスティクスとは、経験則や直感によりおおむね正解に近い解答を短時間で見つけ出す思考法です。
例えば辛い食品を食べたいと思ったとき、スーパーやコンビニの店頭で「激辛」や「唐辛子」という文字を読んで探すよりも、赤いパッケージを見つけようと反応していたという経験はありませんか。
これは、代表性ヒューリスティクスと呼ばれるものです。逆の視点から見れば、食品メーカーは激辛商品のパッケージを赤色にすることで見つけてもらいやすくする効果を狙うことができるわけです。
土台は情報の整理とリマインド
私も、いまはフレームワークに1つひとつ当たっていくことはしません。とっさにアイデアが出せるのは、過去のアイデアや事例をカテゴライズし、ストックできているからです。
広告表現を考えるときは、「何かに例える」ことや「何かと比べる」ことでスルリと理解してもらえないか、「極端な例を出す」ことで買う気になってもらえないか、などを無意識のうちにローテーションしているのです。
それらはすべてノートに書かれているので安心できるのですが、もともとはメモをとっていって集積したものです。そして、ノートを見返すことで記憶を強化するようにしています。
質問されることが多い項目に関しては記憶したり、スマホですぐ参照できるようにファイル化してまとめておいたりするとよいでしょう。
また、基本的に現代は情報過多の時代です。そうした環境では、情報とどう出会い、どう選別するかで差がつくことになります。
どうでもいい情報でも「こんなことも知らないのか?」とか「新しいトレンドを知らない」と思われると、評価に影響しますので、チェックしておきましょう。
時を超えて自分自身がインスパイアする
過去の自分と対話して新たな案を出す
40歳くらいまでは予定などを手帳がいらないくらい記憶できたのですが、いまはさっぱりです。つまり、自分で書いた文章でも、半年後に読み返せば他人の文章を読んでいるような感じです。
これにはよいこともあり、なんだか第三者の意見やヒントをもらっているように読むこともできます。
となると、ノートに自分が書いた考察やヒントは、あたかもタイムマシンのように時空を超えてあなた自身に示唆を与えてくれるわけです。
後日、ノートを見返して発想した過去の自分と対話していくと、新しい客観的な案が出たりするものです。
脳に「地下へ行け!」と命じると
「深夜に書いたラブレターは、とても渡せるような内容ではない」とはよく言われることです。
では、「深夜に思いついたアイデアはロクなものではない」という言葉は事実なのでしょうか。
私は脳科学の知見は持ち合わせていませんが、アイデアを出さなければいけない課題のことを忘れているときにも、深層心理では無意識に思考を進めている気がします。
ある欧米の著名な学者は、研究のアイデアに行き詰まったときは「地下へ行け!」と声に出して命じ、いったん忘れて潜在意識に考えさせることにしているのだそうです。
そうすると脳が勝手に解決策を考え、数日後にそれが突然のように顕在意識サイドに手渡されてくる。それで、また研究が進みはじめたということが何度もあったのだそうです。
アイデアは寝ている間に出る
同じく、睡眠中にも着想を得られることがあると思います。歴史的な大発明のきっかけが、じつは「夢に見たこと」というケースは少なくありません。
Google創業者のラリー・ペイジは、母校ミシガン大学の卒業式でスピーチをして、23歳のときに見た夢の話をしました。それは、ウェブサイトを「ダウンロード」してインデックスするという検索方法についての夢だったそうです。
すべてのウェブサイトをダウンロードすることなどムリなのですが、この着想はのちにペイジ・ランク順に関連ページを表示するという検索方式へと結実するのです。
追いつめられてみる夢は
現代も使われているミシンの方式は、エリアス・ハウが発明したものです。
特徴は、縫い針の根本ではなく先端に穴が開いているところ。ハウは当初、糸を通す穴をどこに設ければいいかがわからず悩んでいました。
彼は、そのアイデアを怖い夢を見ることで得るのです。
その夢のなかで彼は蛮族の王にミシンをつくることを強要されます。24時間以内にミシンを開発できなければ死刑に処せられるというのです。
結局、ミシンをつくることができなかった彼は蛮族の兵士たちに引っ立てられます。そのとき、兵士たちが携えている槍には穴の空いた切っ先が光っていました。
それを見たハウは、これだ! とひらめいて目を覚まします。時刻は真夜中の4時。彼は走って工房へ行き、現在のミシンの原型を完成させたのです。
睡眠中に脳内記憶は整理される
このほかにも、夢で解決策やアイデアを得た事例は枚挙にいとまがありません。
夢で聴いた旋律を再現して「悪魔のトリル」というバイオリン・ソナタを作曲したジュゼッペ・タルティーニ。
夢で見た不思議な表を書き起こして元素周期律表を作成した、ドミトリ・メンデレーエフなどなど。
睡眠中には不要な情報が削除され、記憶が整理されるといわれています。そのため、考えごとがある場合の1日の終わりとは、就寝時ではなく朝だとさえいわれます。
意図して夢に頼ることはむずかしいかもしれません。しかし、真剣に課題と向き合う人には、そんな形でアイデアがもたらされるプレゼントもあるようです。
無用のことを書く効果
1人でアイデアを模索しているときなど、ペンが止まってしまったときは落書きをするのも効果的です。グチを書いたり、イラストを描いたりしてもいいのです。
また、打ち合わせや取材などで余裕があるなら周辺のことまでメモに残しておくやり方もあります。
あまり本質的とは思えないことも書いておくと、そのときの雰囲気を残すことができ、あとから記憶がはっきりと蘇る役に立ちます。
とはいえ、何が無用かなどということは誰にもわからないものです。
5年も経てば、無用と有用とが入れ替わっていたりもします。すると、無用ノートはとても有益なノートに姿を変えているかもしれません。
不要と思った要素も、気がつけば得意分野になっていた、あるいは時代がどんどんその方向へと変化していった、などということもありえます。
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