特集「不動産業界トップランナーに聞く アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

築古の物件をメインに取り扱う株式会社イチワプロパティは、独自の物件情報や海外展開などによって成長している。「築古」にこだわるサービスで顧客ニーズを掴むイチワプロパティの「本音の経営方針」を伺った。

(取材・執筆・構成=山崎敦)

城谷祐補氏
城谷祐補(しろたに ゆうすけ)
株式会社イチワプロパティ 代表取締役社長
神奈川県出身。日本大学法学部卒。中古投資用不動産の会社を経て、2012年1月に株式会社イチワプロパティを設立、代表取締役に就任。現職。

株式会社イチワプロパティ
2012年1月設立。本社は東京都文京区。事業内容は不動産売買仲介、不動産管理賃貸、損害保険代理店業務、住宅リフォーム、不動産投資、海外投資家向け事業

ニッチ市場で独自の仕入れルートを開拓

─ イチワプロパティの現在の事業と、立ち上げからこれまでの変遷をお聞かせください。

イチワプロパティ代表取締役社長・城谷祐補氏(以下、社名・氏名略):弊社は、主に投資用中古マンションを販売しております。また、マンションの賃貸管理やリフォーム・リノベーションの提案、物件の売却まで、不動産投資の入口から出口まで一貫してお手伝いさせていただいております。

事業の立ち上げは約10年前で、最初は私一人で経営していました。その後金融機関との提携を増やし、エンドユーザー向けのローンを提供するようになり、そのような基盤ができたことで商品を提供しやすくなり、お客様も増えました。

─ 不動産業界におけるイチワプロパティの強みや、特徴的なサービスについてお聞かせください。

弊社の特徴は、中古物件の中でも築年数が古めの物件、年数でいうと25年から35年ぐらい経過した「築古」の物件をメインに取り扱っていることです。弊社のような、築古の物件を専門に取り扱う業者さんは少ないと思います。

仕入れの安定性も強みの一つで、毎日40~50件の物件情報が入ってきます。月間で1,000件以上の情報が入ってきますが、個人のお客様への物件販売は月に15~20件ぐらいです。多くの物件情報をしっかり精査し、優良物件のみを仕入れてご紹介させていただいていることがおわかりいただけると思います。

─ なぜ、築古の物件を中心に取り扱うようになったのでしょうか。

築古の物件は家賃も価格も下がりきっているものが多いので、安定的な運用が見込めるためです。

─ 築古物件ですと、耐用年数に対する金融機関の審査基準などの問題はないのでしょうか。

確かに築古の物件はローンを組みにくいといえますが、弊社のお客様の7~8割はローンを利用されています。金融機関によっては「70 - 経過年数」で審査していただけるところもあるので、そのようなローンを利用される方が多いですね。

弊社は、築古物件への融資を積極的に行っている金融機関様とお付き合いがあります。私の推測ですが、金融機関はすべての会社さん、業者さんに同じ融資基準を適用しているわけではないと思っています。築古物件に強い弊社を信頼して、融資していただいている部分もあるのではないでしょうか。

─ ビジネスを行う上で最も重視することは何ですか?

バランスですかね。いわゆる「三方よし」みたいなものですが、お客様に利益があり、弊社にも利益があり、社会からも評価をいただけることが、ビジネスにとっては重要だと思っています。

海外投資家のニーズに応える多角的なサービス展開

─ 不動産の購入からアフターフォローまでの一貫したサポートや不動産投資個別面談など、顧客に寄り添ったサービスを提供されていますが、近年お客様が抱える課題にはどのようなものがありますか。

弊社のお客様に限りませんが、「不動産投資を始めたが、運用がうまくいかない」「売りたいが売れない」といった話はよく聞きます。

物件を高い価格で購入したことも要因として考えられますが、最近多いのはサブリースが付帯していることで運用がうまくいかないケースです。不動産投資物件は収益に応じて価格が上下するという特性がありますが、サブリースがついている場合は当然ながら収益は落ちます。

サブリースは法律で解約しづらくなっているので、不動産投資業界の問題の一つだと思います。

─ 海外投資家向けのサービスも展開されていますが、海外展開に至った経緯と現在抱えている課題をお聞かせください。

私は約15年前から不動産投資業界におりますが、私が仕事を始めた頃から中国や台湾の方が日本の物件を購入するケースが増え、思った以上に買値が高くてびっくりした記憶があります。弊社は築古の物件を中心に取り扱っていますが、お客様には5~10年後に売却することをおすすめしています。その時に海外投資家のニーズがあれば、お客様は高く売却できるので双方がWin-Winになると考えました。それが、海外投資家向けのサービスを始めたきっかけです。

また、海外投資家は現金で購入するケースが多いという特徴もあります。私たちのビジネスは金融機関からの評価に左右されがちですが、現金で購入するお客様がいらっしゃるのでキャッシュフローが良いと判断していただいています。

─ 昨今は世界的にコロナの問題がありますが、御社の海外展開サービスに影響はありましたか。

コロナ禍に突入した直後はビジネスへの影響がありましたが、最近は落ち着いてきたようです。むしろ昨今の円安の影響で、需要はさらに拡大していると感じます。

─ 空き家問題や2022年問題、高齢化社会、若年層の人口減少など、日本全体の問題が不動産投資業界に与える影響についてどのようにお考えでしょうか。また、そのような問題に対してどのような対策を講じておられますか?

物件は多いのですが入居者自体は減少しているので、不動産業界にとっては大きな問題だと思っています。不動産業界も、よく言われる「二極化」や「三極化」という状態に突入するでしょう。良い物件は全体の2~3割しかないので、それ以外はどんどん淘汰されるのではないでしょうか。

対策を講じるのは簡単ではありませんが、ご紹介する物件をしっかり精査する、室内をリフォームやリノベーションによって改善するといった努力はしています。

─ 築古物件がメインということで、リフォームやリノベーションによって物件の魅力を高めるといった施策を行っているということでしょうか。

そうですね。弊社はリフォームやリノベーションの工事を内製化しているため、工事費をかなり抑えることができます。またリフォームやリノベーションのノウハウも蓄積しているので、その点は他社との差別化を図れるポイントだと思います。

魅力ある会社を目指し、内部強化を行う

─ 5年後、10年後の目標や未来構想はありますか。

具体的な数値的目標は、正直あまりありません。私は現在41歳なので10年後は50歳を超えているわけですが、その時に誰かが「この会社を引き継ぎたい」と思ってもらえるような会社にしたいと思っています。会社は長く続けることが大切なので、今抱えている課題を解決しつつ、誰かに引き継いでもらえるような体制を整えていきたいですね。

そのために、賃貸管理を強化したいと考えています。現在は売上がフロー収入に偏っているのでストック収入の賃貸管理を増やすことや、自社保有物件を増やすことに取り組んでいきたいですね。

─ 目標に向けて現在取り組んでいることや、今後取り組もうとしている事業・サービスはありますか。

これまではお客様のフォローも営業担当者が行っていましたが、今年CS部門を立ち上げ、お客様のフォローを専門に行う人材を揃えたので、今後はCS領域も拡充していきたいですね。

また、不動産投資における困りごとを解決する、あるいは問題が顕在化していない方が将来抱える問題を自己解決できるようなサービスを作りたいと思っています。

─どのような経緯でCS部門の立ち上げに至ったのでしょうか。

単刀直入に言えば、営業担当者とお客様の関係構築のためですね。きっかけは、離職などによって担当者がいなくなった時や報告漏れがあった時、接触のない期間が長い時などにお客様からご指摘をいただいたことです。

CS部門を立ち上げて間もないのですが、「実は物件を売りたかった」というような営業担当者には言えなかったお客様の本音がCS部門に入ってくるようになりました。お客様の悩みやニーズが顕在化しているのは、とても良いことだと思います。

真に顧客に寄り添う体制作り

─ これから本格的に不動産投資を始めたい方や、現在行っている不動産投資のパフォーマンスを高めたいと考えている投資家へメッセージをお願いします。

これから不動産投資を始めるのは、時期的になかなか難しいかなとも思います。不動産価格は上がり続けており、いつ調整局面に入るのかもわかりません。私の立場で言うのも変ですが、むやみやたらに始めるべきではないと思いますね。

弊社ではお客様との面談の場を設けており、お客様の状況と物件の状況が合わない場合は「今は動くべきではありません」と本音でお話していますので、不動産投資を始めたい方は、ぜひご相談いただければと思います。

また、5~10年の短期・中期スパンで不動産投資を検討されている方は、弊社の得意分野ですので、ぜひご相談ください。