この記事は2022年8月25日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「スリー・ディー・マトリックス【7777・グロース】MIT発バイオマテリアル基盤に医療製品開発 24年4月期に売上70億円、営業黒字化を目指す」を一部編集し、転載したものです。
スリー・ディー・マトリックスは、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で発明された「自己組織化ペプチド」技術を基盤に、医療製品の開発・製造・販売を行っている。すでに外科医療の分野では2製品を販売しており、2024年4月期の営業黒字化に向けて収益拡大を図っている。
また巨大市場である組織再生、DDS(*1)の領域でも新市場獲得を目指し、複数の製品の開発を進めている。
▼岡田 淳社長
安全で適合性もある
バイオマテリアル
同社は「自己組織化ペプチド」をコア技術に、各医療領域での実用化を目指した開発に取り組んでいる。自己組織化ペプチドとは、もともと人体にあるアミノ酸から成るペプチドで構成されたバイオマテリアルのこと。ペプチドを生理的条件下に置くと、ペプチド同士が自然に自己集合しゲル化(自己組織化)するという技術だ。同社は、MITから独占的に自己組織化ペプチドの特許のグローバルライセンスを取得している。
医療現場では、動物由来のバイオマテリアルが多く使われているが、動物由来のものは人体への馴染みがいい反面、不純物質が混入しているリスクがある。一方、自己組織化ペプチドは工場で生産されるため安全性が高く、アミノ酸で構成されているため人体への適合性もある。また品質の安定性もあり、用途に応じたバリエーションが作れる。こうした特性から、様々な医療現場での実用化が期待される。
同社ではオープンイノベーションにより、100以上の共同研究機関や大学と常に新しい用途の探索を進めている。現在は、外科医療、組織再生、DDSの3領域で実用化を目指し、複数の製品開発に取り組む。
「バイオマテリアルは、承認申請で医療機器に分類されます。医薬品は臨床試験も多く上市まで10年以上かかりますが、医療機器は3~4年と短く、開発費も医薬品に比べ10分の1ほどです。1つ承認が取れると適用拡大ができるので、開発スピードも非常に早いです」(岡田淳社長)
日米欧でグローバル展開
外科医療で事業化が進む
研究開発から販売開始までは、欧州、米国、日本のうち最も承認が得やすい地域から開発を進め、その成功例をグローバルに展開する戦略をとっている。すでに外科医療の分野では事業化が進み、主要な製品が2つある。
まず1つめが、消化器内視鏡向け止血材「PuraStat(ピュアスタット)」。これは自己組織化ペプチドのゲル化する性質を生かした製品で、出血した箇所にかけると出血部位が物理的に塞がり止血される。内視鏡では止血するため患部を焼灼しているが、焼灼により傷口が広がるなど患者にも医師にとっても負担が大きい。PuraStatは医師も簡単に使用でき、患者にとっても負担が軽減されるメリットがある。
すでに日米欧で製造販売承認を取得し、欧州と日本で販売、導入が進む。2022年7月からは米国でも販売を開始した。消化器内視鏡向け止血材のグローバルの潜在市場は419億円と推計される。
「我々の市場シェアは2~3%とまだ浸透率は低いですが、60%程のシェアは取れると思います。日本では保険が適応されますし、反響はすごくいいです」(同氏)
もう1つは、鼻科向け癒着防止材「PuraSinus(ピュアサイナス)」。欧米では副鼻腔炎になる人が多く鼻の手術も多いが、術後に癒着してしまうケースがある。それを防ぐためガーゼを鼻に詰める処置を施すが、息苦しくガーゼを取る時には激痛が走るという。同製品を使用すれば、癒着が防止でき、かつ傷の治癒も早くなる。
「現在は米国とオーストラリアでの販売に注力しています。両地域とも私立病院が多いので、より良いサービスを提供して患者さんのQOL(*2)を高める目的で導入が進んでいます」(同氏)
コロナで黒字化1年遅れ
巨大市場で実用化目指す
2022年4月期の連結業績は、売上高(事業収益)15億600万円、営業損失27億3,600万円。2021年度発表の中期経営計画では、2023年4月期に黒字化を計画していたが、遅れが生じ修正を余儀なくされた。
計画未達の一因には新型コロナの影響がある。欧州ではオミクロン株が流行した3~4カ月間で手術数が3割まで減少。オーストラリアに至っては、政府の規制により緊急時以外の手術件数はゼロになった。そのため、未だに多くの患者が手術待ちの状態だという。
「コロナで新規開拓もなかなかできる状態ではありませんでした。しかし収束したら手術件数も戻り、受注数も自ずと増えていきます。計画が1年遅れましたが、顧客数は継続して増えています。どれだけ早く黒字化できるかが勝負です」(同氏)
今回発表した中期経営計画では、2024年4月期の売上高70億円、営業利益1.5億円の黒字化を目標に掲げる。今後の成長戦略は、事業化の進む外科領域では、止血材、癒着防止の市場全体へ適用拡大を目指す。
また外科医療の10倍以上の潜在市場が見込まれる組織再生、DDSの領域でも新市場を狙い、開発に着手している。すでに美容分野向けの創傷治癒材は米国で承認を取得済みの他、複数の製品の臨床試験が進行中だ。
「DDSで今狙っているのは核酸医薬とワクチンです。医薬品メーカーさんと組んで我々は技術を提供していきます。ここは薬としての開発になるので長い年月が必要ですが、2~3年以内に開発に着手したいです」(同氏)
▼ペプチド同士が自然に自己集合しゲル化(自己組織化)した状態
▼︎吸収性局所止血材「PuraStat(ピュアスタット®)」
*1:DDS(Drug Delivery System)とは、必要な薬物を必要な部位で必要な長さの時間、作用させるための薬物送達システム。
*2:QOLとはクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)の略称で、「生活の質」や「人生の質」などを指す。
2022年4月期 連結業績
売上高 | 15億600万円 | 前期比 47.0%増 |
---|---|---|
営業利益 | ▲27億3,600万円 | ー |
経常利益 | ▲18億700万円 | ー |
当期純利益 | ▲18億9,400万円 | ー |
2023年4月期 連結業績予想
売上高 | 36億5,200万円 | 前期比 142.4%増 |
---|---|---|
営業利益 | ▲16億9,400万円 | ー |
経常利益 | ▲16億6,400万円 | ー |
当期純利益 | ▲20億900万円 | ー |
*株主手帳9月号発売日時点