特集「不動産業界トップランナーに聞く アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。
今回は福岡市で創業し、全国の主要都市に拠点を展開、台湾にも支店を持つ株式会社アイケンジャパン代表取締役の中島厚己氏にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
2006年、株式会社アイケンホーム(現:株式会社アイケンジャパン)を創業。賃貸仲介会社とアパート販売会社での経験から、“入居者目線のアパートを建てる”ことがアパート経営成功の秘訣と確信。創業以来一貫した“決め物アパート経営®”により、堅実で安定した資産形成のサポートを行っている。著書には「新築アパート経営こそ副業の中の本業 成功の秘訣55」(幻冬舎)がある。
「誰もが借りたい部屋」をつくるという想いで起業
――アイケンジャパンについてお教えください。
アイケンジャパン代表取締役・中島厚己氏(以下、社名・氏名略):アイケンジャパンを創業するまで、私は福岡市内の不動産会社に勤務するサラリーマンでした。賃貸ショップから始まり、その後はアパート販売会社に転職し、途中から半分社員・半分独立のような立場で事業に関わるようになり、2006年8月に福岡市中央区でアイケンホーム(現アイケンジャパン)を設立しました。現在は投資用アパートの企画・販売がメインのビジネスで、設計・施工・管理も手がけています。本社は福岡と東京の2本社制で、熊本、広島、岡山、大阪、名古屋、仙台、札幌、台湾に支店・営業所を展開しています。
独立した理由は、入居者のニーズを無視した物件づくりに疑問を持ったからです。30年前福岡の賃貸ショップ時代から部屋を探すお客様に接してきましたが、風呂トイレが一緒、洗濯機置場もない12〜13㎡のワンルームといった、入居者のニーズに対してあまりにも的外れな物件がたくさんあることが不思議で仕方ありませんでした。後になって、「投資用物件」だと理解はしたのですが。
そうした経験からアパート販売会社に転職し、入居者のニーズに合う物件づくりを推進していきましたが、今度は「勝手なことをするな」と社内でにらまれ、居場所がなくなり、人間関係に悩まされることになりました。ならば、⾃分の理想を追求しようと独立の道を選んだのです。その甲斐あって、アイケンジャパンでは入居者に喜ばれ、入居率も収益も下がらないアパートづくりを実現できています。
業界トップ水準、99%超の入居率を維持
――「入居者に喜ばれる」とは、具体的にどういう物件でしょうか。
立地・間取り・設備すべてにおいて入居者のニーズを満たしており、そのうえで家賃設定も適正な物件です。
まず立地は、入居者にとっても、オーナー様にとっても生命線です。入居者が「ここなら住みたい」と思う立地は、オーナー様にとっても「ここなら失敗しない」「将来性がある」と確信いただける場所です。
主要駅から徒歩圏内、周辺環境の良さなど、厳しい基準をクリアしなければ仕入れ・販売することはありません。
建物についても、アパートの弱点といわれる防⾳性・遮⾳性の低さを、独⾃の対策によってRCと遜色ない水準まで⾼めています。例えば、一般的なアパートは部屋が横に並んでおり、隣の部屋との仕切りが壁一枚なので⾳が漏れやすいのですが、アイケンジャパンのアパートは住⼾間に水廻りや収納を配置することで防⾳性を⾼めています。上下階の⾳に関しても、試行錯誤の末実現できた独⾃の防⾳対策で遮っています。設備や防犯性、耐震、劣化対策にもこだわっており、建物が老朽化しても入居者が入り続けるアパートを目指しました。
▽アイケンジャパンの防音対策
立地、建物へのこだわりが功を奏し、アイケンジャパンのアパートの入居率は99.7%(2021年1月〜12月)と年間を通じて⾼い水準で、退去予定が出たらすぐに次の入居者が決まる状態をキープしています。そのため、サブリースやフリーレント、家賃の値下げなど、オーナー様の負担になりうる提案を行う必要がありません。
またアイケンジャパンでは、新築満室時の年間家賃収入想定(100%)に対して、実際にどれだけ家賃収入があったかを示す「収益稼働率」という独⾃の指標を追っています。例えば、事業計画の想定年間家賃収入が500万円の物件を購入し、5年後の年間家賃収入が300万円であれば築5年目の収益稼働率は60%となりますが、アイケンジャパンが手がけた築13年目までのアパートの収益稼働率は98.5%(2022年6月末時点)と、築年数が経っても収益がほとんど下がっていないことがわかります。これは、「土地選び、設計、物件づくり」すべてを徹底的にこだわり抜いているからこそ実現できます。
▽アイケンジャパンの収益稼働率
――賃貸物件に求められるニーズをすべて満たしているから空室に悩まず、オーナー様は安定的に運営できるということですね。
そのとおりです。賃貸仲介の世界には、本命・人気物件の「決め物(きめぶつ)」、引き立て役になる「当て物(あてぶつ)」という専門用語があります。賃貸仲介の営業担当者は、最初から決め物ではなく、まずは当て物を案内し、最後に決め物を見せて商談をまとめるというストーリーを描いてお客様に対応するケースがほとんどです。アイケンジャパンは決め物しか建てないので、当て物に使われることはありません。だからこそ、入居者に選んでもらえます。もちろん決め物のため、フリーレントや広告費の上乗せ等、オーナー様が金銭を負担する必要もありません。
▽アイケンジャパンのアパートの外観・内装
ここまでこだわる理由は、「失敗大家」を増やしたくないからです。販売会社が売上重視になると土地を⾼くても買い、部屋は狭いのに家賃は⾼い当て物をつくることになります。その結果、失敗物件や失敗大家を増やします。当社は、2021年12月にアパート販売棟数が累計1,000棟を超えましたが、それでも同業他社に比べるとのんびりしていますし、無理して売上を追いかけることもありません。土地の情報⾃体はたくさん入ってきますが、その土地の適正な設定家賃から逆算し、事業として成立する価格でなければ、決してその土地を仕入れることはありません。
また、例えば「田んぼの真ん中にある土地にアパートを建てたい」という地主様が相談に来ても、お断りするケースがあります。⾃社の分析結果によって失敗すると出ればおすすめできません。
――アイケンジャパンのアパートはどのような方が購入されますか。
2018年までは当社も1割くらいの⾃己資金を出せる年収500万〜600万円のお客様が多かったのですが、2018年以降においては、金融機関の審査が厳しくなり、⾃己資金は2割(1,500万〜2,000万円)、年収ベースでは800万円以上が求められるようになり、当社もそのような富裕層のお客様が多いです。富裕層の方同士は横のつながりがあるので紹介も多く、リピーターも少なくありません。2年前からは、金融機関から提携の話も持ちかけられるようになり、各エリアで業務提携を結んでいます。
アイケンジャパンのアパートを通じて業界を変えたい
――今後の目標・展望をお聞かせください。
不動産業界は未だにアウトローでブラックというイメージがあると思いますので、それを払拭したいです。そうしないと、業界の未来はありません。まずはアパートの建設や仲介、リノベーション、⼾建てのすべてを一手に引き受け、きちんとした仕事を継続できるグループ企業を目指します。そうなれば「アイケンジャパンに任せておけば安心」と言ってもらえるようになると思うので、そこから業界全体の未来を良いイメージへと変えるのが目標です。そのためには、アパート販売事業は引き続き堅実に、一方で昨年4月に設立した不動産売買仲介のATMリアルエステート、今年4月に子会社化した分譲住宅を手がけるイオスコーポレーションを通じて、仲介や⼾建ての事業を拡大したいと考えています。
業績は順調に伸びており、事業も拡大していきますが、上場はしないつもりです。一時期は考えましたが、上場すると売上を意識しなければなりません。そうなると、アイケンジャパンの良さが損なわれてしまいます。きちんとした仕事を継続するために、「上場しない」ことを選びました。
――資材⾼など、業界を取り巻く課題にはどのように対処していきますか。
アパートの販売価格は、必要最低限で上げています。大きく変えたのは、これまでは個々の協力会社に任せていた資材の購入を、アイケンジャパンが一元的に発注するようにしたことです。これによってスケールメリットが働き、柱や梁といった木材、外壁のサイディング、水廻りなどの設備の購入単価を下げられます。子会社化したイオスコーポレーション(分譲住宅)もアイケンジャパンと同じく在来工法(木造建築)なので、一括購入にすることでお互いにコストダウンを図ることができます。
――近年は、富裕層を中心に不動産投資に興味を持つ人が増えています。最後に、そのような方へメッセージをお願いします。
インフレが進むと、現金の価値は下がります。かといって、不動産投資に闇雲に資産を投じるのは危険です。国も「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、今年4月からは⾼校の家庭科で資産形成の授業が始まりましたが、そのような風潮に乗って勉強もせず不動産投資を始めるのはおすすめしません。こと不動産においては⻑い付き合いになりますので、信頼できるパートナー選びが肝要です。納得のいくまでご⾃身の目で見て、話を聞いたうえで、始めていただきたいと思います。