この記事は2022年10月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「都心部で拡大する「賃貸ラボ市場」」を一部編集し、転載したものです。


都心部で拡大する「賃貸ラボ市場」
(画像=naka/stock.adobe.com)

都市部で賃貸の研究開発施設(賃貸ラボ)の開設が相次いでいる。賃貸ラボは、創薬・製薬企業による細菌やウイルス、病原体等を対象とした研究などに利用されている。

かつては大手企業の多くが環境の良い郊外に自前の研究所を構え、「基礎研究→開発→製造→販売」という一社完結する部門統合の流れがイノベーションの主流であった。

しかし現在では、多くの企業が関連産業や競合他社、大学、研究機関などのリソースを活用する「オープン・イノベーション」を採用している。外部リソースへのアクセスが良く、集積の経済を得やすい都市部に研究施設を構えるニーズが強くなり、その受け皿として不動産会社などが賃貸ラボの供給を進めている構造だ。

米国のボストンやサンフランシスコ・ベイエリア、サンディエゴ、英国ロンドンのバイオクラスターでは、大手製薬会社やスタートアップなどのライフサイエンス系企業が集積している。加えて、大学や研究機関、病院、企業育成サポートなどによるイノベーション・エコシステムが形成されるなか、成長を支える基盤である賃貸ラボが不動産投資対象としての存在感を増している。

日本でも、再開発事業や既存オフィスビルのリノベーション、大規模物流施設内などで、民間事業者による賃貸ラボの開設事例が続いている。なかには、研究開発に適したスペース貸しだけではなく、設備のシェアやビジネスマッチング、人材・資金面のサポート、入居者同士や外部との交流支援サービス等を提供する事業者もある。

賃貸ラボは、初期投資の抑制や事業の迅速化、成長段階に適したスペースや設備への投資、他者との協業や撤退のしやすさなど、利用メリットが多くあり、スタートアップから中小・大手企業まで広く利用されている。新型コロナを契機としたバイオ産業への注目の高まりや、政府が掲げる成長戦略の第1の柱である科学技術立国の実現に向けた各種施策を追い風に、賃貸ラボ市場の拡大が見込まれる。

都心部で拡大する「賃貸ラボ市場」
(画像=きんざいOnline)

都市未来総合研究所 主席研究員/下向井 邦博
週刊金融財政事情 2022年10月11日号