この記事は2022年10月7日にSBI証券で公開された「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は?を一部編集し、転載したものです。

「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は?
(画像=SBI証券)

目次

  1. 「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は?
  2. 抽出銘柄のご紹介
    1. 近鉄グループホールディングス(9041)~コロナ禍による業績悪化から急速に回復中も株価は回復途上か?
    2. ANAホールディングス(9202)~航空会社最大手。コロナ禍発生以降、回復力強い。

「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は?

グローバルな株式市場はようやく反発基調を強めてきました。2022年9月末にかけ、インフレ・金利上昇を背景に、株価下落が加速していましたが、2022年10月に入り、米経済指標の一部鈍化もあり、インフレ・金利上昇懸念が後退しました。

ただ、ウクライナ・ロシアの戦争が終わった訳でも、インフレ懸念が解消した訳でもありません。米債券市場の「逆イールド」が示唆するように、米経済が本格的に悪化し、そのあおりで世界経済が悪化してくる可能性は強まっています。

実際、2022年9月26日(月)にはOECD(経済協力開発機構)が世界経済の成長率を引き下げました。グローバル経済の影響を受ける銘柄を中心に、日本株にも引き続き下落リスクが残っていることは確かでしょう。

ただ、OECDによると2023年の経済成長率は米国+0.5%、ドイツ-0.7%に対し、日本は+1.4%と相対的に底堅くなる見通しです。欧米に比べ、日本のコロナ禍からの経済再開は遅れましたが、経済再開効果が一巡した欧米と比べ、日本経済の本格的な再開は今後ますます本格化してくると思います。

こうした中、我が国の外国人観光客の受け入れに関する規制緩和は加速する方向にあります。政府は観光を除く1日当たりの入国者数上限を2022年3月1日の5,000人から段階的に引き上げ、6月1日には2万人に拡大。6月10日からは、添乗員付きのツアー客に限定し、およそ2年ぶりに外国人観光客の受け入れを再開しました。1日当たりの入国者数については2022年9月7日から5万人に拡大されました。

さらに、政府は2022年10月11日より、(1)1日当たり入国者数の制限撤廃、(2)個人観光客の受け入れ解禁、(3)短期旅行のビザ取得免除等を中心とする大幅な規制緩和の実施を決めています。国内旅行についても、同日より「全国旅行支援」なる旅行促進策を開始することになりました。

そこで、今回の「日本株投資戦略」は「インバウンド関連」について、値上がりが期待できる銘柄を抽出すべくスクリーニングを行ってみました。ここで注意しなければならないことは、インバウンド関連株の物色もある程度進み、業績の回復以上に株価が回復し、すでに割高感が出ている銘柄も増えてきたことです。「日本株投資戦略」が抽出を試みた銘柄は、業績の回復(予想)ほど、株価の回復が大きくない銘柄です。

スクリーニング条件は以下の通りです。

(1)東証上場企業
(2)時価総額1,000億円以上
(3)SBI証券Webサイトの銘柄検索ウインドウに「インバウンド」と入力し、出力される銘柄
(4)現在の株価(2022年10月5日終値)が、2019年終値に対して下げている銘柄
(5)直近四半期(3カ月)の営業増益が前年同期比で増益(黒字転換を含む)の銘柄
(6)予想業績回復率(下の図表B)が、株価回復率(同A)を上回っている……(B)-(A)>0%
*(A):株価回復率……時価(2022年10月5日終値)が2019年末値の何%かを示しています。条件(4)により、100%未満の数字となります。
 (B):予想業績回復率……来期市場予想営業利益が「2019年に決算期末を迎える年度の営業利益」の何%かを示しています。

下の図表の銘柄は、上記の条件をすべて満たしており、(6)の(B)-(A)の数字が大きい順に並べたものです。

「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は 「インバウンド関連株」~これから上昇期待の10銘柄は
(画像=SBI証券)

抽出銘柄のご紹介

以下、一部の銘柄について、ポイントをご紹介します。

近鉄グループホールディングス(9041)~コロナ禍による業績悪化から急速に回復中も株価は回復途上か?

■JR除く私鉄で最長の営業距離

当社は、近畿・東海の2府4県で鉄道事業を運営しています。その営業距離数は501km(単体・2021年3月末)と、JRを除く私鉄では日本最長を誇っています。

売上構成比(2022年3月期・調整前)は、鉄道を中心とする「運輸」が21.9%、「不動産」が25.5%、百貨店・ストア等の「流通」が25.9%、「ホテル・レジャー」が23.0%他となっています。

新型コロナウイルス感染拡大の影響は、2020年3月期および2021年3月期の当社業績に打撃を与え、営業利益へのマイナス影響額は、2020年3月期が161億円、2021年3月期が1,257億円に達しました。このため、当社全体の営業損益も2019年3月期の677億円の黒字から2021年3月期は621億円の赤字へと急減してしまいました。

上記したように、当社の売上高構成比は一見、均衡が取れているように見られます。しかし、新型コロナウイルスという感染症の流行下では、インバウンド需要や人の移動等の減少に対し、「運輸」のみならず、「流通」、「ホテル・レジャー」といった多くのセグメントが悪影響から逃れることはできませんでした。

2021年3月期における同感染症拡大の影響は、「運輸」で562億円となった他、「ホテル・レジャー」で532億円、「流通」で139億円等となっています。

業績の悪化を受け、株価は2019年11月の高値6,430円から2021年11月安値3,150円まで51%も下落しました。

■2023年3月期の営業利益は「コロナ前」(2019年3月期)を上回る可能性

当社は2021年5月14日に2021年3月期の決算発表を行い、前項で触れたように、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きく表れ、同年度の営業損益は621億円の赤字となりました。

そうした中、当社はこの決算発表とともに中期経営計画を発表し、
(1)コスト構造の抜本的見直し
(2)有利子負債の早期削減
(3)外部パートナーとの連携強化
(4)事業ポートフォリオの変革
(5)DXによる新規事業・サービスの創出
(6)地域の課題解決を目指したまちづくり等を重点施策としました。

2022年5月13日に当社は本決算を発表。2022年3月期は売上高については6,915億円(単純計算で前期比0.8%減)と、ほぼ横ばいでしたが営業損益は38.6億円の黒字への黒字転換を遂げました。第2四半期までは営業赤字が残りましたが、第3四半期に黒字転換しました。新型コロナウイルスの感染は続きましたが、基本的に経済は再開の方向となり、すべてのセグメントで損益が改善しました。

なお当社は決算発表と同時に子会社の近鉄エクスプレスをTOBにより完全子会社化すると発表。2022年8月10日(水)には当社の2023年3月期業績予想について、以下のように修正を発表しました。

売上高 8,670億円→1兆4,720億円(前期比112.9%増)
営業利益 300億円→620億円(同106.6%増)
純利益 270億円→760億円(同181.5%増)

TOBにより業績数値がかさ上げされる形ですが、国際物流に強い近鉄エクスプレスの取り込みにより、事業ポートフォリオは厚みを増すとともに、今後、世界貿易が回復すればその恩恵を受けることになりそうです。

市場では当社営業利益について、2023年3月期654億円、2024年3月期858億円と予想。TOB効果もあり、2019年3月期の677億円を上回る水準を見込んでいます。それに対し、株価は2019年末5,920円を下回る4,910円(2022年10月5日時点)にとどまっており、出遅れは修正される可能性もありそうです。

▽週足チャート(過去3年)

近鉄グループホールディングス(9041)
(画像=SBI証券)

データは2022年10月7日(週足) 09:20 時点。
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

▽連結業績(百万円)

近鉄グループホールディングス(9041)
(画像=SBI証券)

ANAホールディングス(9202)~航空会社最大手。コロナ禍発生以降、回復力強い。

■航空会社最大手。貨物事業が業績を下支え

航空事業を中核としたエアライングループで、時価総額・売上ともに空運業トップを誇っています。(2022年10月6日時点)

主力の航空事業は、直近決算(2023年3月期第1四半期)時点で売上高の76%を占めています。もっとも新型コロナによる業績悪化の煽りを受けていた企業であるため、売上高に対して同事業が占める割合は、前年同期には53%まで縮小していました。

航空事業での業績回復の背景には、行動規制や水際対策の緩和はもちろんのこと、ここもと世界的に旺盛な貨物需要がコロナ禍以来の業績を下支えていることが挙げられます。

次の四半期決算発表にあたる2023年3月期第2四半期の国際線貨物事業に関して、海運輸送の混雑緩和等から需給バランスが徐々に緩和に向かうと会社側は想定しています。ただ、半導体関連の商材が引き続き堅調に推移していることや欧米で港湾の混雑が解消されていないことを挙げ、第1四半期同様の単価水準は継続すると見通しています。

半導体関連に関しては関連企業を含め、世界的な景況感悪化を受け、発注キャンセルや見通し下方修正等が行われているため今後の動向にも注視したいところです。

■コロナ禍発生以降、回復力強い。今期会社予想は黒字

会社側は2022年8月1日に2023年3月期第1四半期決算を発表。新型コロナ流行前の2020年3月期第3四半期以降では、四半期ベースで初となる経常損益での黒字(43億円)計上となりました。

ただ、会社は黒字転換となった要因を前年同期の7.8倍、43億円の為替差益を計上したこと等によるものとしており、本業の稼ぐ力を表す営業損益は13億円の赤字でした。しかし、赤字幅自体は前年同期の646億円から約50分の1まで大幅に縮小しています。

同業である日本航空(9201)が同期間の決算発表で示した営業損益は301億円の赤字と、前年同期の768億から6割減の縮小にとどまりました。それゆえ、両社を比較すると、ANAの業績回復の力強さが目立った形です。

同決算にて会社予想の今期利益見通し(2023年3月期)は据え置きでしたが、コロナ流行後初の黒字転換の見通しとなっています。旅客の需要回復がどれだけ進むかが、今後の業績に大きな影響を与えると考えられます。

会社は国内線旅客の需要動向について2022年7~8月の見通しでは旅客数がコロナ前の8割で推移していると述べ、第3四半期以降に需要がコロナ前の水準まで戻る可能性が高いとの見通しを示しています。

国際線旅客は同決算にて旅客収入がコロナ流行前(2020年3月期第1四半期)の40%水準でした。会議等のオンライン化が進む中、コロナ前水準までは完全には難しいですが、業績の回復余地は残っている状態です。

今回のテーマであるインバウンドという観点からは、入国時の水際対策緩和と円安が好材料となりそうです。日本時間2022年9月23日にニューヨーク証券取引所で、岸田首相は10月11日から水際対策の規制緩和として、ビザなし渡航、個人旅行を再開することを表明しています。

また、各国通貨に対しての円相場の見通しは、日銀による金融政策の転換が起こらない限り、現在の円安水準圏での推移が続くとする見方が多いです。約24年ぶりの円安水準は外国人観光客増へ寄与することが期待されます。

次回の決算発表日は、2022年10月下旬を予定しています。

▽週足チャート(過去3年)

ANAホールディングス(9202)
(画像=SBI証券)

データは2022年10月7日(週足) 09:10 時点。
*当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
*上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

▽連結業績(百万円)

ANAホールディングス(9202)
(画像=SBI証券)

▽当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。東証プライム市場を中心に好業績が期待される銘柄・株主優待特集など、気になる話題についてわかりやすくお伝えします。

鈴木 英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長
・出身:東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味:ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技:どこでもいつでも寝られます
・好きな食べ物:サイゼリヤのごはん
・好きな場所:秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的な寄稿も多数