本記事は、荒木杏奈氏、木下勇人氏の著書『安定した資産運用を実現する はじめての海外不動産投資』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
海外不動産投資は新興国で始めよう
投資先の不動産価値が上がるかどうかは、国の経済成長にかかっています。経済成長の観点から見たときに、真っ先にスポットが当たるのは新興国です。
書籍やWebの記事を見ると、新興国と一括りにして説明されてしまいがちですが、新興国と言ってもさまざまな国があります。
150以上あると言われる新興国を1つずつ説明するのは難しいので、ここでは南米・アフリカ・東南アジアの3つの地域について説明します。どこが不動産投資先として優れているのか、それぞれの特徴を見ていきましょう。
南米への不動産投資
南米と聞くと、暖かい気候で陽気な人が多いイメージを浮かべるのではないでしょうか。南米はブラジルやアルゼンチン、ペルー、チリなどの12の国からなり、そこにメキシコを加えたものをラテンアメリカと呼びます。
南米を見ていく際に気をつけるべきは、国によってインフラの整備状況などが大きく異なっていることです。
ブラジルやアルゼンチンなどの主要国は、他の南米諸国と異なり、一定の社会インフラが整備されています。こう聞くと成長への条件をクリアしているように思われますが、実際には経済成長が止まっている足踏みの状態が長く続いています。
ブラジルやアルゼンチンは天然資源に恵まれているため、かつては農業生産を含めた資源の輸出などにより、中程度の所得水準は比較的短期間で達成できました。
しかし、さらに所得を伸ばすために必須な付加価値の高い産業の育成が上手くいっていないのが現状です。経済の構造転換に失敗してしまったと言えます。
もちろん南米の中にも成長が期待できそうな新興国はいくつもあります。
例えば、ペルーやコロンビアなどは国内でのビジネス活動を支援する政策をとっており、投資者保護の面で高い評価を得ています。
ラテンアメリカを投資対象として考えた際のデメリットは、物理的な距離が挙げられます。南米は地球の裏側に位置するため、何かあったときに駆けつけられる距離ではありません。また時差が12時間あるので、ラテンアメリカでは市場が活発に動いている時間帯は日本では夜なのです。
何かあったときに対処できない点を考えると、投資先としての魅力は少なからず下がってしまうことが考えられます。
アフリカへの不動産投資
続いて、アフリカについて見てみましょう。
アフリカは53の国からなる地域で、人口は10億人を超えます。なんと3,000以上の民族が存在し、1,000種類を超える言語が使われています。
法律やインフラなどの整備が進んでいないため、今でも民族間の内戦や貧困、飢餓などの問題に悩まされている国や地域も少なくありません。
また、アフリカでは一人当たりのGDPの順位が100位台の国が多いため、成長の余地は多くあるという見方もできます。
2050年には人口が約25億人まで増加することが予想され、世界の人口の多くを占めると言われています。その25億人の半数以上を若年層が占めているのも、成長が期待されている理由の1つです。
このように、アフリカの未来には大きな成長余地が約束されているのです。しかし、投資の対象として魅力的かというと疑問も残ります。
投資をしてから確実に回収できるまでに時間がかかる点が、アフリカ不動産投資のネックになっています。これは発展のための地盤がまだできていないことに起因します。
アフリカでは、学校教育を受けていない人も多くいます。そのため、法整備やインフラを進めていく前に、教育面の整備など根幹から作っていくことが必要です。社会の環境が整い、インフラなどの発達の土台ができて初めて国が発展していくのです。
もちろん、アフリカ諸国でも豊かになるにしたがい、消費が爆発的に増加することは確実ですし、石油や天然ガスの埋蔵量は世界の1割以上を占め、レアアース・レアメタルなどの稀少鉱物資源も豊富です。これらの埋蔵量で世界のトップ10に入る国がいくつもあります。
その点からも、アフリカの経済発展の今後は非常に興味を惹かれますが、現状では直接的な投資対象とするにはまだまだ早すぎるというのが正直なところです。
最後に、やはり日本から近く、すでに経済成長が始まっている、という点ではラテンアメリカやアフリカよりは投資しやすいと思います。みなさんが関心を持ちそうな国について、この後いくつか説明していきます。
エリアを見る際のチェックポイント
新興国投資おけるエリアの選定は、どこの国を選ぶにせよ、基本的には「首都」をおすすめしています。
先進国と違い、新興国というだけで投資環境は異なります。法整備なども未熟でコロコロと変わってしまうこともありますし、ローカルになればなるほどこの傾向が強くなります。
そのため、いろいろな面でしっかりしている「堅い」首都のほうが優れた投資環境と言わざるを得ないのです。
一方、首都の利回りが良くないからといって、リゾートエリアに目を付ける方も危ないので注意が必要です。自分で使い、少し収益が出せたら、といった気持ちで投資するならいいのですが、そうでなければリゾートへの投資はあまりおすすめできません。
なぜなら、リゾートエリアには一般的に雨期があるので、その間は観光客が来なくなります。その結果として利回りは落ちますし、場合によっては首都の物件の半分くらいを覚悟しなければなりません。
新興国のリゾート投資と言うと、工事の進行が首都に比べ圧倒的に遅いという点も忘れてはいけません。はじめに決めた工事期間内に工事が終わるということはまずない、と考えるようにしましょう。
投資家目線から見る東南アジア
東南アジア諸国の経済状況
何かとひとまとめにして紹介されがちな東南アジア諸国。
しかし、1人当たりGDPが上位の国があったり、人口が世界4位のインドネシアがあったりと、さまざまな特徴を持っています。
「人口増加の傾向にあり、経済の成長が見込める」 「日本からすぐに行ける距離にある」 「生活やビジネス習慣に類似点が多い」 「巨大化する市場と中間所得層の拡大」
このような点が、東南アジアに共通した特徴と言えます。
しかし、東南アジアには12もの国があり、経済状況は大きく異なります。
ここでは上の中から、1人当たりGDPが東南アジアトップのシンガポール、1人当たりGDPが3位で「東南アジアの優等生」と言われているマレーシア、東南アジアで人口が一番多いインドネシア、近年経済成長が注目されているラオス、今後の経済の伸びが期待されているカンボジアをピックアップして紹介していきます。
東南アジアのトップ……シンガポール
シンガポールは、東南アジア諸国の中で1人当たりGDPが断トツのトップで、全世界でも8位と、アメリカやスイスなどの経済大国と肩を並べるほどの国です。
しかし、昔からずっと経済的に優れた国だったというわけではありません。1950年代のシンガポールといえば、失業率が10%を超える、東南アジアの中でも貧しい町でした。政府の「強力な外資導入政策と経済発展を国の根幹に据えた国家づくり」が、この課題を解決に導いたと言われています。
シンガポール政府は税制上の優遇措置や、外資に対する出資比率の原則無制限など、自由度の高い外資導入政策の下、外資資本と技術の誘致を行っていきました。
その結果、シンガポールはさまざまな分野において地域のハブとしての地位を獲得したのです。
投資先として見たときには、ある程度経済が成熟しているため、経済の成長幅が縮小しており、かつてのような高成長は望めないと言わざるを得ません。
東南アジアの優等生……マレーシア
マレーシアは1957年にイギリスから独立した後、天然資源や農業を中心として経済発展をしてきました。その後、国主導で工業化を推進し、電気・電子産業を中心に製造業が発展して、現在のような経済成長を遂げています。
今後の経済成長のためには、高付加価値産業や知識集約型産業へのシフトが重要な課題になってくるといった意見もありますが、経済成長や法整備の観点から見たときにはおすすめの投資先と言えます。
しかし、外国人がマレーシアで購入できる不動産は100リンギット(日本円で約3,000万円)以上に限られるという法律があることに注意しなければなりません。
州によっても法律による規制が細かく決められていて、物件購入時には州政府からの許可が必要など、条件の厳しい不動産投資になってしまうのは頭に入れておくことが大切です。こうした点は専門家のアドバイスを受けておくようにしましょう。
東南アジアの人口大国……インドネシア
インドネシアは東南アジア最大の人口を誇り、GDPは域内のおよそ40%を占める東南アジアきっての大国です。
経済発展の原動力となってきたのは、石油や天然ガスを代表とする豊富な天然資源の輸出で、モノカルチャー型の経済がインドネシアの特徴となっています。
人口は世界第4位で、国民の平均年齢も28歳と若いため、日本では1995年前後に終了した人口ボーナス期を、インドネシアはこれから迎えるのではないかと期待されています。労働世代の人口も多く、自国の資源も豊富とあれば今後も安定した経済成長を見込めそうな気がします。
しかし、インドネシアにも問題はあります。それはインフラが貧弱という点です。
インフラは「経済発展のアキレス腱」と言われるほど経済の成長において欠かせない要素です。インフラ上最も問題視されているのが、首都圏の激しい交通渋滞です。
首都ジャカルタでは、都市鉄道や高架鉄道など公共交通機関の整備が進んできていますが、依然としてジャカルタと東部の工業団地をつなぐ高速道路の渋滞は解消されていないのが現状です。
政府は将来的な対策を進めていますが、本格的な経済的発展を迎えるのはやはりインフラが整ってからになってしまうのではないかと考えられています。
東南アジアの注目株……ラオス
近年の経済成長の好調さで注目されているのが、以前インドシナ半島の最貧国として知られていたラオスです。
ラオスはタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、中国に囲まれた内陸国で、国民の大半が自給自足の農業に従事しています。
本格的な経済成長への傾向が表れてきたのは、タイ・プラス・ワン(タイに集積している事業工程のうち、労働集約的な工程を、タイよりも労働コストが安価で労働人口の確保が容易に見込めるミャンマー、カンボジア、ラオスに移管させる動きのこと)が明らかになって以降、特にタイでの人権費高騰が引き金となったとも言われています。
同時にベトナムからの生産移転の動きも見られ、その結果、首都ビエンチャンに限らずメコン川中流域の都市などでの両国との生産分業体制が組まれています。
また、ラオス最大の特徴は政治体制の安定でしょう。これは、ラオスがベトナムと並ぶ共産党の一党支配体制を維持する社会主義体制だからでもあります。
しかし、投資先として考えたときには法制度の未整備と人口の問題が挙げられます。
法制度は近年できあがってきているのですが、それを活用・運用できるだけのノウハウが蓄積されていません。人口はタイの10分の1、ベトナムの13分の1と人材確保の困難から、賃金が急騰することも予想されます。
シンガポールを模倣する国……カンボジア
東南アジアの中で経済の成長株として期待されているのが、カンボジアです。その理由は、カンボジア政府がシンガポールを目標に政策を進めているからです。
シンガポールは”外資流入政策”によって、今のような経済大国になったことはお話ししましたが、カンボジアも外資流入政策を模倣した政策を現在推し進めているのです。
海外企業がカンボジアに進出するときに外資100%で会社を設立でき、送金に規制を掛けないなどの政策に力を入れているのです。その結果、外資企業を呼び込むことに成功しています。
法人税が安かったり、米ドル圏のため為替手数料がかからなかったりと、シンガポールがリーマンショックで急成長できたのと同じように、経済的なポテンシャルを持っているのがカンボジアの特徴です。
しかし、独裁政治の過去もあり、歴史的な背景から政治的な懸念事項があります。
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