ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択するうえで投資家のみならず大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となってきている。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、TOTO株式会社ESG推進部の青野拓氏にお話をうかがった。

TOTO株式会社は、福岡県北九州市に本社を構えるトイレなど衛生陶器をはじめとする住宅設備機器などの製造販売を手がける国内を代表するメーカーだ。日本の陶器産業を代表する森村グループの一員で衛生陶器やウォシュレットなど水回りの商品は、日本のみならず海外でも広く流通している。

そんな同社は2021年度に長期的に実現したい暮らしや社会・環境を明確化した「新共通価値創造戦略TOTO WILL2030」を新たにスタートした。「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」をマテリアリティに特定し経営とCSRの一体化に取り組んでいる。本稿では、環境面を中心に詳細や現状の課題、進むべき未来像についてインタビューを介して紹介していく。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

TOTO株式会社
青野 拓(あおの たく)
――TOTO株式会社 ESG推進部 部長
1990年、東陶機器株式会社(現TOTO株式会社)に入社。新事業企画、品質管理、マーケティング、CSR、経営企画などの部門を経て2015年より現職。TOTOグループのCSR・環境活動を統括している。「新共通価値創造戦略 TOTO WILL2030」のもと「TOTOグローバル環境ビジョン」を推進することで「社会・地球環境問題への貢献」を目指す。

TOTO株式会社
1917年に福岡県北九州市で日本陶器合名会社(現:株式会社ノリタケカンパニーリミテド)から独立して東洋陶器株式会社を創業。創立者である大倉和親氏の「健康で文化的な生活を提供したい」という信念のもと衛生陶器製造に着手。2017年には創立100周年を迎えた。

戦後には、衛生陶器だけでなく水栓金具やシステムキッチン、温水洗浄便座(ウォシュレット)など水回り総合メーカーになるべく1970年に東陶機器株式会社へ商号変更。創立90年を迎えた2007年にTOTO株式会社へ変更し現在に至る。近年は、2030年に向けた新共通価値創造戦略「TOTO WILL2030」を掲げ世界中にTOTOファンをつくる活動を推進している。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役
1975年6月21日生まれ。埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため家族とともに東京から鳥取にIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容は、システム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」運営など多岐にわたる。

目次

  1. TOTO株式会社のESG・脱炭素に向けた取り組み
  2. TOTO株式会社が考える脱炭素経営の社会・未来像
  3. TOTO株式会社のエネルギーの見える化への取り組み

TOTO株式会社のESG・脱炭素に向けた取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):弊社は、鳥取県に本社を構えるIT関連の会社です。最近は、再エネ関連のシステムにも取り組んでいましてお取引先の90%は首都圏の上場企業です。地方の企業としては、少し変わっているかもしれません。本日は、御社のお取り組みを勉強させてください。

TOTO 青野氏(以下、社名、敬称略):TOTOのESG推進部を担当しています青野です。弊社の本社は、福岡県北九州市の小倉にあり、2022年で創立105年目を迎え住宅設備を中心とした製造販売を行っています。私どものESG推進部門は、環境などCSR全般、サステナビリティを統括している部門です。

1970年代から環境を取り扱う部門があり、2004年にCSR推進部、2011年にESG推進部となり、より幅広くサステナビリティまでカバーするようになりました。本日は、よろしくお願いします。

坂本:御社は、以前からESGに積極的に取り組み、2021年には「新共通価値創造戦略TOTO WILL2030」を策定しました。脱炭素に対する施策も進めているとのことですが、これまでの成果やビジネスへの影響についてお聞かせください。

青野:弊社は、創立者である大倉和親の「健康で文化的な生活をしたい」との強い信念から1917年に創立した会社です。当時の日本では下水道は普及しておらず水洗トイレもない時代でしたが、大倉和親が仕事で欧米視察に出かけた先、真っ白で清潔な衛生陶器を目にし「日本でも普及させたい」と考え事業を立ち上げました。

初代が2代目社長に送った書簡のなかに記された「どうしても親切が第一、良品の供給、需要家の満足がつかむべき実体で、その実体を握り得れば、結果として報酬という影が映る」との言葉は、経営理念の根幹です。現代でいうところのESGやサステナビリティに通じるものと考えていて、これを受けて企業理念の実現に向けては「きれいと快適」「環境」「人とのつながり」とという3つのマテリアリティを特定。これをもってSDGsに貢献するとしています。TOTOグループは、2050年にカーボンニュートラルで持続可能な社会の実現を見据え、2030年に「持続可能な社会」「きれいで快適・健康な暮らし」の実現を目指す、新共通価値創造戦略 TOTO WILL2030を2021年4月に策定しました。 経営とCSRの一体化に取り組み、地球環境に負荷をかけずに豊かで快適な未来社会を実現するとともに、経済的成長の実現を目指します。

「カーボンニュートラルで持続可能な社会の実現」においては、外部認証であるSBT(Science based targets:企業が定めるCO2排出削減目標)に基づく目標を設定しています。製造段階においては、省エネや大型設備の改善、再エネ導入、商品使用時のCO2排出削減としては、環境性能を進化させた「サスティナブルプロダクツ」の普及を進めています。

坂本:サスティナブルプロダクツとは何でしょうか?

青野:サスティナブルプロダクツとは、「きれいと快適・健康商品」と「環境商品」を両立する商品群のことを指します。これらの商品をグローバルで普及させることにより、地球環境に配慮した豊かで快適な社会の実現に貢献したいと考えています。2020年時点の商品構成比69%から2030年には78%まで引き上げる目標があります。

▽サステナブルプロダクツの概要

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(画像提供=TOTO株式会社)

坂本:先ほどご紹介いただいた3つのマテリアリティに対する具体的な施策もお聞かせください。

青野:「きれいと快適」では、すべての人の使いやすさの追求としてユニバーサルデザインを進め、ウォシュレットやクリーンシナジー、タッチレスなどクリーンで快適な生活を実現する「TOTO CLEANOVATION」(“CLEAN“と”INNOVATION”を組み合わせた造語)の具体化を行っています。

坂本:TOTO様といえば、ウォシュレットが大変有名で、人気もありますよね。

青野:日本の大都市部の水洗化率は、ほぼ100%です。これを追いかけるように温水洗浄便座の普及が進み、一般世帯普及率は80.3%(2021年)。これは、日本におけるトイレの快適性を示す一つの指標だと思っています。ユニバーサルデザインに関しても基準を設け、商品開発のなかで評価をし実現に取り組んでいます。

日本は、環境面で比較的、水資源に恵まれていますが、水不足によりトイレの洗浄水量に規制がある国・地域もあり、弊社では、従来から水洗トイレの節水化に取り組んでいます。かつて1回の洗浄で20リットル使っていたのが、13リットル、8リットル、6リットルとなり、最新のものでは3.8リットルにまで減らすことができました。こういった節水トイレの比率も高まっています。

▽節水性能の進化(日本)

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(画像提供=TOTO株式会社)

「環境」において、カーボンニュートラルに対しては、TCFDやSBT、RE100(Renewable Energy 100%:事業活動で消費するエネルギーを100%再エネで調達することを目指す国際的なイニシアチブ)にそれぞれ賛同・加盟。SBTにおいては、事業所からのCO2総排出量を2030年度までに2018年度比30%削減、商品使用時のCO2総排出量は同15%削減という目標に向けさまざまな施策を打っています。

例えば、製造段階においては、省エネや、燃料転換を行ってきましたし、再エネの導入も進めています。また近年は「サーキュラーエコノミー」という言葉もありますが、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組みとして再生材のプラスチックの使用も進めています。

坂本:再エネの導入は、具体的にどのような形で進めておられるのですか?

青野: 2022年時点では、約15パーセントで、2040年には100%を目指し、前倒しも検討しています。具体的に工場の屋根に太陽光パネルを設置するケースはありますが、電力会社の省エネメニューが中心となります。

またカーボンニュートラルは、弊社単独で実現できるものではありません。再エネの活用や上下水道などのインフラの脱炭素化、ZEB(Net Zero Energy Building:一次エネルギー収支ゼロを目指した建物)やZEH(Net Zero Energy House:エネルギー収支をゼロ以下にする家)の進展など、世の中の変化と足並みを合わせながら進めたいと考えています。

坂本:ありがとうございます。その他のESGや脱炭素の取り組みについてもお聞かせください。

青野:弊社の事業そのもので貢献するのが難しい領域に対して行っているのが、2005年から始めている「TOTO水環境基金」です。国内では生物多様性の保全、海外では衛生的で快適な生活環境作りなどを行う団体の活動をサポートしています。

▽TOTO水環境基金のしくみ

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(画像提供=TOTO株式会社)

坂本:とても有意義な取り組みですが、どういった仕組みになっていますか。

青野:お客様にご購入いただいた節水商品による節水効果や株主様の株主優待制度による寄付、TOTOグループ社員によるボランティア活動の参加人数などをもとに算出し、さらにTOTOがマッチングすることで決めています。ステークホルダーの方々の環境貢献へのかかわりが増すほど水環境基金の助成金が増える仕組みです。これまで日本や海外ではアジア・アフリカを中心に17ヵ国、のべ292団体(2022年時点)を支援してきました。

3つ目のマテリアリティ「人とのつながり」においては、3つの取組みを進めています。1つ目は「お客様と長く深い信頼を築く」としてお客様に安心してご購入いただくためのショールームでの提案、コールセンターやアフターサービスの提供。2つ目の「次世代のために、文化支援や社会貢献を行う」では建築や芸術、スポーツなどの活動を支援するとともに社員のボランティア活動への参加を促進。3つ目「働く喜びを、ともにつくり、わかち合う」では、ワークライフバランスやダイバーシティ、人権への配慮を取り上げています。

TOTO株式会社が考える脱炭素経営の社会・未来像

坂本:来るべき脱炭素社会において、御社はどういった役割を担うべきとお考えですか。

青野:より多くのお客様に、サスティナブルプロダクツをお使いいただきたいと思っています。「きれい」「快適」「健康的な商品」といった創業時の想いである「健康で文化的な暮らしの実現」を環境配慮と同時に推し進めることが、脱炭素社会における弊社の役割だと考えています。

例えばトイレであれば、掃除がしやすい「フチなし」、少量の水で洗い流せる「トルネード洗浄」、独自の防汚技術の「セフィオンテクト」。お風呂においても保温効果が高い「魔法びん浴槽」や、浴び心地は変わらず節湯を実現したシャワーなど、給湯のエネルギーを減らすことができる商品などがそれにあたります。これらを一般住宅はもちろん、駅やオフィス、空港など幅広い場所で広げていくことでカーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

▽TOTOの「トルネード洗浄」

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(画像提供=TOTO株式会社)

坂本:御社は、ESGや脱炭素に対する取り組みをホームページなどで積極的に公開していますが、各企業がこのような取り組みをする場合、どのような心掛けが必要だと思われますか。

青野:さまざまな取り組みを進めることと、その情報を開示することは、同じくらいの重要性があると思います。弊社であれば企業理念の実現に向けマテリアリティを特定して各施策を進めていますが、その際は普遍的な企業理念を現代に合った形で解釈し具体策を展開することが求められるでしょう。近年でいえばSDGsを十分に理解することで取り組みの内容も具体化できます。

さらに指標などを使い情報をわかりやすく開示することで、的確なフィードバックが得られ、ヒントや気づきを取り組みに反映するサイクルが生まれます。施策とコミュニケーションの両輪を回し、ESG・サステナビリティを推進しているということになります。ちなみに坂本社長は、さまざまな企業の取り組みをご覧になっていると思いますが、どのように感じていますか?

坂本:弊社も2021年11月に鹿島建設と資本提携し、ビルのエネルギー監視などスマートシティに対する取り組みを始めました。ただしまだ議論の段階であるのが現状です。エネルギーの見える化や脱炭素への取り組みの深さは、千差万別といえます。あまり進んでいないところもあれば環境に敏感なZ世代へのアピールを考える飲食チェーンやメーカーがあることも事実です。

TOTO株式会社のエネルギーの見える化への取り組み

坂本:脱炭素を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組まれていますか。

青野:弊社では、何かを改善する際に現状把握から始めます。そこから分析、すべきことを整理したうえで計画に落とし込むのです。また指標をもとに改善効果を把握し、次の現状把握につなげるPDCAサイクルを回しています。エネルギーに関しても同様で、ESG推進部が事務局で、社長が委員長となるCSR委員会がサステナビリティ全体を統括していますが、その構成組織であるエネルギー対策部会が国内外各拠点のエネルギーを管理しています。ここでは、毎月集計したデータを分析し同じく改善に向けてPDCAを回しています。先ほど挙げたCO2排出量削減目標も1つの指標で分解してくと事業別・拠点別の消費エネルギーになりますから、こういった数字を用いながら一連の取り組みを行っています。

坂本:スコープ3に関しては、サプライチェーンを含めてCO2排出量を把握することが必要になります。御社の場合は、配送会社やゼネコンなど多数の企業が関わっておられることから各社の算定がダブルカウントやトリプルカウントになることが課題かと思いますが、その辺りはいかがでしょうか。

青野:そうですね、課題は感じています。現状は、環境省から出ているガイドを参考にGHGプロトコルを参照したり、先行している企業の開示内容を勉強したりしています。

坂本:どの会社も同じ壁に直面している状況です。弊社は、スコープ1、2を自動取得してCO2排出量を自動計算するシステムを提供していますが、今後スコープ3に対象を広げるなかで基本的な答えはまだありません。最終的には、業界ごとに基準を決め国に認めてもらうようにしないとダブルカウント・トリプルカウントもなくならないと思います。 加えて海外も国ごとでデータの出し方などが異なり、それらを合わせていくのは至難の業です。おそらく2050年に近づくにつれて世界基準も定まってくるでしょう。

青野:気になるところはたくさんありますが、現在できることをひとつずつ、進めていきたいと思います。

坂本:昨今は、ESG投資が機関投資家・個人投資家から注目されています。その観点で御社を応援する魅力をお聞かせください。

青野:投資家の方々とコミュニケーションを取るなかでお伝えしているのは、弊社にとってサステナビリティ、ESGは創立以来「事業そのものである」ということです。近年は、SDGsやカーボンニュートラルについての関心が高まっていますが、ご説明していることは従来から大きく変えていません。

お客様や社会のために健康で快適、環境に貢献する商品が、事業の成長につながることに変わりはなく、弊社をご理解いただき投資いただくことが環境貢献にもつながる、とご理解いただけるように、コミュニケーションを継続していきたい思っています。

坂本:本日のお話で創業時からESGやSDGsに取り組み、現在も手綱を緩めずに推進していることがわかりました。ありがとうございます。