「五感が活性化」する体験をする

日本には古来より、座学としての「学び」以外に、五感をフル活用した「体験型学び」という立派な文化があります。

例えば和歌・短歌・俳句など。一例として俳句を見てみると、皆さんもよくご存じ、夏井いつき先生が俳句普及に見事な力を発揮されています。この俳句は、実に素晴らしい脳のエクササイズですね。

僕自身は普段は俳句をやらないのですが、TV番組の収録などで、急に「俳句を10句つくってくるように」という宿題を出されることもあります。

季節を表す膨大な季語に、日々感じる体験や感情や出来事をわずか文字に託す世界最高にミニマムな文学、それが俳句です。先ほどツイッターの140文字という少なさが脳トレになると話しましたが、俳句はそれ以上ですね。

香道もまた、難しくも見事な芸術です。主に東南アジアで産出される貴重な香木の種類などの知識を蓄え、歴史や物語を知り、作法を極めつつ、香りを聞き(聞香)、日本文学の素養や、立ち居振るまいもすべて求められる究極の「遊び」兼「学び」です。

そのほか、茶道や華道、書道なども、他国では類を見ない、五感と教養を駆使した総合的教養です。

日本人が「道」と名をつけてきたこれらの教養は、すべて「遊び」と「学び」が渾然一体となったもの。僕たち日本人は、昔は「遊び」にも「学び」にも優れたセンスを発揮してきた国民なのです。

現代版の、「体験型学び」もあります。

その一例が、「ダイアローグ・イン・ザ・ダーク」です。ドイツ人哲前学者のアンドレアス・ハイネッケ氏が発案したこの「体験型エンターテインメント」は、現在50か国以上で展開されており、日本でも20年以上の歴史を持っています。

完全に外界から閉ざされた漆黒の闇の中で、体験者は白杖を持ち、冒険していきます。アテンド役は視覚障碍者の方々。普段、目が見えることが当然の僕たちの脳は、視覚情報処理に多くの労力がつぎ込まれています。

その視覚情報が遮断されたとき、脳の中では何が起こるか……。物理的に、特定の感覚を遮断し、別の感覚を研ぎ澄ませる体験、それがダイアローグ・イン・ザ・ダークなのです。

普段、脳内で処理される情報のうち、9割程度が視覚情報であるとも言われています。その視覚情報が遮断されたとき、僕らの脳内では、想像もつかない大変革が起きています。

触覚・嗅覚・聴覚・イマジネーションがフル回転し、自分にはこんな素晴らしい能力が備わっていたのかと本当に驚きます。と同時に、自分の内面に深く潜り込んでいく感覚や、同行者との心の触れ合いが感じられます。

これまで体験したことのない喜びと感動は、「この暗闇の時間が終わってほしくない」というような、なんとも不思議で温かい感覚を味わわせてくれます。

脳の神経細胞は「初めてのこと」に非常に強く活発化します。

しかし、2度目、3度目となるとどんどん低下していってしまいます。だからこそ、「脳を飽きさせない・初めてのことを体験させる」ことが、何より脳神経細胞の活性化に大切な要素であることを覚えておいてください。

「年を取ったから、物事に感動しなくなったよ」という人は、もしかしたら、「初めてのこと」にもはや遭遇しなくなっているからではありま前せんか。

確かに経験値が高いのがシニアの強みです。酸いも甘いも嚙み分けてきたからこそ、もはやどんなことが起ころうと驚かない。感動しない。でも、「初めて」のことには、きっと何歳だろうと感動すると思うのです。

どうぞ、自分にとっての「初めて」を探してみてください。

「初めて」を体験することで、あなたはご自身の新たな一面を発見するはずです。

70歳になってもボケない頭のつくり方
茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年東京都生まれ。脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部を卒業後、同大学院理学系研究科物理学専攻課程を修了。博士(理学)。「クオリア(意識における主観的な質感)」をキーワードとして、脳と心の関係を探求し続けている。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞受賞。

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