出店する地域に「資産運用の文化」を根付かせたい ―― 株式会社Fan 代表取締役 尾口紘一氏(前編)

富山県に本社を構える株式会社Fanはインターネット集客のノウハウを強みに企業規模を拡大してきた。近年は金融機関との店舗の共同運営も行い、今後は商業施設内への出店を予定するなど、積極的に店舗展開を進めている。出店地域に資産運用の文化を根付かせることを1つの目的とし、資産運用に興味がない人にも興味を持ってもらえるようなオンラインセミナーや金融教育を仕掛ける。同社の代表取締役である尾口紘一氏に、IFA法人として起業に至るまでの思いや起業後の顧客獲得方法などについて話を聞いた。

株式会社Fan 代表取締役 尾口紘一氏
尾口 紘一(おぐち ひろかず)
株式会社Fan代表取締役。日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に新卒FAとして入社、資産コンサルティング業務に従事。2008年に富山県でFanを設立。資産運用を気軽に相談できる『投資信託相談プラザ』を全国に展開。自身も講師を務める資産運用セミナーは延べ3万人以上が参加。

地元の富山で起業したかった

―― ご自身のキャリアや、御社を設立するまでの経緯について簡単に教えていただけますか?

大学生の頃、同級生(株式会社Fan 取締役 経営企画部長 山本真也 氏)と共に「起業したい」と考えていたこともあり、ホームページ制作などを行いつつ学生生活を送っていました。しかし、なかなかマネタイズできなかったという現実もあり、大学卒業後(2005年)に大手証券会社へ就職、山本はWeb関係の企業へ就職しました。

わたしが証券会社を選んだのは、「FA職」として歩合制の働き方ができる環境にあり、異動もなかったので、「顧客と長期的な関係性を築ける」という点に魅力を感じたからです。会社のイメージがよかったのも理由の1つです。将来的に起業したいという思いが強かったので、「地元の富山で顧客を開拓することが将来のビジネスにつながるのではないか」という期待もありました。

その後3年ほど証券会社に在籍していたのですが、ある時「大手ネット証券がIFAに参入する」というニュースを目にし、「今後はIFA業界が拡大するのではないか」と思いました。それがきっかけでIFAとしての起業を決意し、2008年12月に地元の富山で当社を設立、現在に至ります。

―― 2005年に証券会社へ入社されたとお伺いしましたが、当時の状況について印象に残っていることはありますか?

電話営業をするとお客さまに嫌がられることが多かったのですが、少しでも話を聞いてくれる人のお宅に訪問するなどして、なんとか顧客を開拓していました。当時はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国など)に関連する金融商品をお客さまにご提案していた。

また、わたしが在籍していた証券会社では「個人向け国債」の人気が高かったことを覚えています。「貯蓄から投資へ」という流れがあった中で、会社としてはいきなり株式などの高リスク資産を紹介せず、まずは債券のような比較的安全性の高い商品を紹介するという方針がありました。その時の経験が当社の礎になっている側面もありますね。

―― 2008年12月に御社を設立されたとのことですが、設立に至るまでの思いなどを教えてください。

歩合制で働いていると、相場状況などによっては大きな収入を得られることもありましたが、同時に「個人で稼ぐことの虚しさ」も感じていました。そのような中、当時フットサルのミックスチーム(男女混合)を作ったのですが、次々と仲間が増えて50人くらいの人が集まったんです。多くの仲間と1つの目標に向かって進むことの面白さを肌で感じたこともあり、「できれば会社もこのような形でやりたいな」という思いがありました。

また、わたしが証券会社に在籍していた時に「ネット証券」の口座数が伸び始め、金融リテラシーが高い人は自分で取引を行うケースが増えていました。手数料体系も大きく異なるので、「高い手数料に見合った付加価値を提供できていないのでは」と感じるのと同時に、ネット証券の規模は飛躍的に拡大していくだろうと思いました。

その一方で、金融リテラシーが低い人をサポートする必要性が増すのではないかとも考えていました。資産運用に興味がない人にも興味を持ってもらえるようなセミナーや金融教育を仕掛けていったほうが会社としての成長や資産運用が当たり前になる世界を作ることにつながるのではないかという思いがありました。

「ネット証券の口座開設サポート」をきっかけに顧客を獲得した

―― IFA法人を立ち上げられて、どのようなことに苦労しましたか?

さまざまな苦労がありましたが、最も大変だったのは提携している証券会社から「電話営業を禁止されたこと」ですね。当初は電話営業をする際に、大手ネット証券(所属金融商品取引業者)のIFAであることを説明していたのですが、IFAという言葉が認知されていなかったため、お客さまが詐欺だと思ってしまったのです。

証券会社にもお客さまから問い合わせが行ったことから、「電話営業をやめてください」と言われました。当時はどのように顧客を開拓すればよいのか分からず、途方に暮れてしまいました。今でこそ新聞社などから広告掲載のお話が来ますが、当時はセミナーの告知をするのも難しかったので、新規開拓の手段が限られていました。

―― 電話営業ができなくなり、どのように顧客を獲得していったのでしょうか?

当時はネット証券で口座を開設する人が増え始めた頃で、投資初心者にもその流れが広まっていきました。しかし投資初心者にとっては口座開設用紙の記載方法が難しく、「専門用語が分からない」「記載方法が分からない」といった悩みを持つ人が多かったのです。

実際にわたしが証券会社で勤務している時もお客さまに(口座開設用紙の)記載方法を説明しながら必要事項を記入していただきましたが、たとえば「特定口座の源泉徴収」や「配当金の受け取り方」といった分かりにくい項目も多く、自分で理解して記入できる人は少なかったわけです。

そこで当社は「ネット証券の口座開設サポート」を前面に打ち出しました。すると徐々に口座開設に関する問い合わせが増え、そこから投資相談につながっていきました。

インターネット集客のノウハウを自社の集客に活かした

―― インターネットでの集客が中心だと思うのですが、会社としてはそのあたりのノウハウをお持ちだったのでしょうか?

起業した当初は富山という限られたエリアで顧客開拓をしていたのですが、思うようにお客さまが増えませんでした。幸い会社として、インターネット集客に関するノウハウはあったので、その間はWebサイト制作を請け負っていました。クライアント企業から「インターネットでの集客が好調です」とお声がけいただくこともあり、良好な関係性を築けていたと思います。

ただ、わたしは「この集客ノウハウを本業である資産運用アドバイスのマーケティングに活かしていくべきではないか」と思い、それまでWebサイト制作に向けていたリソースを見直すことにしました。クライアント企業との関係を考えれば苦渋の決断でしたし、会社としては最もつらかった時期でもあります。当然、社員からは反対の声が上がりました。結果的にインターネット経由での顧客獲得につながったので、その時の決断があったからこそ今があると思っています。

―― これまではインターネット集客で成果を上げてこられたとのことですが、今後の顧客獲得戦略について何かお考えはありますか?

当社は全国に9店舗あるので、その店舗自体が集客力を持つ必要があると思っています。その一環として、佐銀キャピタル&コンサルティング(佐賀銀行の100%子会社)と店舗の共同運営を行い、サービスを広める活動を行っています。今後は富山駅前に新しくできた商業施設内に出店することも決まっているので、現在はその準備を進めているところです。

商業施設内に出店する店舗にはアドバイザーが常駐していますので、個別相談を行うことも可能です。お客さまが立ち寄りやすいように、投資に関する豆知識が記載された回転パネルや、大手ネット証券の特徴を記載したボードなどを設置する予定です。

顧客獲得だけが目的ではなく、出店地域に資産運用の文化を根付かせることも目的としています。商業施設内に出店する取り組みが軌道に乗るようであれば、他の店舗にも広げていきたいと思っています。