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デリバティブ取引所はヨーロッパ、アジア、アメリカ各国にあり、取り扱っている資産も様々です。この記事では、日本と世界のデリバティブ取引所の特徴と、今後、日本のデリバティブ市場がさらに活性化するためにはどうすればいいかについて解説します。

1. 日本のデリバティブ取引所

デリバティブ取引所は公益と投資家保護の観点から、取引が公正かつ円滑に行われるように運営されています。取引所の基本的な機能は、多数の注文を市場に集約することで、公正な価格を形成することです。形成された価格は経済活動の重要な指標となります。また、安全な取引のためには、流通市場が十分に機能している必要があります。環境整備は市場の利便性を高める上で極めて重要です。

それでは、日本の主なデリバティブ取引所を紹介します。

大阪取引所

原資産主力商品
株価指数日経225先物、日経225オプション
債券債券先物
個別株式有価証券オプション
金属金先物
農産物とうもろこし先物

大阪取引所は日本取引所グループの子会社で、市場デリバティブ取引を行う金融商品取引所です。大阪取引所の前身は大阪北浜にあった「大阪証券取引所」で、かつては有価証券取引の市場形成と投資家の保護を主な活動目的としていました。2014年に所名を「大阪取引所」に改称し、東京証券取引所のデリバティブ市場を統合しました。現在では、日本最大のデリバティブ専業取引所です。

東京商品取引所

原資産主力商品
エネルギー原油先物、電力先物、LNG先物

東京商品取引所は株式会社日本取引所グループの子会社で、原油先物、電力先物、LNG先物などを取り扱っています。

東京金融取引所

原資産主力商品
金利ユーロ円3カ月金利先物
為替くりっく365(FX)
株価指数クリック株365(CFD)

東京金融取引所は、東京都千代田区丸の内にある日本の金融商品取引所の1つで、金融商品取引所の清算機関でもあります。個人投資家には、外国為替証拠金取引「くりっく365(FX)」や、株価指数取引の「くりっく株365(CFD)」の取引所としてが有名です。

2. 世界のデリバティブ取引所

世界の主な取引所について解説します。

CMEグループ(米国)

主な原資産は、株価指数、金利、エネルギー。

CMEグループは、米国イリノイ州シカゴに本拠を置く大手デリバティブ取引所企業で、CME、CBOT、NYMEX、COMEXの4つの主要取引所を運営しています。これらの取引所は、指標となるベンチマーク商品、地域別の成長商品など、あらゆるアセットクラスにおいて幅広い商品を提供しています。また、CMEグループは、先物・オプション取引への接続を世界に提供する電子取引プラットフォーム「CME Globex」(グローベックス)を運営、シカゴ・マーカンタイル取引所およびニューヨーク商品取引所と業務提携を結び、世界中の企業や金融機関、個人の参加者がリスク管理を行えるようにしています。

EUREX(ドイツ取引所)

主な原資産は、株価指数、金利、個別株式。

Eurex(ドイツ)は、ドイツ連邦共和国のフランクフルトに本拠を置くドイツ取引所グループの世界的なデリバティブ取引所です。

世界中からアクセスできる電子取引市場で、株式、株価指数、金利、ボラティリティ、商品(コモディティ)、FXなど、さまざまなデリバティブ商品(先物・オプションなど)を提供しています。中でもDAX、Euro Stoxx 50、ドイツ国債先物は看板商品となっています。

インターコンチネンタル取引所(米国)

主な原資産は金利、エネルギー、個別株式。

インターコンチネンタル取引所は2000年に設立されました。エネルギー関連商品、排出権、農産物、株価指数など幅広い商品の現物・先物・オプション取引を電子化する米国有数の取引所です。2013年11月に取引所運営会社であるNYSEユーロネクストを買収し、ニューヨーク証券取引所(NYSE)をその傘下に収めました。

世界のデリバティブ取引高が増えている理由

世界中でデリバティブの取引高が増えています。米国・先物業協会(FIA)によると、2021年、世界の85取引所におけるデリバティブ市場の取引高は、前年比33.7%増の625億8,468万枚で過去最高となりました。デリバティブ取引が増えている理由は、主に以下の2つが考えられます。

商品の多様化と国際化

デリバティブ商品は、証券、商品、通貨など、さまざまな原資産を対象に開発されてきました。最近では信用リスクや排出権も原資産として導入されています。新しいデリバティブ商品が開発される背景には、社会的なリスクヘッジニーズの高まりと、新たな収益機会の追求があります。

金融取引の世界的な自由化によって、世界の金融商品にアクセスしやすくなっていることも無視できません。たとえば、大阪取引所の日経225先物は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)やシンガポール取引所にも上場しているので、世界の投資家が取引できます。

大阪取引所(OSE)も含めた日経225先物の取引時間は以下の通りです(2023年1月現在)。

取引所取引時間
CME7:00~翌6:00(夏時間)
SGX8:30~15:30、15:55~翌6:15
OSE8:45~15:15、16:30~翌6:00

また、CFD取引を利用すれば、日本の投資家も海外市場の株価指数や商品(コモディティ)などを気軽に取引できます。

情報技術の進歩

近年の情報技術の進歩は、取引所のみならず、取引所に注文を出す証券会社や投資家など、すべてのプレーヤーに劇的な処理速度の向上をもたらしました。現在では、人の手をほとんど介さずに注文を出すアルゴリズム取引が増加し、デリバティブ取引の増加に寄与しています。

日本のデリバティブ市場活性化への取り組み

日本でもデリバティブの取引は増えていますが、世界のデリバティブ市場に比べると、まだ見劣りします。日本のデリバティブ市場がより活発化するための取引所の取り組みなどについて解説します。

かつては「先物悪玉論」があった

日本を代表する先物取引といえば、世界中の投資家が取引している「日経225先物」です。

日経225先物は、日本がバブル景気に沸いていた1988年にスタート。国内外の投資家の強い需要を背景に、急拡大を続け、1990年にCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のS&P500先物を抜き、取引高世界一の商品となりました。

しかし、1990年のバブル崩壊後に株価の下落が続くと、取引高を伸ばし続けた日経225先物に対する批判が目立つようになりました。いわゆる「先物悪玉論」です。「株価の下落を先導しているのは先物取引であり、現物市場の下落の原因は先物取引にある」という理屈のことです。その後、取引に必要な証拠金の引き上げなど、数々の規制が実施され、日経225先物の取引高は激減しました。結果的に資金は日本から海外に移動、CMEやSGXなどの海外の日経平均先物の取引が増えるという皮肉な現象が起きました。現在は先物の役割が見直され、取引しやすい環境が整えられたことから、取引高は増えています。

取引時間の延長と祝日取引を開始した大阪取引所

2016年7月、大阪証券取引所は取引時間を翌朝5:30まで延長し、米国で行われる取引のほぼすべてをカバーするようにしました。2020年度の夜間取引のシェアは37.9%、合計夜間取引高は1.3億単位となり、夜間取引は順調に拡大しています。さらに、2021年9月から翌朝6時までの取引となりました。

そして、大阪商品取引所と東京商品取引所は、ヘッジ取引機会を提供することで投資家の利便性をさらに高めるため、2022年9月23日(金・秋分の日)より祝日取引を開始しました。日経225先物やプラッツドバイ原油先物などのデリバティブ商品が祝日でも取引できるようになったのです。

祝日取引の対象となる商品は、指数先物取引、指数オプション取引、商品先物取引および商品先物取引に係るオプション取引です。

国内株式市場が休場となる休日に取引機会を提供することで、海外市場の価格変動に伴うリスクを軽減できます。先物市場の利便性を向上させることで、より多くの投資家に取引してもらうことを目指しているのです。

2020年の日本の祝日は年間16日もありました。主要7カ国では最も祝日が多い国です。イギリスやドイツは9日、米国は州ごとに違いがあるものの、全米では11日です。日本の取引所は欧米の主要市場よりも祝日による休みが多く、ヘッジ機能としての先物市場の役割は不十分でした。この問題を祝日取引で解決することを目指したのです。

現物株と先物の損益通算を可能に

ヘッジ機能としての先物取引の役割を上げるためには、現物株との損益通算が望ましいという意見があります。たとえば、日経225先物・オプション取引の利益は、雑所得税の申告分離課税に該当するため、原則として確定申告が必要で、税率は20%(所得税15%、住民税5%)です。

この所得は、商品先物取引や外国為替証拠金取引(取引所金融先物取引)の売買損益と通算でき、税額控除として3年間の繰越が可能です。

しかし、現物株や信用取引との損益通算はできません。日本の大型株は、日経225先物の値動きの影響を受けやすくなっています。ですから、たとえばトヨタやソニーなど日経平均株価に採用している銘柄を保有している投資家が、日経225先物でヘッジしたいというニーズはあるでしょう。

現物株と先物の損益通算ができるようになれば、デリバティブ市場への個人の参加はもっと増えるかもしれません。