本記事は、和田秀樹氏の著書『「思秋期」の壁』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

思秋期に取り組むべき2つのこと

思秋期に取り組むべき二つのこと
(画像=Chartchai/stock.adobe.com)

思秋期については、2つの「やっておくべきこと」が考えられます。

1つ目に大切なことは、老化を予防すること。いわゆる身体のアンチエイジングです。グライダーが滑空して、やがて着陸するようなイメージで、成人期から老年期への移行期を、なだらかに長く延ばしましょう。

思秋期、健康に気を遣って人間ドックに行っては、検査数値に一喜一憂している人も多いと思います。たしかに病気の早期発見を心がけることで、心疾患やがんなどで数年以内に死亡するリスクは少し減るかもしれません。

でも、だからといって、若返ったり健康になったりするわけではありません。今が健康であるなら、それをよりよい状態にして、未来につなぐことを考えましょう。

加齢によって身体機能は低下するとともに、肌にはシミ・シワも増えて容姿も変化していきます。アンチエイジングというと、美容のことだと思われがちですが、老化をできるだけ抑えて、若々しくいたいという願いに応える手法や理論の総称です。「なぜ老いるのか」という老化のメカニズム、根本的なところはわかっていないものの、さまざまな実験などから確かめられている学説があります。それも下敷きにして、老化をできるだけ抑えようとする手法がアンチエイジングです。

そしてもう1つ思秋期に取り組むべきことが、前頭葉が老化する前に、年を取ってからのことをきちんと考えておくことです。

たとえば「年を取ったらこの人のようになりたいな」などとイメージする。さらに、どうすればそれに近づけるかと作戦を練っておくのです。

この「身体のアンチエイジング」と「将来(老後)のことを考えておく」の2つは、ぜひ思秋期に取り組んでいただきたいと思います。

新しいことはいくつになっても始められる

思秋期のうちに、将来(老後)をイメージしておくのは、前頭葉が老化すると柔軟な思考ができなくなってしまうからです。

新しい考え方を受け入れなくなったり、古い価値観に縛られたりするのは、その兆候です。年を取ると「頑固じいさん」「偏屈ばあさん」のような人が増えてくるのは、前頭葉が老化して「考えのスイッチ」の切り替えが苦手になるからです。

「頑固じいさん」「偏屈ばあさん」の一方で、若い人の話もおもしろがって聞き、自分の楽しみを見つけているような頭の柔らかい老人もいます。こうした人たちは前頭葉の老化がまだあまり進んでいないのでしょう。

だからこそ前頭葉にもアンチエイジングが重要ということになるのですが、「もっと若いうち(つまり思秋期)に考えておきましょう」ということです。

その際のコツは、年を取ってからも、なんらかの形で現役であることを意識しておくことです。つまり、何をどんな形で生涯現役にするか、というスタイルを考えておく。

私は大学院で臨床心理学を指導していましたが、ゼミ生の中には、会社を定年退職してから入ってきた人もいました。60代半ばになってから臨床心理士になろうとしているわけです。

要は意欲を持つことですが、それには前頭葉の若さがあってのこと。新しいことはいくつになっても始められます。

「もう50代だから」とか「何をいまさら」と考えるのは、いろいろな生き方の選択肢があるのに、自分でそれを狭めていることにほかなりません。

「いつまでも若々しさを保ちたい」と願う人もいるでしょう。「私は仙人みたいな生もいい。なんらかの「現役」であるということの中身は、そんなことでもいいのです。突拍子のないことや、実現可能性の低いことでもかまいません。極端と極端の間に現実があるのだから、幅は広い方がいいんです。

ただ、年を取ってくると常識論の範疇でさえ、なかなか思いつかなくなるもの。思秋期のうちから考え始めることがコツです。

漫然と過ごしているとロクな老人になれない

10代の思春期は、ひたすら異性のことを思う時期とされています。特に男性は男性ホルモンが一気に増えるから、セックスしたくてたまらなくなるのです。そのため「どうすればモテるのか」「自分の魅力とはいったい何なのだろう」と考え、「自分はどんなふうに生きていくべきか」まで思いめぐらすわけです。

もちろん簡単に答えが見つかるわけでもありません。「勉強だけは人に負けないように」「スポーツで頑張る」「しゃべりでは誰よりもおもしろくなってやろう」など、何年もかかって思い定めながら努力し、成長していく。これがアイデンティティを確立していく過程です。

思春期は、生殖の役割が担えるようになる準備期間であるとともに、社会の一員として自分をあてはめていく時期でもあります。

これに対して思秋期は、さまざまな束縛や制限から自由になっていくプロセスです。

40〜60歳のこの時期を、私が思秋期と呼ぶのは、思春期と同じように、将来を「思う」ことを重視してほしいからです。

つまり「自分はこのまま年を取っていっていいのか」「どんな老人になりたいのか」「どんなふうに死んでいくのか」といったことをきちんと考える機会です。

最近は〝終活〟が注目されているけれども、亡くなる直前のための身辺整理だけをして過ごすには、老後と呼ばれる時間は長すぎます。65歳の平均余命は男性19.85年、女性24.73年(令和3年簡易生命表)あるから、どう終わるか、よりもどう生きるかの、計画なり目的なりが必要です。

思春期のころに何も考えず、苦悩もしなかった人間はろくな大人になれないでしょう。それと同じように思秋期を漫然と過ごしていた大人は、ろくな老人になれない可能性が高い。

思秋期を過ぎると、前頭葉の老化が進んで、何か新しいことを受け入れるのも考えるのも難しくなってしまいます。何よりも、思秋期に将来のことを考えて、頭を自に働かせることが、前頭葉の機能低下を防ぐのです。

「思秋期」の壁
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神 経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、浴風会病院神経科医師を経て、現在、「和田秀樹こころと体のクリニック」院長、国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。

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