特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、そうしたなかでさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

サークレイス株式会社(東京都中央区)は、Salesforce製品を中心としたクラウドサービスの導入や保守サービスで成長を遂げた企業だ。2023年現在は、DXやICTを活用した業務改善に関するコンサルティングなどを手がけている。本インタビューでは、代表取締役社長の佐藤潤氏にサークレイス株式会社の事業概要や上場に至った経緯、将来的な目標についてうかがった。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

サークレイス株式会社
佐藤 潤(さとう じゅん)サークレイス株式会社代表取締役社長
1969年1月17日生まれ、神奈川県横浜市出身。大学卒業後、飲食チェーン店企業を経て、大手運送会社に入社。経理や債権管理業務に携わる。その後、株式会社ジャストシステム(1996年5月入社)、SAPジャパン株式会社(1998年2月入社)、アクセンチュア株式会社(2010年5月入社)を経て、2014年パソナテキーラ(現・サークレイス株式会社)へ入社。

執行役員営業本部長、取締役社長を経て、2019年1月代表取締役社長に就任した。テクノロジーを正しく活用し、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に貢献することが信条。

サークレイス株式会社
2012年11月に株式会社パソナグループとTquila International PTE Ltd.の合弁会社として株式会社パソナテキーラを東京都千代田区大手町で設立。データドリブン経営を柱とした経営方針により、本質的なDX(デジタルトランスフォ―メーション)社会の実現に向けて社内外ともに積極的に取り組んでいる。

2013年3月にsalesforce.com, inc.の出資を受け入れ、同年4月にカスタマーサクセス事業をスタートした。2016年にはAnaplan Japanとの協業を発表しAnaplanコンサルティングを始めるなど業務を拡大。2020年4月に統合型デジタルコミュニケーション・プラットフォームとなる「Circlace®」をリリースし、同年7月に現在の商号であるサークレイス株式会社に変更した。

2022年3月には、経済産業省のDX認定制度の認定事業者に選出。同年4月に東京証券取引所グロース市場に上場し現在に至る。

目次

  1. コンサルティングとプラットフォームの2つのサービスを展開
  2. より社会に役立つ会社になるため上場を選択
  3. 10年以内にプライム市場上場を目指す

コンサルティングとプラットフォームの2つのサービスを展開

―― 最初にサークレイス株式会社の企業概要・事業についてお聞かせください。

サークレイス代表取締役社長・佐藤潤氏(以下、社名・氏名略):弊社は、Salesforceなどの商材を使いながらシステム開発を主力としている会社です。システム利用や活用に関するコンサルティングから構築までを生業とし、「コンサルティングサービス」だけで売上の約6割を占めています。もう一つの提供サービスが「プラットフォームサービス」です。弊社では、Salesforceを中心としたノーコード開発、運用・活用支援、人材内製化支援などを「プラットフォームサービス」と位置づけており、そのなかには教育事業やSaaSの開発・販売事業も含まれています。

コンサルティングサービスは、労働集約的というか、人の数が必要でサービス付加価値を上げ、いかに単価を引き上げるかがポイントになる事業です。

一方、プラットフォームサービスはSaaSが典型的で人の頭数に関係なくお客様の数を増やせるのが特徴です。ここが我々自身が掲げている、本質的なビジネストランスフォーメーション、つまりDXを担うセクションであり、いま注力しているビジネス領域です。

▼サークレイスが手がける事業の全体像

いま私たちが努力しているのは、「労働集約型のコンサルティングサービスをいかにDXできるか」といったところです。弊社は、2012年創業ですが、そのうち6年はこの領域に取り組んでいます。

サークレイス株式会社は、株式会社パソナグループと当時シンガポールに拠点を置いていたTquila International PTE Ltd.との合弁会社「株式会社パソナテキーラ」として誕生。その後、2020年7月に現在の「サークレイス株式会社」へと社名を変更しました。パソナグループということもあり、当初はIT人材を育成して企業に派遣する事業などを展開していましたが、「クライアント先に人が行ったきりで社内にノウハウがたまらない」「サービス料金の値上げも時給単位で限定的なため従業員の給与も上がらない」ということで、なかなか思うように事業が進みませんでした。

そうした経緯もあり社内にノウハウをため込んだうえでより付加価値の高いコンサルティングサービスの提供にシフトしたのが2016年のことです。あわせて自社で構築したプラットフォームを弊社のような同業他社やプロフェッショナルサービスの企業に使ってもらおうとSaaS化することも目的にしました。それが社名にもなっている統合型デジタルコミュニケーション・プラットフォームの「Circlace®(サークレイス)」です。まだまだビジネス規模は小さいですが、プラットフォームサービスを伸ばしたうえで私たち自身が真のDXを実現し、お客様にもDXを提供する会社になっていこうとしています。

▼サークレイスのSaaSラインアップ

その取り組みのなかで、SaaSを販売するだけではなく、さまざまな企業様とつながり協業することで皆さまのお役に立ちたいとも考えています。その一つが海外駐在員の煩雑な管理を解決するクラウドサービスの「AGAVE(アガベ)」です。これは、非常にニッチなサービスで海外駐在員の赴任時・帰任時のプロジェクト管理、赴任時における本社との情報共有など、海外駐在員の労務管理に必要な手続きを一元化し、海外人事におけるすべての課題が解決できる、業務特化型クラウドサービスとなっています。ニッチなサービスではありますが、2022年12月には、東京商工リサーチ社が実施した調査において、「海外駐在員向け情報管理SaaSプロダクト分野における導入企業数国内シェアNo.1」のお墨付きもいただいております。

もともとは、パソナの日本企業向けBPOサービスを効率化するために構築したプラットフォームでしたが、機能だけを販売できるということでSaaSとして作り直し販売を始めました。加えてパソナは、給与計算や経費精算といったサービスを提供しています。しかし、ビザ取得や旅券の発券などはしていなかったので、日本通運様とも協業体制を構築し一気通貫で海外駐在員向けのサービス提供を2022年9月20日より始めました。

ビジネス全体の中ではボリュームは小さいのですが、国内大手企業と口座を持つ良いきっかけになり、これを機にさまざまなビジネスを展開できると考えています。また海外駐在員向けのサービスだけではなく、これから海外に出ていきたい企業様の向けのサービスを提供するため、新たな協業にもつながっています。このように弊社自身のSaaSをコアに多様なサービスを開発していきたいと考えております。

――御社のビジネスに競合はいますか。

佐藤:同業他社はたくさんいますが、競合という意味でいうとほとんどコンペしない状況です。新規の案件は、Salesforce社との共同提案を実施することが多く、また、Salesforce開発でいうとマーケットに開発者・技術者が足りていないからです。

弊社は、2022年で創業10年の会社ですが、Salesforce業界ではかなり古参となり、失敗を含めたノウハウもふんだんにあります。携わったプロジェクト数や有資格者もかなり多く、技術力や経験数は同業他社に対する強みといえるでしょう。

より社会に役立つ会社になるため上場を選択

――創業から今日に至るまでにおける、事業の変遷をお聞かせください。

佐藤:いまから10年前、パソナ社がSalesforceを導入するプロジェクトを立ち上げましたが、国内に技術者がほとんどいない状況でした。「それなら技術者を養成して派遣すれば多くの企業の役に立てる」という発想により、パソナグループとして対応することを目的とし、会社設立の動きが起きたのです。

その際、Salesforce開発のノウハウを持つアライアンス先を探しているうちに、欧州でSalesforceのコンサルティングをしているTequila社と弊社の前身となる合弁会社のパソナテキーラを設立。日本にSalesforce人材を増やす目的から、Salesforceベンチャーズも出資することになり、3社合弁という体制で2013年4月から事業を開始しました。

当初、Salesforce管理者の人材派遣、Salesforceプラットフォームを活用したSI、Salesforce認定資格のトレーニング3つの事業を同時に開始しました。通常でいうと考えられないチャレンジです。ですから創業当初は、事業立ち上げにかなり苦労しており、私がジョインした2014年9月時点においてもまだ順調とはいえない状況でした。

その後、Salesforceのマーケットは徐々に拡大し、3事業の相乗効果が出てきたこともあり、2017年初頭からは各事業も軌道に乗り、現在まで順調に成長しています。一方で、先ほど申し上げた通り、Salesforce経験者と限らずIT人材の獲得は当時からかなり難しい状況でした。今後の成長を見据え、SIやコンサルティング、派遣といった労働集約型のビジネスだけでなく、当社自身がDXし、より多くのお客様にサービスを提供できるようにすることが必要であると強く実感しました。

また、コンサルや開発といったフローのビジネスに軸足を置きすぎると時に売上のブレが大きくなります。そのため2016年以降は、ストックを増やす意味でも小さなコンサルティングや保守サービスを数多く提供するためのプラットフォームを構築して派遣事業のDXに取り組みつつ、そのサービス基盤をSaaS化し販売することにも注力してきました。繰り返し述べますが、そのプラットフォームの代表が社名にもなっている統合型デジタルコミュニケーション・プラットフォームの「Circlace®(サークレイス)」です。

――2022年4月には東証グロース市場に上場しました。

佐藤:3社合弁ですから「イグジットはどうするのか」という議論を重ねてきました。その中で、創業当時から困難が続く中で頑張ってきた社員が報われ、今後も安心して働ける形は何かと模索した結果、上場という答えにたどり着いたのです。もちろんそれだけではなく、社員の総意としてもっと社会に役立つ会社になりたいという思いで成長してきた会社ですから、「もっと知ってもらい信頼を得る」「社会的責任を果たす」という考えもあります。

――上場後に変化はありましたか。事業面、金融面での変化をお聞かせください。

佐藤:明らかな変化ではありませんが、事業面ではSaaSの販売がしやすくなったことはあります。金融面では、当面の運転資金・投資資金を調達できた点が大きな安心感となっています。

――いま世界は激動の時代を迎えていますが、そういったなかで日本経済が直面する課題や今後の動向、御社のビジネスへの影響などについて考えをお聞かせください。

佐藤:グローバルなトレンドとしてよく話題に上がるCO2削減や環境保護、格差解消などのさまざまな課題がビジネスに大きな影響を及ぼし始めています。当社のお客様はグローバル企業、特に製造業が多く、今後さまざまな問題を早急に解決することが命題となっています。そしてそれらの問題の解決にはデジタル技術が必須となりつつあり、当社への期待も大変高まってきています。

当社の目指すところは、日本企業が解決しなければならない課題を、デジタル技術を活用し、お客様と一体になって解決する集団となることです。そのためには、システム開発技術だけではなく、お客様のビジネスの将来を一緒に考えられるコンサルティングスキルが必須となります。

よって、IT人材のみならず、コンサルティング人材の確保も必須ですし、また繰り返しになりますが、人口減少が進む中で人材の確保がより困難になる中、デジタルを活用した一層の省力化、効率化、そして本質的なDXが必要になります。私たち自身のこれらの取り組みを通じて、日本で同じ問題を抱える企業へのサービス提供も可能になると考えています。

10年以内にプライム市場上場を目指す

――上場からさらに成長していくため、今後の目標や5年後、10年後に貴社が目指すべき姿についてお聞かせください。

佐藤:現状からすると、弊社のビジネスはまだまだ労働集約型なサービスが多く、急成長できるモデルではないため、毎年20%というように着実な成長を意識しています。利益もしっかりと出して、向こう10年以内にはプライム市場へ鞍替えし、見守っていただいた投資家の皆さまへ配当など還元策を実施したいです。プライム上場後も着実に成長し、日本社会および世界の課題解決に貢献することを目指していきます。

そのためには国内のマーケットだけでは限界が見えますから、自社SaaSを中心としたビジネスを開発し、早い時期にアジアや北米になどグローバル展開を始めたい考えです。世界で成功した日本のソフトウェア/SaaSは多くはありませんが、それ故にチャレンジしたい思いがあります。

――激変の時代に上場した企業は投資家・富裕層から注目されています。弊媒体読者へ、メッセージをお願いいたします。

佐藤:上場を実現したことにより、本当の意味でスタート地点に立てたと考えています。当面はコンサルティングを主軸に着実に成長を重ねながら、将来の成長に向けた取り組み、投資を進めて参ります。内容についてはIRなどを通じて積極的な情報発信に努めて参りますが、現在注力している自社のDXの動向とその成果や、SaaS関連事業の発展、新規事業等に注目をしていただきたいと考えております。