「廃業=悪」ではない!なぜ中小企業はつらい廃業を選ぶのか
ここまで解説したように、廃業は経営者にとってつらい選択肢である。しかし、状況次第では廃業が望ましいケースもあるため、経営に行き詰まった場合はひとつの戦略として考えたい。
どのように活用すべきなのか、ここからは廃業のメリットや考えるべきタイミングを見ていこう。
廃業をするメリット
廃業のメリットとしては、関係者への影響を最小限に抑えられる点が挙げられる。
例えば、倒産では債務を返済しないまま会社をたたむため、状況によっては関係者(金融機関や取引先など)に多大な影響を及ぼす。給与や退職金を支払わないまま従業員を解雇すれば、その人材との関係も最悪の形で終わってしまうだろう。
一方で、廃業は最低限の義務(給与や債務の支払いなど)を果たしてから清算するため、周囲からの反感を買いにくい。経営者の努力次第では、新しいビジネスでかつての従業員・取引先などと協力関係を結べる可能性もある。
ただし、廃業でもステークホルダーへの影響は避けられないので、慎重に計画を立てなければならない。
廃業を考えるタイミング
廃業を考える時期は経営者によって異なるが、一般的には以下のようなタイミングが挙げられる。
○廃業を考えるタイミング
・経営状態が悪化し、事業の再建が難しいとき
・事業継続に向けた資金調達ができない場合
・数期連続で赤字になるなど、独自の判断基準を超えたとき
・債務を完済できる状態で、会社をたたみたい場合 など
注意しておきたいのは、廃業では金融機関や取引先への債務を完済する必要がある点だ。返済の目途が立たないまま清算の準備を進めると、選択肢が倒産しかなくなってしまうケースがある。
そのため、会社の純資産額や業績などはこまめに確認し、再建の見通しが立たない場合は早めに廃業を考えたい。
手元に資金を残す方法は廃業以外にもある
手元に資金を残すことを考えた場合、経営者が取れる選択肢は廃業だけではない。廃業はあくまで一つの手段なので、ほかの選択肢も含めてベストな形を模索する必要がある。
どのような方法があるのか、ここからは中小企業の現実的な選択肢を紹介する。
補助金や助成金の活用
補助金・助成金には、中小企業の再建を目的にした制度がいくつかある。以下では参考として、経済産業省の制度を紹介しよう。
事業所のエリアによっては、自治体による支援を受けられるケースもある。中小企業を支援する制度は多いため、補助金・助成金に限らずさまざまな制度を確認してほしい。
政府系金融機関の融資制度を利用する
政府系金融機関も、中小企業を支援するための融資制度を用意している。例えば、日本政策金融公庫の「企業再建資金」では、最大7,200万円の資金を15~20年の返済期間で借り入れることが可能だ。
経営悪化の要因がキャッシュ不足にある場合は、このような融資制度によって事業を立て直せるかもしれない。ただし、公的な融資制度には適用条件があり、融資実行までに1ヵ月以上かかるケースもあるので、早めの準備を意識しよう。
M&Aで会社・事業を売却する
後継者不足の解決策として注目されるM&Aも、手元に資金を残す選択肢である。買い手が見つかれば会社や事業ごと売却できるため、設備や不動産、在庫などの処分に悩まされることがない。
さらに、従業員の生活や雇用を守れる点もM&Aのメリットだろう。就労環境の変化がストレスになるケースはあるが、契約次第では従業員の待遇面が向上することもある。