特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

クリアル株式会社は、1万円から始められる不動産投資クラウドファンディング「creal(クリアル)」や個人向け資産運用・プロ向けの投資サービスを手がける企業だ。市場の年平均成長率(CAGR)約68%、運用資産残高4年連続No.1(2019~2022年)と異例の成長を続け、不動産ファンドオンラインマーケットのリーディングカンパニーとして投資家からも注目を集めている。

同社が目指すのは「不動産投資の民主化」を実現すること。本稿では、代表取締役社長である横田大造氏に20年近く、なにも変わらなかった不動産業界にクラウドファンディングのビジネスモデルを持ち込み、より多くの人が気軽に投資できる環境を築いた経緯や、今後の展望についてうかがった。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

クリアル株式会社
横田 大造(よこた だいぞう)――クリアル株式会社 代表取締役社長
1976年4月9日生まれ。群馬県出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、2000年6月にアンダーセンコンサルティング株式会社(現:アクセンチュア株式会社)へ入社し、ITを活用したコンサルティング業務に携わる。2005年9月、オリックス株式会社に入社。

2007年12月入社のラサールインベストメントマネージメント株式会社(現:ラサール不動産投資顧問株式会社)、2011年10月入社の株式会社新生銀行を経て2014年4月に上場ヘルスケアREITの運用会社ジャパン・シニアリビング・パートナーズ株式会社(現:ケネディクス不動産投資顧問株式会社)へ出向。投資運用部長として物件取得業務を統括。

2017年4月よりクリアル株式会社の代表取締役社長に就任し現在に至る。
クリアル株式会社
2011年5月、東京都港区港南でクリアル株式会社の前身となる資産運用サービスを目的とした株式会社ブリッジ・シーを設立。2013年10には、日本不動産イニシアティブ株式会社(現:クリアルパートナーズ株式会社)の株式を100%取得し完全子会社化。

2018年10月不動産特定共同事業者許可(電子取引業務)を取得し、同年11月から不動産ファンドオンラインマーケットサービス「creal」を開始。2021年3月に現在の商号に変更した。2022年4月、東京証券取引所グロース市場に上場。2022年7月には、運用資産残高4年連続No.1(※)を達成し現在に至る。
※2022年7月期日本マーケティングリサーチ機構調べ

目次

  1. クリアル株式会社の事業ドメイン
  2. 主軸事業を選択・展開した目的ときっかけ
  3. クリアル株式会社の、競合他社にはない強みとは
  4. 上場して起きた変化
  5. 業界が抱える課題と、クリアル株式会社としてのアプローチ
  6. クリアル株式会社が目指す世界観
  7. クリアル株式会社から皆さまへのメッセージ

クリアル株式会社の事業ドメイン

── 現在の事業内容や事業ドメインについてお聞かせください。

クリアル株式会社代表取締役社長・横田大造氏(以下、社名・氏名略):私たちの特徴は、大きく分けて2つあります。まずは「資産運用DXカンパニー」であることです。お客さまの不動産投資における資産運用プロセスをITの活用で効率化する事業を展開しており、それを支える技術基盤とエンジニアがそろっています。

もう一つは、主力事業「不動産クラウドファンディング」を展開していることです。市場の年平均成長率(CAGR)約68%と有望な市場であり、本事業は、市場シェアNo.1、運用資産残高4年連続No.1と業界のリーディングカンパニーといえる成長を遂げていいます。

▽カンパニーハイライト

事業内容は、3つあります。まずは、個人投資家向けの不動産クラウドファンディング、「creal」です。「creal」は、個人投資家向けサービスで1万円という少額から、また短期間で不動産ファンドに投資することができます。さらにDXを活用し実物不動産投資で資産運用ができる「creal partners」も成長しており、今お話した「creal」「creal partners」が弊社の主力事業です。

加えて、機関投資家や超富裕層向けに展開しているのが「creal pro」で、こちらは1億円以上の大きな資金を投資できるプロ向けの資産運用サービスとなっています。

▼クリアル株式会社の主要な3つの事業

主軸事業を選択・展開した目的ときっかけ

── 不動産投資のクラウドファンディング事業に挑戦したきっかけや、この分野にかける理由をお聞かせください。

横田:私は、20年近く不動産・金融畑にいますが不動産業界がIT導入やシステム化といった側面で何も変わらないことに疑問を抱いていたのが挑戦したきっかけです。新卒ではアンダーセンコンサルティング株式会社(現:アクセンチュア株式会社)でITを使った経営効率化や新規事業の提案を行うコンサルティングを経験し、その後「不動産証券化」というビジネスを知って興味を持ち、不動産業界に転身しました。オリックスでは不動産ファンドにローンを出す立場で携わり、エクイティ投資側にも回りたいと思いラサールインベストメントへ移り、さらには新生銀行でヘルスケアREITを立ち上げるメインの担当を務めました。このように、不動産証券化の世界に20年近く携わってきました。

不動産証券化は新しいビジネスだと感じて飛び込んだものの、業務のやり方は20年間変わっておらず収益還元法を継続して使っています。そんな不動産の資産運用手法にITを加えて効率化することや、一部の人しか触れられなかった不動産による資産運用をクラウドファンディングの活用によって誰もが気軽に投資できるようにすることを志し、このビジネスを立ち上げました。

ITで効率化できる分野のなかでも不動産投資に着目した理由は、パラメータ(変数)が少ない分野だからです。また、ミドルリスク・ミドルリターンの性質があり、他の金融商品と比べてリスクとリターンのバランスがとれている魅力的な不動産というアセットをもっと世の中に広めたいと思いました。

またクラウドファンディングに着想した理由は、新生銀行での体験からです。当時、私は日本初のヘルスケア(介護施設や老人ホーム)のREIT(不動産投資信託。投資家から集めた資金で不動産投資の専門家が不動産を購入し、運用利益の一部を投資家に分配する仕組み)事業を立ち上げていました。

歴史が浅さが足かせとなり、なかなか機関投資家の投資対象とならずスポンサー集めは難航。資金が集まらない状況をどうにかしたいと考えたとき、1口1万円の少額で、安定したリターンがあり社会に必要とされる物件への投資という共感をフックに、クラウドファンディングで個人から資金を募ればWin-Winなのではないかと考えました。実際に海外ではすでに事例があり、日本でもこのビジネスを立ち上げたい、そう思ったことが今のビジネスのきっかけとなりました。

リスクとリターンのバランスがよく、プロだけではなく一般の人も気軽に手にとれる……それが不動産投資のクラウドファンディングの最大の魅力といえるでしょう。

クリアル株式会社の、競合他社にはない強みとは

── すでに業界のトップ企業として地位を確立されていますが、他社にない強さの根源はどこにあるとお考えでしょうか。

横田:私たちの強みは「システム開発」「商品開発」「マーケティング」の3つのチームを自社で抱えていることにあると考えています。まず「システム開発」の強さの根源は、社員の約3分の1を占める優秀なエンジニアチームの存在です。リクルート出身のCTOの太田が採用に非常に力を入れてチームアップしており、このチームがあることでオリジナル商品開発ができ、UI/UXなども細かく改善ができるなど柔軟性が高く他社と差別化がしやすくなっています。これは、不動産投資企業として非常に珍しいことなんです。

次に「商品開発」が確立していることです。弊社のクラウドファンディングの商品ラインナップは、他社さんにはない保育園、学校、ホテルまで幅広く揃えています。他社さんは「ワンルームのファンドしかやっていない」「クラウドファンディングをやっていても収益が得られていない」といった会社が多いです。しかし弊社はREITや不動産ファンド出身者でチームを構成し、クラウドファンディングの仕組みのなかで幅広い物件を取り扱い、かつしっかりと収益を得られる商品開発の体制を確立しています。

最後は「マーケティング」の強みです。弊社は、専属のオンラインマーケティングのチームを持っています。CPAなどの指標を日々モニタリングしながら広告運用を行っており、「Webを通して多くのお客様に認知していただける」「大手企業各社とアライアンスを組める」といったことは、このチームがあってこそ。マーケティングが強い点も、この業界ではめったにないことなんです。

またマネジメントに目を向けてもらうと、不動産、会計、金融、エンジニアと各領域のプロフェッショナルが取締役を務めており、一般的な不動産会社とは一線を画す経営を行っています。

上場して起きた変化

─― 上場前と上場後でどのような変化があったかお聞かせください。

横田:取引先や顧客、投資家、いずれの関係者からも知名度、信頼度が上がったと感じています。5億~10億円の物件をクラウドファンディングでリリースすると、ものの数分で売り切れるようになりました。投資家からの認知度向上の表れだと思います。

また、機関投資家からの引き合いが増え、大手企業からも案件供給のパイプライン契約のお声がけをいただけるようになりました。より幅広い物件が取り扱えるようになり、そこからさらに信頼度が上がる良いスパイラルが生まれています。

業界が抱える課題と、クリアル株式会社としてのアプローチ

─― 日本経済や投資関連業界における課題と、その課題についてどのようなアプローチをされているのかお聞かせください。

横田:日本社会でも以前のように一つの会社で働き、その給与だけで生きていくことはスタンダードでなくなってきています。そのため自分で資産について学び、運用することが重要になってきました。また若い世代は、私たちの世代と比較して資産運用にポジティブな意識を持っている方が多い傾向です。

この時代にあって、リスクとリターンのバランスが良い不動産投資を少額から投資する選択肢を提供することは大きな付加価値があると考えています。弊社は、不動産投資を民主化することに使命感を持って事業を展開しています。

クリアル株式会社が目指す世界観

─― 御社が目指す、実現したい世界観についてお聞かせください。

横田:先ほどもお伝えしたように、弊社は「不動産投資の民主化の実現」を目指しています。いまだに不動産投資と聞くと「面倒臭い」「複雑」「怪しい」などのイメージを持つ方も少なくありません。そういったイメージを払拭し、誰もが手軽に分かりやすく安心して不動産投資という選択肢を持つ社会を実現したいです。

▽個人投資家における不動産投資の課題の解消を目指す

─― 今後の事業展開や数値的な目標についてお聞かせください。

横田:オンライン投資の市場は、急激に伸びており、2026年には1兆8,000億円近くにまで成長する見込みです。その魅力的な市場で先行者利益をとりたいと考えています。具体的には、2025年までにGMV(流通取引総額)300億円、累計投資家数8万人まで伸ばし、「crealといえば資産運用の代表的なサービス」という地位を確立したいです。

▽CREALの中期目標と成長投資

クリアル株式会社から皆さまへのメッセージ

─― 読者の皆さまに向けてメッセージをお願いします。

横田:お伝えした通り、「不動産投資の民主化」を目指していますので、より多くの方に着実かつ少額から資産運用ができる「creal」を知ってもらい、利用していただきたいと思っています。また弊社の思いや事業に魅力を感じて、爆発的な成長を期待してもらえるのであれば、ぜひ弊社の株式に投資していただけますと幸いです。