本記事は、内藤誼人氏の著書『世界最先端の研究が教える新事実 人間関係BEST100』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

日本人は、なぜ日本を特殊な国だと思ってしまうのか

アジア人は、喜びを隠す
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

オーストラリアにあるクイーンズランド大学のマシュー・ホーンセイによりますと、私たちには、「グループの一員でありたい」という所属の欲求と、「他の人と一緒だと思われたくない」という独立の欲求の、2つの矛盾した欲求があるそうです。

「仲間外れになるのはイヤだけど、みんなと一緒なのもなんだかイヤ」という気持ちがあるようなのです。では、どうやってこの矛盾した欲求を満足させればいいのかというと、ホーンセイによれば、「自分の属するグループは、他のグループとは違うのだ」と思い込むことなのだそうです。こう考えれば、グループの一員でありつつ、しかも自分がユニークな存在である、という欲求も同時に満足させることができるのです。

日本人は、なぜか日本が特殊な国だと考えるのが大好きです。

「日本語は、他の言語とは違うのだ」

「日本の文化は、特別なのだ」

「外国人には、とうてい日本人の心情は理解できない」

こんな風に考えるわけです。

どうして日本人がこのように考えやすいのかというと、ホーンセイの指摘するように、「日本人である」ということで、どこかに所属していないのは不安でイヤだという気持ちも満足させることができ、さらに自分がユニークな存在だと思うことができるからだと解釈していいでしょう。ただし、これは日本人だけがそうしているのではありません。

他の国の人だって、「自分の国が、世界で一番素晴らしい国」だと思っているでしょうし、自国民が世界で特別にユニークな国民だと思っているのではないでしょうか。アメリカ人だって、イタリア人だって、韓国人だって、同じように考えていると思います。日本人だけが、必要以上に、自国を称賛しているわけではありません。どの国の人も、似たり寄ったりです。

人間なら、だれでも、どこかに所属していたいという気持ちと、ユニークでありたい、という気持ちは持っていると思うので、そのどちらも満足させるためには、「自分の国は特別」と思うことは、避けられません。日本人特殊論に関する本などを読むと、「なるほどなあ」と納得させられてしまうことが多いのですが、それは私の心の中にも、「日本人は特別」という意識が潜んでいるからかもしれません。

もちろん、自国に対して、誇りを持つことは大切だと思いますが、だからといって、他国の文化や社会を、あからさまに見下したり、軽蔑したりするようなことがあってはなりません。この点は念を押しておきたいと思います。

アジア人は、喜びを隠す

日本人は、表情をほとんど見せないことで有名です。外国人からは、「能面のよう」と揶揄されることもあるそうですが、それは嬉しいときも同じです。

スポーツの世界では、勝者は嬉しいに決まっているのですが、そういうものはなるべく「隠す」のが奥ゆかしいのであって、敗者に対する礼儀でもある、と日本人なら考えるものです。

高校野球でもそうで、「勝った! 勝った!」と喜ぶチームよりも、負けたチームの気持ちを考えて、あまり喜びを出さないチームのほうが、奥ゆかしさを感じます。ずいぶん昔のことですが、元横綱の朝青龍あさしょうりゅうが、勝ったときに喜びすぎたので、「横綱らしくない」とマスコミに叩かれたこともありました。日本人は、たとえ嬉しくても感情を抑制するほうが望ましく感じるのです。

私は、この現象は日本人だけなのかな、と思っていたのですが、中国人にもいくぶんかはそういうところがあるという研究を見つけましたので、ご紹介します。

オランダにあるティルブルフ大学のイヴェット・ファン・オッシュは、中国人金メダリストと、アメリカ人金メダリストのプライドの表現(大きな笑顔、両手を高らかに上げる)を分析してみました。

アジア人は、喜びを隠す
(画像=世界最先端の研究が教える新事実 人間関係BEST100)

分析したのは、オリンピック(他国の人との競争)と、国内の選手権(同国人との競争)についてです。その結果は上記の図13の通りです。中国人は、国内の選手権では、相手に遠慮するのか、あまり喜びの表現をしないことがわかったのです。アメリカ人はどちらでも気にせず、自分が金メダルをとって嬉しいときには、素直にそれを出していました。

なんとなくのイメージですが、中国人は喜怒哀楽の表現がはっきりしていて、嬉しいときには飛び上がって喜びそうな感じがしますけれども、そんなこともないのです。相手が同国人だと、少しは遠慮するようです。感情を控えめにするのは、日本人だけでなく、ひょっとしたらアジア人はみなそういうところがあるのかもしれません。欧米の人に比べると、アジアの人のほうが控えめな印象があります。

世界最先端の研究が教える新事実 人間関係BEST100
内藤誼人(ないとう・のりと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。

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