特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、そうしたなかでさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

株式会社クルーバーは、リユース専門店「アップガレージ」をはじめとして自動車やバイクに特化したビジネスを手がける企業だ。近年では、新品アイテムの取り扱いやBtoB向けのIT受発注プラットフォームの提供、HR事業への進出などすそ野を広げている。上場を機にさらなる飛躍を目指す同社の展望とは?

今回は、代表取締役社長の石田誠氏に株式会社クルーバーの企業概要や事業の強み、上場による変化、未来構想などをうかがった。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

株式会社クルーバー
(画像=株式会社クルーバー)
石田 誠(いしだ まこと)株式会社クルーバー 代表取締役社長
1960年5月9日生まれ。神奈川県出身、早稲田大学在学中の1983年に中古車販売事業の株式会社オートフリークを設立、1999年 にオートフリークからスピンアウトするかたちで中古カー&バイク用品を扱う株式会社アップガレージを設立し中古カー用品市場のトップシェアを誇る企業へと成長させる。2014年には株式会社クルーバーホールディングス(現:株式会社クルーバー)と株式会社東京タイヤ(現:株式会社ネクサスジャパン)を設立。2020年4月、株式会社アップガレージと株式会社ネクサスジャパンの取締役会長に就任した。

株式会社クルーバー
中古カー用品買取販売業のアップガレージおよび新品カー用品卸売業のネクサスジャパンの持ち株会社。株式会社アップガレージは中古のカー用品、バイク用品の買取販売を直営店とフランチャイズで日本全国に展開、株式会社ネクサスジャパンは主にFC加盟店及び中古車業者へ向けた、新品カー用品、バイク用品の卸売販売業を行っている。

目次

  1. 株式会社クルーバーの事業概要について
  2. 株式会社クルーバーが誇る事業の強み
  3. 上場による変化について
  4. 今後の業界動向について
  5. 株式会社クルーバーの未来構想

株式会社クルーバーの事業概要について

―― 御社のあゆみと事業内容についてお聞かせください。

株式会社クルーバー代表取締役社長・石田 誠氏(以下、社名・氏名略):弊社は、中古のカー・バイク用品の販売店である「アップガレージ」を祖業としてスタートいたしました。一般コンシューマーからアイテムを買い取り、クリーニングや手直しを施したものをリユース品として販売する事業形態です。現在は、直営とFC(フランチャイズ)のリアル店舗のほか、ECも展開しております。

「株式会社アップガレージ」という社名で2004年3月に東京証券取引所マザーズ市場に上場しましたが、2012年4月にいったんMBOで上場廃止いたしました。これは、次のステップに進むための苦渋の決断でした。

アップガレージのブランドで培ってきた知見やネットワークを活かして、リユースだけでなく自動車やバイクにかかわる方々の側面支援を具現化していく。そのために複数の新規事業を立ち上げ、事業にスピード感を出そうと考えたのです。現在は「アップガレージ」のほか、一般コンシューマー向けからBtoB向けに至るまで、さまざまな事業を展開しています。

具体的には、新品タイヤ専門ブランド「タイヤ流通センター」、ECサイト「croooober.com」、自転車用品のリユース専門店「アップガレージ サイクルズ」、BtoB向けの受発注ITプラットフォーム「ネクスリンク」、自動車業界の人材紹介サービス「ブーンブーンジョブ」などです。

こうして複合的なビジネス展開の基盤ができあがったタイミングでさらなる飛躍を目指そうと「株式会社クルーバー」にて2021年12月に東京証券取引所ジャスダック(現:スタンダード)市場へ上場いたしました。

▼事業概要

株式会社クルーバー
(画像=株式会社クルーバー)

株式会社クルーバーが誇る事業の強み

――御社が躍進を遂げてきた強みはどのようなところにあるとお考えでしょうか?

石田:独自システムにより「リユース品の売買しやすい仕組みを構築した点」です。かつては、中古のカー用品やバイク用品を一般コンシューマーに触れる形で扱っている企業はまったくありませんでした。いわゆる解体屋さんといわれるところで扱われる程度でしたから、売買が難しい状況だったのです。

私たちは、誰でもフラッと立ち寄り買い取ってもらえるリアル店舗の展開と、気軽に購入できるECの両輪で、リユース専門店のモデルを構築してきました。リユース品は、価格設定が非常に重要ですが、フルスクラッチで開発した独自システムにより、売買履歴などの独自データをもとに適正評価が可能になりました。

システム化によって売買のサイクルを加速化し「3ヵ月ですべてのアイテムが入れ替わる売り場づくり」を目指しています。アイテムは、店舗でクリーニングから手直しを行うとともに一定期間の保証をお付けすることで、安心してご購入いただける状態を整えています。(わけあり商品は保証対象外)

▼売買サイクルを加速化するアップガレージのビジネスモデル

株式会社クルーバー
(画像=株式会社クルーバー 2023年3月期第2四半期決算説明資料)

――多角的なビジネス展開を実現できた理由もお聞かせください。

石田:「アップガレージ」の運営で培った業界の知見やネットワーク、システム開発のノウハウがさらなる強みとなり、複数のビジネスを生み出している点も強みといえるでしょう。なかでもBtoB向けに展開している受発注ITプラットフォーム「ネクスリンク」は、もともと自社で使っていたシステムを商品化した、伸びしろの大きなビジネスです。

例えば中古車販売店の場合は、自動車を販売するだけでなくスタッドレスタイヤの付け替えといった付加的なニーズで収益を上げています。従来パーツやカー用品をメーカーへ発注する際は、電話やファックスで行っていたため、業務に手間がかかっていました。そこで「ネクスリンク」をご利用いただけば発注から納品までの一連の業務をシステムで一元管理できるため、非常に効率的です。

中古車販売店以外にも自動車整備店やガソリンスタンドなど幅広い顧客層に喜ばれ、ご利用いただいています。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、近年のトレンドワードです。しかし私たちは、アップガレージの創業当初からDXに取り組んできたといえるでしょう。自社でエンジニアを採用していますし、その点もこれからの時代に大きな強みになると感じています。

▼受発注ITプラットフォーム「ネクスリンク」の成長戦略

株式会社クルーバー
(画像=株式会社クルーバー 2023年3月期第2四半期決算説明資料)

上場による変化について

――上場に対する期待や実際の変化についてお聞かせください。

石田:最も大きな変化は、社内の緊張感の高まりですね。未上場企業と比べて間違いなく責任の重さが変わる……その事実を改めて感じています。周囲の目も変わり、大きな期待を知る機会も多いです。特に新卒採用における学生からの反応の違いは、ひしひしと感じます。上場企業というステータスが親御さんからの後押しにもつながっているようです。

世間一般では、エンジニア採用が非常に難しいといわれていますが、その点も弊社は順調に進んでいると思います。もともと事業会社のエンジニア職は、比較的好意的に受け止められていて毎年5~6名ずつ採用してまいりましたが、最近は大学院生の方など大変優秀な学生からもご応募いただけるようになりました。

上場による変化は、店舗開発の分野でも感じます。特に地方のケースだと店舗用地をお借りする際に地主の方から安心感を持っていただけることが大きい変化です。実際に土地の成約率も高まっています。株主さまについては、事業のおもしろさに共感していただいている印象があります。リユース事業に対して将来性を感じて投資してくださる方が非常に多い印象です。

今後の業界動向について

――2023年以降の業界動向についてお考えを聞かせてください。

石田:日本経済は厳しい状態でネガティブな報道が多いのですが、「リユース」が成長の大きな切り口になると考えています。SDGsの周知や環境負荷の削減という観点から世界各国でリユース文化が注目されていますが、そのなかでも日本は「リユース先進国」だと捉えています。日本は、古くから「物に魂が宿る」「物を大切にする」という文化が根付いている国です。

「メンテナンスされたリユース品が保証もついた状態で買える」ということは、世界を見わたしても、こんなにスマートなリユースビジネスが浸透している国は珍しいでしょう。環境にも有意義ですし、ビジネスとして世界に誇れるポテンシャルがあるはずです。実際に弊社でも数年前から実験的にカリフォルニアでECサイトでの販売を始めています。

米国では、ジャンク品の販売は多いようですが、メンテナンスや保証といったきめ細かいサービスを行っている企業は少ないようです。米国事業を手がける社員からも「手ごたえを感じる」という声もあり、私たちのサービスが受け入れられる土壌があると期待しています。

株式会社クルーバーの未来構想

――今後の中長期的な展望についてお聞かせください。

石田:コア事業となる「アップガレージ」は、国内で300拠点程度の出店が目標です。リユースは、買い取りが肝になるため、過剰な出店は自社競合を起こすリスクもあります。自社競合を起こさずに、各店舗が安定的に経営できる基準を300拠点として設定しました。将来的に国内出店は、踊り場を迎えますから、さらに飛躍するための戦略として海外進出を掲げています。

▼アップガレージの出店推移

株式会社クルーバー
(画像=株式会社クルーバー 2023年3月期第2四半期決算説明資料)

カリフォルニアを拠点に実験的に進めているEC事業は、月間で1,000万円規模の売上があり、ノウハウも蓄積してきました。今後は、カリフォルニアあるいはテキサスでのリアル店舗の出店を検討中です。今後に向けた海外進出の目標として米国では、各州に1店舗の出店を目指しております。

世界各国で展開できるポテンシャルがあるので、米国の次は、東南アジア、オセアニア、ヨーロッパ、中国などへの進出も検討していくつもりです。世界のどこにいてもアップガレージのロゴが見られるようにしよう!と、夢を掲げて社内でも盛り上がっています。BtoB事業の「ネクスリンク」についてもまだまだ伸びしろがあります。最終的には、ディーラーでもご活用いただけるようになればうれしいです。

既存の部品商社にはない新しいサービスを開発して拡大していきます。EC事業については、ユーザビリティの改善やアイテム数の拡充で成長させていきたいと考えています。具体的には、お客さま(ECサイトに出店している店舗)側がご自分のデバイス内で販売管理ができる仕組みづくりを計画しています。

現在は、150万点ほどのアイテムを取り扱っていますが、さらにアイテム数を増やし、ジャンルを増やして横展開も進める予定です。ちなみに最近は、自転車用品のリユース店舗も展開しているのですが、非常に好評となっています。後発となっても既存事業と親和性が高く顧客層が似ているビジネスであれば成功のチャンスがあるようです。シナジーが上がるジャンルから横展開していこうと考えています。

――最後に読者のみなさまへひとことお願いします。

石田:弊社の最大の強みであるリユースビジネスは、現代にとてもマッチしたものだと考えています。SDGsが注目されているように環境問題や物価上昇に伴う低価格志向は、大きな追い風となるでしょう。現在は、リユースビジネスのシステム構築から派生した事業や自動車業界の人材サービス事業など複数の事業を展開しています。

今後も可能性を広げて飛躍を目指しますので、ぜひ長期にわたって見守っていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。