この記事は2023年2月9日に「月刊暗号資産」で公開された「web3×Community 雨弓氏インタビュー」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=Dzmitry/stock.adobe.com)

次世代に兆円規模の「時価総額スタートアップ」を作るというバトンを託す

2023年1月20日(金)発売の月刊暗号資産3月号Vol.47より

―web3領域にあたらしい人材がチャレンジするきっかけづくりのために行う、現在の様々な活動の原動力と達成感を感じる瞬間を訊かせてください。

雨弓氏(以下、雨弓):私が学生やこれからweb3に挑戦する人を応援しているのは、そこに一番大きな可能性が眠っていると思っているからです。

きっかけとなったのはアスター(AstarNetwork)・ファウンダーの渡辺創太の存在です。私は2017年からクリプト(暗号資産)を触っており、彼とは2019年に出会いました。当時から明るく気さくな人柄の彼でしたが、一見すると「ビッグマウスな学生」にも見えていました。彼とは何度か一緒に仕事をすることがあり、例えばオンライン授業のコンテンツとして動画を作成する際には、私が資料の作成や手直しなどを手伝っていました。

未熟で元気な若者だった彼は、私がサラリーマンとしていくつかのプロジェクトを回している間に、いつしか日本を代表するweb3起業家になっていました。そこで感じたことは“この業界は学生や若さとの相性が抜群だ”ということです。

クリプト、NFT、DeFiはテックと金融の両方の性質を併せ持ちますが、既存の業界のように法・税制度が整っておらず、成熟しているとはいえません。また新しい技術や活用、組み合わせなどが日夜でてくるため学習体系も整備されていません。厳密にいえば、業界の移り変わりの速さから、学習体系の整備ができないといった方が正確かもしれません。

既存のビジネスで10年、20年やってきたベテランよりも、半年間クリプトで遊んでいた学生の方が素晴らしいものを作れる可能性が転がっています。

私は、自らが何千億や何兆円の時価総額のスタートアップを作るという未来を明確に描けていませんが、幸いなことに素晴らしい方々とのご縁に恵まれ、web3界隈の中でもトップクラスの顔の広さだと思っています。

そこで私自身が持つこのリソースを、私よりも上手く活用できる若い人に機会を作るという形で、私が一人で生み出す価値よりも、遥かに大きな価値を生み出せると信じて活動しています。

達成感を感じる時は、私の活動をきっかけに学生や若者から「雨弓さんのおかげで●●のインターン決まりました!」「最初はなんとなくイベントに行ったのですが、今は起業して□□というサービスを作っています!」という声をかけてもらえた時です。最高に嬉しいですね。

特に私が学生向けにやっている「COLORS」というイベントを2022年4月に第1回、5月に第2回、8月に第3回、11月に第4回を開催したのですが、第1回で参加してくれた学生が起業してNFTチケットサービスを作り、それを第4回のイベントで実際に使えたこともとても嬉しかったです。また、第2回では普通の学生として参加した方が、その後すぐにインターンとして活躍し始め、第3回のイベントでは登壇者として喋ることもありました。その時はあまりの成長の速さに笑ってしまいました。

渡辺創太さんとのエピソード
雨弓:印象的だったのは、彼が日本人3名のチームであった時から、Slackの中で公用語を英語にしていたことです。2019年くらいだったと記憶しています。英語が得意じゃないメンバーに対しても、「世界を取りにいくには英語でのコミュニケーションは必須で、今からやっていれば複利で効いてくる」と話し、行動に移す彼の姿は、純粋にすごいなと思いました。彼の言葉の節々・行動から本気で挑戦していることを感じ、身近に彼のような存在はいなかったので刺激を受けましたし、応援したくなるような熱心な人間だなと思っていました。
たわいもないエピソードでいうと、彼も事業家として駆け出しだった頃、お昼ご飯をご馳走した時に、「将来ステイク(Stake Technologies株式会社)の株1%でいいよ」と私がいって、創太は「絶対いやっす」なんて冗談をいいながら、ご飯を食べていたこともありました。まだ何も返してもらっていないので、アスター(ASTR)をいただけないかと思います(笑)。

―今回撮影協力をいただいている「MIRAI LAB PALETTE」では、さまざまな人々が出会い、刺激し合う多様なプログラムやイベントを提供されています。web3領域の事業者の中にはコミュニティづくりとイベントスペース等の場所の提供に注力されている企業も増えてきていると感じますが、web3事業者にとってコミュニティづくりと場所の提供はどのような意味を持つと考えていますか?

雨弓:コミュニティにとって、オフラインで交流ができる場所は不可欠だと考えています。元々、渋谷に「Neutrino (ニュートリノ)」というクリプト専門のコワーキングスペース兼イベントスペースがありましたし、「nembar(ネムバー)」というバーもあったのですが、暗号資産の冬が来てその両方が閉まってからは、なかなかオフラインで集まる場所がありませんでした。

ただ2021年初頭、音声コミュニケーションアプリのクラブハウスの流行とともに「みんなで集まって真剣な議論も馬鹿話もできる場所が欲しい」と改めて強く感じる出来事がありました。web3領域のコミュニケーションツールはクラブハウスやTwitterスペースが出るまではTwitterが主となっていたので、Twitterの使い方が上手な方の情報が流れてきやすい印象がありました。

しかし、音声コミュニケーションが増えたことにより、いつもは趣味の話しかつぶやいていないようなアカウントが、クラブハウスで話してみたら実際にweb3事業に携わっている有識者であったり、すごい能力を持った人材であったりと驚きました。web3領域で活躍する方と接する機会をいただく中で、情報の発信力が成果と必ずしも一致していないと感じています。

ちょうどその頃に「MIRAI LAB PALETTE(住友商事)」の担当者の方とのご縁もいただきました。“web3にある程度、特化させたイベントを開きたい”という私の提案をお伝えしたのですが、当時のNFTは「高値で売れた」といったニュースも多く、胡散臭さがあったので、慎重に活動すべきであると思っていました。

そこで2021年の初期は実際にプロジェクトを作っている会社の代表の方、あるいは確かな知見を持ったインフルエンサーの方にご参加いただきました。

秋頃に開催したイベントでは、「MIRAILAB PALETTE」設立後、イベント参加人数の最高記録を達成することができました。その実績などから「MIRAI LAB PALETTE」に信頼していただいて、現在の活動につながっています。

2021年の4月頃から、少しずつweb3人材を集めはじめ、今では100名以上のweb3関係者の方々が登録・利用されています。2022年1月からは「NFT部」を創設し、部長として常駐。銀座にある「Crypto Bar P2P」においても、オープン前からコンセプトやNFTの活用方法などに関わらせていただきました。

著書執筆の経緯
雨弓:2018年、私の働いていた貿易会社が倒産してしまいました。失業保険をもらうためにハローワークへ行く道すがら、新宿の書店で時間を潰している際に、「リップルの衝撃」という本に出会ったのです。その本を目にして、当時の私はビットコインキャッシュを推して活動していたので、ビットコインキャッシュを題材として本を書けないかと、その場で出版社に電話しました。この手の話を出版社側が取り扱うことはほとんど無いようですが、たまたまインターンで働いていた方が対応してくださったようで、運よく担当者に繋いでくれたのです。加えて、ご縁をいただいた担当者の方が私のことを知っていてくださっていました。ちょうどビットコインキャッシュかイーサリアムがテーマの本を出版したいと思っていて、知見がある人を探していた時だったそうです。
私自身、イベントやカンファレンスに参加したり、海外のビットコインキャッシュの有識者が集まる会議のスタッフをしたりしていて、その様子を日頃発信していました。暗号資産の技術の話、ビットコインとビットコインキャッシュは何が違うのか、当時あたらしく出たビットコインキャッシュ関連のアプリやウォレットについてなど、本にする内容を章立てして出版社の担当者様に提案しました。この提案は即承認していただき出版に至りました。ビットコインキャッシュが誕生したのが2017年8月1日。「ビットコインキャッシュの革命」という本を書いて、2018年8月1日に出版できたことは嬉しく思います。
余談ではありますがタイトルの通り“革命を起こすぞ”という思いで本を執筆したのですが、出版した年の11月にビットコインキャッシュとビットコインサトシビジョンに分裂して、革命を起こされる側だったというオチもあります(笑)

―2023年初旬には新ガジェット(VRゴーグル)のリリースも予定されており、メタバース領域の活性化も予想されますが、現時点でメタバースについてどのような考えをお持ちですか?

雨弓: Oculus Quest ・Oculus Goなど発売日に購入したほど、当時からどちらかといえば、ブロックチェーンよりVRの方がハマっていました。過去にはnoteに「なぜブロックチェーンはVRと相性が良いのか」というタイトルで記事を書かせてもらいました。クリプトは自由な分散型を求める動きが強く、メタバースも将来そうなるであろうと思っているからです。企業のプラットフォームがあって、プラットフォームに許されたサービスしか使えないというようなルールは、メタバースにおいても見直される必要があるのではないかと思います。みんなで決める法律があり、その法律や挙動に決済が一体化している感覚です。特にVRの世界は企業があまり出張ってくるとユーザーは萎えるところがあります。ハンターハンターの流星街のようなところですね(笑)。

他には、電子決済における少額決済を扱うサービス、マイクロペイメントをメタバース内で活用できないかということに興味があります。ブロックチェーンは技術インフラであると思っていて、VR空間内でライブが開催される際に、NFTを活用してメタバース上でも現実世界同様に観客席があり、自分の好きなアーティストがいる。時には最前列に行って、1秒間あたりとか1分あたり課金される。一番後ろの立ち見席は無料といったように、距離によって課金額が変わるといった仕組みを作れたら、よりリアルな体験ができるという意味で面白いと思います。

これらの理由で、ブロックチェーンとメタバースの相性は良いと思います。しかし、実現するにはハードウェアの開発が追い付いていません。コンタクトレンズほどのサイズにハードウェアが改良されるないし、イーロン・マスク氏が携わっている、脳に電極を埋め込み脳の信号で様々な活動が可能になる「ニューラリンク(Neuralink)」のような技術的な進歩がないとすべてを変えうるみたいなことは難しいと思っています。

―雨弓さんが主催する「COLORS」にインスピレーションを受けて、学生団体が立ち上がっています。雨弓さんが学生だったら「COLORS」とどのように棲み分けをして学生団体独自の色を出しますか?

雨弓:まずは「COLORSを上手く活用する」と思います。登壇者や参加している大人の中から同門の人間や仲良くなった人に声をかけて、自分達でやるイベントに登壇してもらいます。加えて大学生は「大学名」を借りられるという強みがありますので、それを使って活動すると思います。例えば登壇系のイベントにしても、大人からすれば「東京大学のweb3学生団体に呼ばれて講演してきた」とか「九州大学のイベントでワークショップを見てきた」とか、プロフィールとして紹介したい方々は多いと思います。

他にも地方などであれば、一大学単体でイベントを開催しても十分に人数が集まらない可能性があるので、県外を含めた地域の大学に声かけて、ブロック単位でまとめて「北信越web3大学連合」のような括りで活動すると思います。

web3イベントはまだまだ人が集まらない環境にあると思うので、大学がやっているイベントに絡めたりして経験を積めば良いと思います。環境が恵まれているところはそれを生かせばいいし、手札が悪いと思っている方々はどのようにゲームのルール自体を変えるかということを思考すればいいと思います。

イベントを開催する上で、意識していること
雨弓:イベントに関しては、さまざまなジャンルの人を集めるということを意識してやっています。もちろん、イベントによっては特定のテーマを深掘りする会にしても良いと思うのですが、私自身が一つの領域についてすごく深く精通しているというわけでもありません。だからこそ、今まで参画させていただいた事業を通して培ったweb3領域の多ジャンルの知見を活かして、web3に興味があってこれから参画を考えている方、比較的初めて触れる層にも、わかりやすい内容の話が聞けるイベントの企画が得意なのだろうと思っています。
また、登壇者は原則「私が話を聞きたいと思う現場の人」が多いです。有名な人や凄い人は他のカンファレンスで常連のようにお話しされていますし、パネルディスカッションで「NFTの未来」とか「BCGの可能性」、「メタバースについて」みたいなテーマにするとどうしても話の内容が薄くなります。私が意識しているのは、「尖りまくったプロジェクトの尖りまくった人材」がたくさん集まるイベント、みたいなイメージですね。

―新たにweb3領域に挑戦する方にメッセージをお願いします。

雨弓:自分の行動によって、選択肢が増やせるという体験をしてほしいと思っています。私も学生だった頃は、「大手に行って安定した企業に入って、それなりにお金を稼げて、休みが多ければなんでもいいや」という考え方でした。ただ実際に社会に出てみると「仕事が」人生を占める割合が非常に大きい。転職も経験して思うことは、自分が今いる環境では出会うことのないような人たちと関わることで多様な人生観や選択肢を感じてほしいと思います。

スタートアップにインターンで参画するとか、テック業界を見てみるとか、クリプト・NFTを買ってみるとか。色々な世界を見た結果「自分はこの世界が好きだな」と選択してもらえたら嬉しいです。さまざまな選択肢を知らないうちに、自分の進む道を制限しないで欲しいと思います。

最後に恐縮ではありますが、私が代表を務めるRainbow Chainのテーマから一言お伝えさせてください。

「可能性に、蓋をするな」

RainbowChain CEO
雨弓
株式会社Rainbow Chain 代表、住友商事オープンイノベーションラボPALETTE NFT部 部長2017年にクリプトに興味を持ち活動を開始。2018年には仮想通貨の書籍を出版し、外資系仮想通貨交換所を経て3年弱ブロックチェーンコンサルタントを経験。2022年に住友商事オープンイノベーションラボPALETTEにNFT部を創設し、現NFT部 部長。UniCask、銀座渡利、Crypto Bar P2PなどNFTを活用したプロジェクトに参画し活躍。

(提供:月刊暗号資産