この記事は2023年2月12日に「月刊暗号資産」で公開された「Web3.0領域への女性進出について考える─たぬきち×西村環希」を一部編集し、転載したものです。


WEB3
(画像=Jesse/stock.adobe.com)

世界的な課題となっている「シーセッション(女性不況)」。Web3.0領域ではさまざまな働き方があり、こうした課題解決の糸口になると期待されている。
“コミュニティづくり”の第一線で活躍する「ロールモデル」たちは、いま何を思う─

2023年1月20日(金)発売の月刊暗号資産3月号Vol.47より

─今回は対談形式のインタビューとなっていますが、お二人はすでに面識はありましたか?

西村環希氏(以下、西村):先日イベントでご挨拶をさせてもらったのが初対面でしたので、ほとんど初めてです。私のクリプト活動の始まりは、今年6月に開催された「NFTNYC2022」に参加した頃からで、当時からたぬきちさんの活躍は拝見していました。

たぬきち氏(以下、たぬきち):今年の「NFTNYC2022」は盛り上がっていましたね。出席された方もすごく多かったですし、ホルダー限定イベントもたくさんありました。私自身もイベントを主催させていただいている中で、本場ではどのような動きで、どのような方々が関わっていて、どのようなカラーなのかを自分の目で見て体験したかったという思いが元々ありました。持ってないNFTもあったけれど、どうしてもほぼすべてのイベントに参加したかったので、友人に借りて参加しましたね。

結果的にほとんどが移動時間だったのですが、車でも間に合わないと思う時は浴衣姿でニューヨークの街を走りました(笑)。

西村:でもいろいろなホルダーイベントに入り込めるのはすごいですよね。

たぬきち:無理やりですけどね(笑)

─お二人の現在のお仕事・活動と現在の活動に至ったきっかけをお話いただければと思います。

西村:私は「NFT NYC2022」に参加した際、英語の“go down the rabbit hole”という表現のように、まさにウサギの穴に転げ落ちるみたいな感じで魅了されました。

以前は訪日外国人向けのツアー作成や、ガイドの育成、そしてイベント主催など、いわゆるインバウンド関連の事業に携わっていました。ただ、このご時世で事業が厳しくなり、次に何をすべきかを考えている時にブロックチェーン・「web3」に出会いました。

その後、「web3」領域の勉強をしている中でDAOの話を聞き、その時に概念や仕組みがすごくしっくり来ました。ニューヨークには「EmpireDAO」という名前の、「web3」関連事業を行なっている人たち向けのシェアオフィスがあり、CryptoBaseはここからインスピレーションを受けています。

ちなみに、現在私が働いているガイアックスはティール組織的だといわれていて、個々人が自分らしく活躍する場所であることを大事にしています。また、事業部ごとの独立採算制を採用しており、各々が「こんなビジネスをやりたいから予算をください」と事業を計画し、予算を確保しています。社長との関係も上司というより、投資家とベンチャーキャピタルの関係のような感じですね。

たぬきち:初めは投資の選択肢として面白そうだなと思い、2021年の春頃にDeFiから暗号資産に触れ始めました。DeFiに興味を持ち、そこからWeb3.0領域のいろいろなことを勉強していきました。SNSやイベントの運営など、現在の活動を始めたのは今年に入ってからです。

─DeFiを利用するのは初心者にとってハードルが高いようにも思いますが、どうして興味を持ったのでしょうか?

たぬきち:元々、株式やFXなどの投資を行っていました。当時は全体的に相場感も良く、「仮想通貨」がすごく盛り上がっている時期で、私もビットコインやイーサリアムを少し持つところからスタートしました。でもその当時は正直違いをよくわかっていません。ブロックチェーンの仕組み自体も詳しくなくて、勉強のために調べていくうちにパンケーキスワップに出会ったのです。

それからDeFiの仕組みを調べていくうちに、今後も世界中でこれがスタンダードになっていくかもしれないと感じました。かわいらしい見た目のキャラクターがいて、初めての方でも触れやすいところも魅力だと思っています。

Web3.0領域の情報収集においてTwitterの重要度に気づき、自分のアカウントを作り情報収集を始めました。

─日本国内のWeb3.0領域の人材の多様性が限定的である理由はどこにあり、その課題を解決していくにはどのような方法があると考えますか?

たぬきち:私自身もこの業界のイベントに参加してみて、女性は私だけという現場をたくさん経験しました。もちろん男性とも仲良くもなれますし、お話することもたくさんあります。それでも自分のわからないことなどを素直に聞きにくい場面が少なからずあると感じていました。そのような経験から、みんなで協力ができて話せる場所を自分が提供できるような存在になれたらと思いイベントや勉強会の開催を行うようになりました。

イベントや勉強会を開く時には、みんなが相談しやすくて明るい雰囲気の環境にすることを心がけています。Web3.0領域にも活躍している女性がこれだけいるということを一般の方にも知っていただけたら嬉しいです。ですので、このような場所を提供することが、Web3.0領域において多様性が限定的であるという現在の課題解決につながると考えています。

西村:私はロールモデルとなるような方の存在が、「web3」領域でも大切だと感じています。私がアメリカのあるイベントに参加した時、登壇者の約半分が女性でした。日本ではまだ登壇者のうち男性が占める割合が多いですが、そのイベントを通じて「web3」領域にもたくさん女性が活躍できる場所があると知ってもらうことや、「私でもできそう」と感じてもらえるような環境づくりがすごく重要だと感じました。

たぬきち:先日海外のイベントで登壇する経験をさせていただいたのですが、私は英語が上手なわけでもないし技術者でもないので、改めて暗号資産やブロックチェーンの難しさを感じました。それでも、勉強しながらやってみて、わからないところもありのまま発信しています。そんな私の活動が、誰かを勇気づけられる一つの要因になれば嬉しいですね。

西村:とある男性有識者の方に話してもらったのですが、その方は女性が出ないイベントには登壇されないことを徹底されているそうです。これは私もできるかわからないと思いましたが、できないとしてもそういう意識を持つことが多様性というものを考える際に重要だと感じましたし、小さなところでも領域にとっては重要な一歩だと考えています。

その話を聞いてから私もできることからやろうと思い、イベントに出る際には女性を登壇者として紹介するようにしています。

─国内に留まらず海外でも積極的に活動されてきたお二人からみて、Web3.0領域の働き方・カンファレンスの様子で国外と国内で感じている違いはありますか?

西村:パネリストも参加者側も、女性比率が全然違うことは感じています。恐らく海外は40%くらいの方が女性です。

たぬきち:日本でも少しずつ増えつつありますが、女性比率は10〜20%くらいですよね。

西村:あまり日本では見かけないのですが、アメリカのカンファレンスだとTシャツに短パンスタイルの方もいらっしゃいます(笑)。

─こうしたらこの領域の働き方良くなるかもみたいなものはありますか?

西村:国民性や働き方の違いは前提としてあるかなと思います。日本はフルタイムの本業が忙しく、転職にも積極的ではないし、終身雇用の文化も残っていますよね。個人差はあるけれど、アメリカでは次の転職のことを常に考えている方も多く、スキルアップのために余暇の時間は勉強したり、イベントに参加したりしている方が比較的多い印象です。

ただ、「web3」領域ではまだ未成熟な部分も多く、DAOなどを通じて参画しやすいかと思います。自分に合った働き方が選びやすいのは、「web3」領域の良いところだと思います。

─より多くのユーザーがWeb3.0領域に参加しやすくなるにはどのような方法があると思いますか?

西村:CryptoBaseでは最近「Dework」というツールを使ってタスク管理を行なっていて、ここではトークンを活用しています。具体は、タスクをオープンにしているため誰でもそのタスクに取り組むことができ、終了したらトークンが自動で付与される仕組みです。これは面白いなと思いました。

これを多くこなしている人からは『ロール(役職)を付与してほしいです』と言われたことがあって、その時に『なるほど、そういったニーズがあるのか』と感じました。●●会社の□□部署です、という肩書以外にもグローバルプロジェクトの日本コミュニティマネージャーや、プロジェクトリード、など多様な肩書が増えてくると思います。「web3」領域ではタスクや方向性などがオープンになっているプロジェクトが多いため、参加や貢献のハードルがかなり低いと感じています。

たぬきち:Web3.0領域では現在、コミュニティが重要だとよくいわれるようになっていますよね。Discordコミュニティの中で自分が特定のNFTを持っていることを証明して、役割ロールを入手し、自分がどのような役割を担っているかなどの意思表明をしたり、今後そのNFTプロジェクトがどういう活動をしていくのかについて投票を行うことがありますので、Web3.0領域全体でもそういったロールの付与が入り口になるのかなと思います。

西村:会社で働くだけではなく、新しいアイデンティティができるみたいな感じでしょうか。

たぬきち:それから海外と国内で感じている違いという点では、私は正直Web3.0領域での働き方で特別な差はないと感じています。

Web3.0領域は場所や時間、服装が自由じゃないですか。全てにおいて自由に働けるというところが、女性にもすごく向いているなと思っています。女性の働き方やライフスタイルというのが世界的に多様化されている中で、Web3.0業界は本当に多くの方が働きやすいのではないかと私は思っています。

でも、その現状やどういう仕事をしているのかというところ、そしてNFTやクリプトを含めたWeb3.0の認知度の低さを考えると、個人的にはゼロイチの部分を知ってもらう活動が重要になると考えています。そうした活動を通じて一般の方たちが知っていくというのは一つのキーワードになると思います。

最近の話だと、Web3 Girlsで出会った方たちが何人かで集まってイベントに参加したという話を聞きました。私もWeb3.0領域で活動を始めたばかりの時にそんな環境や仲間が欲しかったので、その様子を目にできてすごく嬉しい気持ちになりました。

西村:CryptoBaseで行った「Women in Web3」というイベントの時もWeb3Girlsの方が参加してくださっていて、質問もいただいたのですが、その際に彼女たちの熱量をすごく感じました。すごく素敵で濃いコミュニティだなと思いましたね。

たぬきち:みんなで集まって活動する楽しさはありますよね。勉強していても、自分一人でやっていると、どこまでやったらいいかとか、モチベーションの維持とか、すごく難しいのかなと思います。でも話し合える相手がいること、わからないことがあれば教え合える仲間がいることで、コミュニティのみんなが新しいものを知る機会が生まれて、興味を持って一緒に楽しむことができるというのは素敵なことかなと感じます。

─お仕事や活動をされる中で女性の感性・視点が生きる機会だと感じる瞬間をお訊かせください。

西村:男性と女性の大きな違いの一つとして、妊娠出産が大きな機会になっていると思います。私自身も一昨年に出産を経験しました。新卒の年だったこともあり、出産前は今後のキャリアについて不安を感じる部分はもちろんありました。育休を取らずに2ヵ月少しで復帰したことや、子育てに関してはたくさん周りの協力を得ることで、結果、ブレーキを踏まずにアクセルを踏み続ける事ができていると感じています。「できるじゃん!」と思いましたね。

現実問題、将来の事を考えてキャリアにストップをかけてしまう人がいるのかなとは思うのですが、未来の事を考えて、今ブレーキをかけしまうのはもったいないなと個人的には思います。ロールモデルになる人たちがそういった不安を抱える人たちの後押しができる活動は女性だからこそできることかなと思いますね。

たぬきち:一般的な話では、女性は聞く能力と伝える能力が長けていると聞いたことがあります。NFTプロジェクトなどで非常に重要なポジションとなるコミュニティマネージャーの業務も女性が向いているといわれやすいです。実際、「コミュニティマネージャーに女性の意見も欲しいと思っているのだけれど、適任の方はいませんか?」と相談を受けることも多いです。

一方で、個人的には人それぞれに得手不得手はあると思うので、そのようなことも性別だけで一概にはいえないと思っています。先ほど西村さんもお話しされていましたが、Web3.0領域は特に働き方の選択肢がたくさんあるように感じるので、自分のライフスタイルに合ったお仕事を、自分で選択することができるのは良いところです。その強みを活かせるような機会が生まれるといいですね。

─最後にWeb3.0領域に興味がある女性に対して、きっかけとなるようなアドバイスをお願いします。

西村:まずはWeb3Girlsに入っていただきCryptoBaseに来ていただくのがいいのかなと(笑)。

この業界はやることや人も含めて全部面白いですし、本当に多岐にわたっています。業界的にどうしても開発者の方がたくさんいると思われがちで、私自身もそういったバイアスが入っていましたが、今振り返るともったいなかったなと思う部分が大きいです。輝ける仕事はたくさんありますし、バイアスのようなものを捨ててチャレンジしてみるのもいいのかなと思いますね。

たぬきち:今後Web3.0領域は、確実に一般化していくと信じています。圧倒的にあたらしい技術とあたらしい領域なので、あたらしいものが集まってきます。あたらしいファッションであったり、あたらしい音楽・化粧品であったり、いろいろなあたらしいものがWeb3.0と関わってきているので、あたらしいもの・あたらしいことが好きな方は、楽しめる場所があると思います。

お仕事として関わるだけじゃなくて、ユーザーとして関わるだけでもいいと思っていますね。今回の企画を通して興味を持ってもらえたら一度イベントに参加していただいて、何でも訊いてもらえたら嬉しいです。

Web3Girls Founder
たぬきち
HONEYCON創業者。Twitterを中心にWeb3・NFTの情報発信を行う。BlueChip NFTホルダー限定イベントや音楽NFTイベントをはじめとした多数の「Web3IRL」イベントの主催、登壇をしながら、コミュニティでも幅広く活動する。Web3業界で活躍する、または働きたい女性を支援するためのWeb3Girlsを発足。「IVS Crypto」公式アンバサダー。「BluechipParty」共同創業者。BCCCエバンジェリスト。
株式会社ガイアックスDAOプロジェクト責任者
西村環希
高校在学中よりフィリピンの現地NPOとスタディーツアーの企画販売から現地添乗員を担う。大学在学時より株式会社ガイアックスにて訪日旅行者向けツアーガイドのプラットフォームの運営やイベントショー事業の責任者を担う。2022年よりクリプトに将来性を感じ、web3特化シェアオフィス「CryptoBase」をオープン。ReFi事業を立ち上げ中。

(提供:月刊暗号資産