かつてテレビCMで「24時間戦えますか?」と流れていた日本で、近年は「働き方改革」の名の下に労働と休暇に対する考えが大きく変わっている。経営者も例外ではなく、四六時中オフィスで机に向かうトップの姿は「是」とされなくなってきた。
そんな時代に求められるトップの姿を、余暇や趣味の観点から見直してみよう。
目次
経営者は「仕事」に没頭すべきか?
経営者は会社を経営することで、社員やその家族、取引先、地域などに重い責任を負っている。その責任の大きさや範囲の広さから、「1分、1秒でも惜しんで働く」というスタンスの経営者も少なくはない。
もちろん、たくさん働けば経営者自身の仕事の成果は上がるだろうし、ひいては会社が一段と成長するだろう。ただ、トップが長時間にわたって働いた結果として生じるのは、プラスの効果ばかりではない。
例えば、経営者個人としては健康を害する恐れがある。「体は資本」と言われるように、寸暇を惜しんで働いても、体調を崩して入院するような事態になっては元も子もない。トップの力量に依存する度合いが高い組織ほど、トップが体調を崩すと経営が傾きやすい。
さらに、組織運営上の問題もある。職場で上司が残業していると、部下は先に退勤しにくいものだ。「ワークライフバランス」という言葉が社会に定着してから大人になった世代にとって、自分本来の業務が終わっても帰りにくい状況はストレスとなる。そのようなストレスで社員に辞められては、それまでに費やした採用コストや人材育成コストを棒に振ってしまう。
これらの事情から、今日の経営者は労働時間が長いという意味で仕事に没頭すべきではないかも知れない。むしろ考え方を転換し、余暇や趣味を仕事に生かす方法を考えたいところである。
趣味が仕事に良い影響を与える理由
「趣味=単なる遊び」と捉えてしまうと、趣味に充てる時間は一見無駄に思える。そこで、ここでは仕事で成果を出すためのツールとして趣味を考えたい。
精神的な「休息」「リフレッシュ」になる
経営者は孤独なものだ。自身は気力が十分なつもりでも、精神的な疲労は見えないところに蓄積している。定期的に趣味の時間を確保することで、ふと立ち止まって心を安らげる瞬間を意識的につくってはいかがだろうか。
この「意識的に」というのが肝心だ。「心機一転」という言葉は、何かをきっかけに気持ちが良い方向に切り替わることを表す。逆に、気持ちを良い方向に持っていくため、意図して機会を設ければ、気持ちがリフレッシュし、仕事に好影響を与える効果も期待できる。
スポーツなら身体的な健康面からも◎
前述のように、いわゆる「働き詰め」では、健康を害する恐れがある。趣味はあまたあれども、それがスポーツなら健康維持の観点から望ましいと言える。
「スポーツ」というと大げさに聞こえるが、まずはウォーキングやジョギング、学生時代に親しんだスポーツ、ストレッチなどから始めてみるのも良いだろう。
別の「視点」を持てるようになる
以上は、趣味に時間を割くことで、自身の身体や精神に直接的に期待できるプラスの影響を挙げてきた。これに加え、趣味には副次的なメリットも多くある。その1つが、普段とは異なる視点を持てることだ。
自分の会社にいると、自身は「トップ」であり、周囲は「部下」という関係が固定化している。それ自体が悪いわけではないが、趣味により経営者としての立場を外れ、例えば「アマチュア画家」「陶芸家見習い」「テニス愛好者」といった立場に自分を置くことで、見える世界が変わるはずだ。
それは「プロ」から「ビギナー」になることで世間を見る角度が変わるだけでなく、自社の業務で扱わない道具や素材に触れる。異なる業界のビジネスモデルの中に身を置いてみることで、新たな気付きを得られるかもしれない。
普段とは異なる人間関係が広がり、ビジネスチャンスにつながることも
趣味の中には、年齢や職業、経済状況と無関係に多くの人が楽しめるものも少なくない。例えば、囲碁や将棋などは老若男女、誰でもプレーヤーになれる。小学生や中学生と向き合ったかと思えば、何十歳も年上の高齢者と対戦することもあるし、日ごろ接点のない職業の人と付き合いが始まる可能性もある。
人間関係の幅が広がれば、その分、ビジネスチャンスが広がるとも言える。1つ前の項目で紹介したように、趣味を通じて視野を広げ、人付き合いの幅を広げ、本業に生かしたいものである。
仕事の「オン」「オフ」がはっきりして、メリハリがつく
最後に、特に経営者自身の力量に負うところが大きな中小企業では、経営者はオン・オフの境目が曖昧になり、常に仕事モードが続いてしまうことがある。
これまで述べてきた通り、趣味はいったん業務と距離を置き、自分の心身をリフレッシュさせる好機であるとともに、最終的には本業に生かせる可能性も持っている。まずは、趣味によってオンとオフを切り替えて生活にメリハリを付け、その上で、趣味を通して得た直接的な効果だけでなく、副産物を活用し、社業の一層の飛躍を目指してはどうだろうか。