特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。
株式会社ラキールは、2005年6月に創業。現在は東京都港区に本社を構え、企業のDXを支援するプロダクトサービスとプロフェッショナルサービスを提供している。2021年7月に東証マザーズ市場(現グロース市場)に上場した。本稿では代表取締役社長の久保努氏に、事業の特長や上場に至った経緯、将来の展望などについて伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
「LaKeel DX」の開発で急成長
―― 最初に株式会社ラキールについて、ご紹介ください。
ラキール代表取締役社長・久保 努氏(以下、社名・氏名略):当社は2005年6月10日に、レジェンド・アプリケーションズという社名で創業しました。5名の創業メンバーが中心となりソフトウェア開発を主業としていましたが、さらなる飛躍を目指し、2011年9月には人事給与パッケージなどで飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していたワークス・アプリケーションズのグループ会社になりました。ところがその後、同社の経営が難局を迎えたこともあり、2017年11月に経営陣によるMBOを実施し、このタイミングで事業モデルをクラウドにフォーカスした製品サービスにシフトしました。2019年10月に社名を現在のラキールに変更し、2021年7月には現在のビジネスモデルをもって東証マザーズ(現東証グロース)市場に上場しました。
当社は「デジタルネイティブカンパニー」を標榜し、スマートフォンのようにデジタルをビジネスにおいても日常的に使いこなす世界を目指しています。具体的には企業のDXを支援するプロダクトサービスと、プロフェッショナルサービスの2本柱で事業を展開しています。
▼株式会社ラキールの事業内容
プロダクトサービスではビジネスアプリケーション開発運用基盤の「LaKeel DX」を開発し、人事給与パッケージやデータ分析ツールなど、「LaKeel DX」上で稼働する製品を十数種類販売。これに伴うコンサルティングサービスも提供しています。現状は約300社超の取引先があり、その3分の2が上場企業です。
――取引先はどのような業界が多いのでしょうか。
金融業界に注力してきたこともあり、現在は銀行や保険、証券など金融機関が多いです。人事や給与など情報系システムから入るケースもありますし、特定の部分を「LaKeel DX」で開発し、基幹システムと連携している場合もあります。
――「LaKeel DX」の特徴を教えてください。
「LaKeel DX」はすべてのソフトウェアを部品単位で作り、これを組み合わせることでターゲットとなる業務アプリケーションを構築できることが大きな特徴です。当社はこの技術で特許を取得していますが、アプリケーション開発に利用できるソフトウェア部品は既に3500を超えており、常に最新の状態で管理されているため、いつでも必要な時に再利用することができます。これが「サステナブルソフトウェア」と呼ばれる理由です。お客様は、既存ビジネスの改革や新しいビジネスのニーズに対し、ソフトウェア部品を組み替えたり、追加することで迅速かつ柔軟に対応することができるようになります。これによりスクラッチ開発よりスピーディーに、パッケージ製品より柔軟に対応することが可能で、競合他社との差別化になっています。
▼「LaKeel DX」の特徴
ソフトウェアが部品単位で再利用しやすい状態で蓄積されているため、グループ企業などへ展開しやすいのも特徴です。当社の取引先が自社開発した機能部品を他社に流通させることも可能にしているので、実際は当社が作るだけでなく、お客様に「作ったものをビジネスに活用してはどうですか」と、ソフトウェアを活用したビジネスの視点からDXの提案も行っています。
例えば、三菱商事様は「LaKeel DX」を自社のプラットフォームとして採用し、開発した業務システムをグループ会社に展開して、食品ロスをなくす取り組みをしています。IT投資で自社のデジタル化にとどまらず、投資した資産を利用して、新たなビジネス機会を創出することができますので、技術資産として活用すべきです。
一方、当社は創業から取引させていただいているお客様も多くあります。当社が以前開発させていただいたシステムを使っていますので、プロフェッショナルサービスと呼ぶ保守・運用などを担う部門もあり、安定的な収益源になっています。現在の売上比率は4:6とプロダクトサービスのほうが多いのですが、2017年時点では9:1でしたから、プロダクトサービスが急成長したことになりますね。
――プロフェッショナルサービスから、徐々にプロダクトサービスに軸足を移したということでしょうか。
2017年にMBOを実施した時に、これまで通りのSI事業だと、結局は人の数に依存する労働集約型ビジネスになってしまう。そこで勝負するのではなく、人の数に依存しない知的集約型ビジネスをすべきだと考え、プロダクトサービスに大きく舵を切りました。今後もプロダクトサービスをさらに伸ばしていく方針です。ただし、これまでに私たちが開発し、既にお客様で稼働しているシステムを投げ出すわけにはいきません。既存のお客様に対してのサポートは今も継続しつつ、クロスセルにより、当社のプロダクトサービスもご提案させて頂いています。
IPOの結果、新卒・中途ともに採用がスムーズに
――2021年7月には東証マザーズ(現東証グロース)に上場しました。
MBO以降、人材の獲得や製品の認知度向上を進める中でIPOは効果的ですから、できるだけ早く実施したいと考えていました。その中でプロフェッショナルサービスからプロダクトサービスに舵を切り、第二の創業という気持ちで勝負に出ましたが、製品を作る間はプロフェッショナルサービスが収益を上げないと赤字となってしまうので、正直焦りはあったと思います。2019年に「LaKeel DX」の初版が出て、そこから上場するまで約2年かかりましたが、市場のトレンドがDXに向いてくれたことは追い風でした。コロナ禍も関係しているでしょうが、IoTやAI、DXというキーワードが世に出るようになり、お客様に当社の製品やサービスを紹介するのには良いタイミングだったと思います。DXのニーズはますます高まり、IPO後も多くの引き合いをいただいています。
上場して変わったことの1つは、IR関連の業務が増えたことです。従業員の労働環境の整備も進めていて、2021年には一般財団法人日本次世代企業普及機構(ホワイト財団)が主催する「ホワイト企業アワード」において、ワーク・ライフバランス部門と健康経営部門で受賞することができました。上場前と比べると新卒・中途ともに以前ほど採用難ではなくなり、多少は人材が集まりやすい環境になっていると感じています。
ソフトウェア業界に革命を起こす
――コロナ禍で上場された立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、ビジネスへの影響をどのようにお考えですか。
2023年以降、経済は回復基調が維持されると思いますが、原油・資源価格の高騰や日本と海外の金利差に伴う輸入物価の上昇、企業業績の悪化など、課題があることも確かです。
当社のビジネスへの影響ですが、基本的に企業の設備に対する投資マインドは衰えておらず、中でも情報関係のDXや投資は顕著に伸びると考えています。当社のメインターゲットである銀行や証券、保険業界の景気は基本的に悪くなく、DXのニーズはまだまだあり、ネガティブな影響はほとんどないでしょう。改善提案などを通じて、受注につなげたい考えです。
一方、インフレによって社員の名目上の収入は上がっていても、実質的な賃金は下がっている場合もあるので対応を急ぐ必要があります。社会的にコスト高になっても、当社サービスを簡単に値上げできるかいうとそうではないので、これは課題です。また、若手の安定志向や少子化により、中小企業やベンチャーは人手不足に陥っています。我々の業界も例外ではなく、リクルーティングやハイヤリングがうまくいかなければ、影響はゼロではないでしょう。
――さらなる成長に向けた目標や、5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。
売上に関しては、当面は毎年20%以上の成長を継続できればと思います。営業利益は現在10%前後ですが、中長期的には15~20%を目指します。
ビジネスの未来構想としては、ソフトウェアの作り方を根本から変えようとしています。ソフトウェアを部品化して組み合わせる技術が普及した状態を想定すると、プラットフォーム上でソフトウェア部品の流通、さらには取引が始まり、そこにはバイヤーやディーラーも登場するかもしれません。コンサルタントは、組み合わせの目利きをするといった役割を担うかもしれません。ソフトウェア業界の中で新しい職種も生まれる可能性もあるでしょう。これらのことを想定しつつ、当社はアプリケーションのプラットフォーマーになりたいと考えています。ソフトウェア業界の中で、そういう立場になることを狙っています。
ソフトウェアが流通し始めると、新たにより踏み込んだビジネスモデルが生まれると思います。それは多くの人にとってもチャンスです。今はITベンダーのトップ数社とその下請け多重構造という業界ですが、変えることができれば、より良くなっていくと思います。
――最後に、ZUU onlineの読者にメッセージをお願いします。
当社は2021年に上場したばかりの会社ですが、「LaKeel DX」の提供を通じてソフトウェア業界に大きな技術革新を起こそうと考えています。私自身も今後の成長を楽しみにしておりますし、投資家の皆様にも応援していただきたいと思います。ご期待ください。