ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、投資先や取引先を選択する上で投資家のみならず、大手企業にとっても企業の持続的成長を見極める視点となりつつある。本企画では、エネルギー・マネジメントを手がける株式会社アクシス・坂本哲代表が、各企業のESG部門担当者に質問を投げかけるスタイルでインタビューを実施。今回は、モリト株式会社社長室室長の佐藤誉至夫氏と事業戦略本部の藤原まゆみ氏、モリトアパレル株式会社マテリアルデザイン事業部部長の大内良洋氏にお話を伺った。

ハトメ・ホック・マジックテープ®などの服飾向けパーツの他、自動車や鉄道などの輸送機器や映像機器などの部品も扱うモリトグループ。グループ会社を統括・管理するモリト株式会社を中心に国内8社の連結子会社、海外14社の合計22社を擁し、モリトアパレル株式会社は主にアパレル資材などの企画開発、製造販売を手がけている。近年は廃漁網を材料とした製品の製造、化学繊維の端材を活用した製紙手法の確立など、環境問題に対応したものづくりを進めている。本稿では、環境・脱炭素のテーマを中心に同社の取り組みや成果、今後目指すべき姿を紹介する。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

モリト株式会社
佐藤 誉至夫(さとう よしお)
――モリト株式会社 社長室 室長(中央)
1999年入社。入社以来、海外向けにアパレル資材・製品の販売・開発を行い、2002年より2012年までモリトの子会社モリトヨーロッパ(オランダ)に駐在。在欧中、欧州諸国の多様でサステナブルな取り組みを肌で感じる。帰任後は海外向けに機能性商品、サステナブルな商品を中心に提案。2019年より現職。
藤原 まゆみ(ふじわら まゆみ)
――モリト株式会社 事業戦略本部(左)
2001年入社。入社以来、経営企画、営業事務、海外向け営業と幅広い業務に携わる。子育てを通して、環境保護や自分たちにできることを行うことの大切さを痛感。2020年より、モリトグループの環境配慮型商品のプロジェクトを担当。
大内 良洋(おおうち よしひろ)
――モリトアパレル株式会社 マテリアルデザイン事業部 部長(右)
2001年入社。入社以来、国内向けのアパレル資材の販売・開発を行い、2020年よりモリトグループの環境配慮型商品のプロジェクトを担当。2022年に新設されたSDGs課の課長を兼務し、サステナブルな商品の開発や取り組みを推進。

モリト株式会社
「積極・堅実」という創業理念のもと、ハトメ・ホック・マジックテープ®などの服飾の付属品(パーツ)を提供し、2023年に創業115周年を迎える。現在は、自動車や鉄道などの内装部品や文具・教材など皆さまの生活に溶け込んだ様々な商品を企画・開発・販売するメーカー機能をもった商社として、国内外で高いシェアを獲得。また近年は、高機能な環境配慮型の商品など、高付加価値商品の開発にも注力。
坂本 哲(さかもと さとる)
―― 株式会社アクシス代表取締役 1975年生まれ、埼玉県出身。東京都で就職し24歳で独立。情報通信設備構築事業の株式会社アクシスエンジニアリングを設立。その後、37歳で人材派遣会社である株式会社アフェクトを設立。38歳で株式会社アクシスの事業継承のため、家族とともに東京から鳥取へIターン。

株式会社アクシス
エネルギーを通して未来を拓くリーディングカンパニー。1993年9月設立、本社は鳥取県鳥取市。事業内容はシステム開発、ITコンサルティング、インフラ設計構築・運用、超地域密着型生活プラットフォームサービス「Bird(バード)」の運営など、多岐にわたる。

目次

  1. モリトグループのESG・脱炭素に対する取り組み
  2. モリトグループの脱炭素社会における未来像
  3. モリトグループのエネルギー見える化への取り組み

モリトグループのESG・脱炭素に対する取り組み

アクシス 坂本氏(以下、社名、敬称略):アクシス代表の坂本です。弊社は鳥取県に本社を構える、システム開発を中心としたIT企業です。ここ10年は再エネの見える化に関するプロダクトも手がけており、クライアント企業のDX支援もしています。地方にありながら、お客様の90%は首都圏のプライム企業というのも特徴です。今回は、御社のESGに対する取り組みについて勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。

モリト 佐藤氏(以下、社名、敬称略):弊社は創業115年目を迎えます。靴やアパレル系資材の製造・販売が祖業ですが、115年の間にビジネスは広がり、新幹線や自動車の内装部材、電子機器の部材なども手がけるようになりました。昨今は、取引先様のSDGs・サステナブルの課題に関する提案もしています。私はしばらく海外営業部にいて、2002年から2012年までオランダ・ロッテルダムに駐在しており、当時はSDGsという言葉はありませんでしたが、オランダ人のサステナブルを意識した生活を肌身で感じる経験をしました。日本に帰国してからもそれを意識した取り組みを継続し、現在は社長室でIR広報、M&A案件などを担当しています。本日はよろしくお願いいたします。

モリトアパレル 大内氏(以下、社名、敬称略):モリトアパレルの大内です。私はモリトの販売子会社であるモリトアパレルのマテリアルデザイン事業部の部長として営業を担当しており、2022年度に新設されたSDGs課の課長も兼任しています。どうぞよろしくお願いいたします。

モリト 藤原氏(以下、社名、敬称略):モリト事業戦略本部の藤原と申します。弊社の環境に関する初のプロジェクトが事業戦略本部で立ち上がると同時に参加し、今も取り組みを進めています。家庭では子どもたちと山や川など自然に触れる機会が多く、普段見えていなかったものが見えるようになる中で、私たちにはもっと考えるべきことがあると気付きました。それを仕事にも活かす日々です。本日はよろしくお願いいたします。

坂本:モリトグループはESG・脱炭素に積極的に向き合っていらっしゃいますが、最初にこれまでの取り組みや成果についてお聞かせください。

佐藤:グループ各社でSDGsを意識した取り組みを進めてきましたが、全体にどう落とし込むかについて議論を重ねた結果、2022年9月にサステナブル推進室を立ち上げました。2023年1月にはサステナビリティ関連のウェブページを刷新し、サステナビリティ方針の策定・マテリアリティを特定するなど、さまざまな情報も開示したところです。今はこれらを、各グループの事業活動に落とし込む作業を進めている段階です。

具体的な取り組みをご紹介します。弊社はアパレルから自動車まで、サステナビリティに取り組むメーカーとお付き合いがあり、私たちに何ができるかを考えてきました。行き着いたのは、機能性を保ちながらサステナブルな商品を開発することです。かつ、サステナビリティをトレースできることも重要で、私たちはこれを「本物」と呼んでいます。

そのような中で、現在力を入れているのが廃漁網の活用です。昨今は海洋プラスチックの問題が議論されていますが、最大の原因は漁網を始めとする漁具といわれています。これを弊社が活用する方法を考え、まずは材料メーカーの方と北海道厚岸町の漁業関係者と取り組みを始めました。最初はアパレルから展開し、今後は自動車業界などさまざまな業界に広げる活動を行っているところです。

坂本:どのような経緯で、環境配慮型の商品開発を行うようになったのでしょうか。

佐藤:もともと、製品の製造過程において環境に配慮したプロセスを採用し、環境にやさしい新製品の開発・販売に向けた取り組みである「C.O.R.E.」(コア)を始めていました。これは、美しい地球環境と限りある資源を未来につなげる包括的なアプローチであり、モリトグループの環境へのコミット「Committed to Our Resources and Environment」を意味するものです。ところが、この取り組みを進める中、「Committed to Our」の部分に違和感を覚え、私たちモリトだけの取り組みでは足りないと考えるようになりました。付属品メーカーはどこまで行っても黒子的な立ち位置であり、弊社の資材をお使いいただくお客様、作った商品を手にする消費者も巻き込んだ取り組みでないと本質的ではありません。モリトグループさえ良ければいいというわけではないため、「C.O.R.E.」を発展させた「Rideeco」(リデコ)にアップデートしました。ここにはサステナブルを支持する「Ride for Eco」を始め、「Relation」「Initiative」「Devote」「Energy」 といった想いを込め、業種や業界、消費者との関係性を構築しながら、モリトグループ全体でサステナブルへの取り組みを推進しています。

坂本:先ほど挙げていただいた廃漁網は、どのように活用されていらっしゃいますか。

大内:小さなボタンや紐止めなど、成型品と呼ばれる樹脂のパーツに使っています。また、廃漁網を使った糸による生地やテープなども開発しました。これらを世に出す際は、「廃漁網は、ゴミではなく原材料です」と伝えていき、そのサイクルが続くことを願っています。

これまでの活用事例としては、2021年10月から、豊岡鞄様が鞄に生地を採用いただき、現在も継続的に採用いただいております。2022年6月にはコクヨ様が数量限定のペンケース、9月にはルートート様がトートバッグに生地を採用し、発売されました。東京ミッドタウン様には、催事用として廃漁網でできたテントをご採用いただいています。その際も廃漁網からできた商品であることをご説明いただくことで、消費者の皆さまには環境保護への貢献や喜びを意識していただけたのではと思います。

▼廃漁網を使ったコクヨのペンケース「ネオクリッツ<From Fishing Nets Recycling>」

モリト株式会社
(画像提供=モリト株式会社)

▼廃漁網を使ったトートバッグ

ROOTOTO
(画像提供=モリト株式会社)

▼廃漁網でできたテント

東京ミッドタウン
(画像提供=モリト株式会社)

ただし、廃漁網からできた糸や生地は通常のものに比べると価格が高くなります。今は消費者の皆さまにも、サステナブルだからといって高い商品を購入する文化は根付いていません。そのため、「本物」をアピールしながら世に出すよう取り組んでいる次第です。

佐藤:これらの取り組みによってご縁ができた兵庫県香美町では、モリトグループ社員と地域の方で海岸清掃を定期的に行っています。食の地産地消は広く知られるようになりましたが、アパレルやバッグの地産地消もできないかと考えまして、豊岡鞄様と廃漁網を使った商品開発を進める中、高齢化が加速する地場宿泊施設の方々による海岸清掃が大変であることを知り、最も大変な地域を選んで活動を始めました。そこから出たゴミを回収してリサイクルし、漁協の方がかぶる帽子や、城崎温泉の外湯めぐりの際に使う巾着など、豊岡鞄様で商品化できないかと考えています。

坂本:事前に御社について調べていく中で、「ASUKAMI®」(アスカミ)というリサイクルペーパーも開発していると拝見しました。

藤原:弊社子会社で印刷関連事業を手がけるマテックスがアパレル大手のワールド様とお取引をする中、アパレル製品を作る際に出るはぎれを何とかしたいというお話をお聞きしたのが開発のきっかけで、「ASUKAMI®」が開発され、マテックスで販売していた商品に付いている紙でできた下げ札に採用されることになりました。それまでも牛乳パックなどを紙に混ぜ込むことはありましたが、化学繊維を活用した紙を実用化したのはおそらく日本で初めてではないかと思います。2022年9月にはワールド様サステナビリティプランの一環として、商品の下げ札や名刺、封筒などの紙製品に採用されました。

▼ASUKAMI®サイクル

asukami_cycle
(画像提供=モリト株式会社)

また、弊社は2022年4月に東京ヴェルディ女子ホッケーチームとコーポレート契約を締結し、廃漁網を使ったリサイクル生地などを用いたスポーツ関連商品の共同開発に取り組んでおり、同年10月に東京ビッグサイトで開催された「第2回サステナブルファッションEXPO」にて展示・発表しました。

佐藤:他にも、全国の事業所では再生紙を使用していますし、子会社グリスフィルターのレンタルや厨房排気系統の清掃・工事などを行うエース工機では工場排水の汚染物質を除去する排水処理装置を活用するなど、さまざまな面で環境保護に取り組んでいます。

とはいえ、これらの取り組みで足りているわけではなく、他にもできることがあるはずです。そこで、先ほど藤原が説明した「ASUKAMI®」では「ASUKAMIクラブ」を立ち上げ、複数の大学とクラブ活動を始めまます。例えば、大学で使用する紙をすべて「ASUKAMI®」にするとどれだけCO2排出量が削減されるのか、環境への貢献を図れるかなどについて、大学と一緒に数値化していく予定です。

坂本:お話を聞くにつれ、素晴らしい取り組みであり、本質的だと感じました。そのような取り組みを高いレベルでできるのは、御社の社風などが関係しているのでしょうか。

佐藤:115年にわたるビジネスの中、安全や安心、健康など、お客様にプラスアルファの付加価値を提供することを各営業担当が心がけてきた結果です。それもあって、「モリトが面白いものを持ってきた」「こんな取り組みを始めた」とお客様にお伝えして一緒に商品を開発するなど、営業主導で新しい取り組みが生まれることも少なくありません。

大内:営業部としては、ものづくりにこだわり、グローバルニッチトップの方針を掲げています。SDGsを配慮した商品開発は、品質管理・コスト高など、たくさんの課題があるのが現実です。他社はやらなくても、あたりまえに「新しさ」をプラスする。パーツで暮らしを豊かにする。そのためには、弊社では何ができるかを日々考え、色々なことにチャレンジしています。「本物」を見極めるために、現場に足を運んで自身の目で確かめることも、弊社の社風です。

坂本:素晴らしいカルチャーですが、社内に浸透させることは容易ではありません。どのようにお取組みなさっているのでしょうか。

佐藤:モリトグループを横断した「グリーンプロジェクト」を進めています。

藤原:グリーンプロジェクトでは社内展示会などを通じて、完成した商品を社員に手に取って見てもらう機会を提供しています。廃漁網が原材料の一部になっていると話してもわかりにくいため、実際に見て触れてもらうのが最も効果があります。私たちが感動したものをお客様にも届けたいですし、サステナブルな商品だから選ばれたのではなく、デザインや機能性などを気に入って選んだものが、実は環境に配慮していたと気づいていただける商品を作ることが重要だと考えています。

大内:商品開発においては、「本物」をお届けするためにリサイクル材の使用率などを定めた「Rideeco」基準を設けています。

モリトグループの脱炭素社会における未来像

坂本:DXやIoTが進み、最近はスマートシティのような構想も現実味を帯びてきました。そのような来るべき未来において、御社がイメージする脱炭素社会の姿をお聞かせください。

佐藤: 例えば、プラスチックは、CO2を排出しますが人類の大発明であり、プラスチックによって多くのものが生まれたことは紛れもない事実です。そこで大事なのは、いかに悪い物質を排出せずに再利用していくかだと考えます。それが、弊社のような黒子に課せられた使命です。「この樹脂・金属は使わない」ではなく、それらを活用しながら地球環境を考慮し、付加価値や機能性の高い商品を作ることが大切です。廃漁網は貝殻や海藻の除去などの作業が大変でコストもかかるため、サステナブルな商品の価格は高くなりますが、その先にあることを明確に提示しながら多くの企業とともに取り組んでいくことが、私たちの使命だと思います。

坂本:次に、情報公開のあり方についてお聞かせください。御社はホームページなどでESGや脱炭素に対する取り組みを積極的に公開しています。その際はどういったことを心がけていらっしゃいますか。

佐藤:ニュースリリースやプレスリリース、ホームページなど、情報公開の手段は多岐にわたります。その中で良かったのは、昨年8月2日を「パーツの日」として、子どもたちに弊社の取り組みを体験してもらうイベントでした。東京ヴェルディ女子ホッケーチームと共催し、サステナブルに関するクイズや廃漁網をリサイクルするプロセスなどを学習していただきました。普段、あまり見ることのない廃漁網やクイズのパネルを前に目を輝かせていましたが、実際に実物に触ってみることで廃漁網が捨てられる背景を考えるきっかけになったようです。お子さんと一緒に参加した親御さんからも「勉強になった」との声をいただき、SNSでも情報を発信していただきました。発信手段はいろいろありますが体験に勝るものはないため、今後も体験型の情報発信を心がけていきたいと思います。

▼「パーツの日」としてイベントを開催

モリト株式会社
(画像提供=モリト株式会社)

モリトグループのエネルギー見える化への取り組み

坂本:脱炭素社会を実現するには、電気やガスなどの使用量を表示・共有するエネルギーの見える化が必須といわれていますが、御社ではどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

佐藤:正直なところ、まだ徹底できていません。どのように見える化するのが環境保護に役立つのか、社内で議論している段階です。先ほどご紹介した「ASUKAMIクラブ」のように、環境への寄与度を数値化することはマストですから、弊社にとって最適な方法を熟考したいと思います。現状はScope1~3の集計はしておらず、今後の課題です。

坂本:今後、CO2排出量の開示が義務化されると、企業はその集計が必須となり、業務量やコストに跳ね返ってくると考えます。そこで重要になってくるのが効率化を図ることだと認識しています。現状は電力などの請求データをもとにエクセルに手入力しているケースが多く、弊社としても何かお手伝いができればと考えています。

最後の質問です。昨今は多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。この観点で、御社を応援することの魅力をお聞かせください。

佐藤:モリトグループは「本物を作っていきたい」との思いで、トレーサビリティを意識したサステナブルな取り組みを推進しています。その結果、弊社のパーツをお使いいただくメーカー様、その製品を手に取る消費者の方々にとって、サステナブルになることによってダウングレードとなるのではなく、商品そのものがアップグレードすることでワクワクしたり、気持ちがつながったりすればよいと考えています。「本物」の商品を届けていくことで、この活動が市場に受け入れられると信じています。「ASUKAMIクラブ」は大学に特化していますが、「Rideeco」でも企業・団体とサステナブルな取り組みを拡大させたい考えです。このような点に注目していただきたいと思います。

坂本:御社はサステナブルな取り組みに注力したいメーカーにとって、必要不可欠な存在だとわかりました。今後も商品開発が進み、活用事例も増えていくと思います。本日はありがとうございました。