近年は、年間100社前後の企業がIPO(新規公開株式)によって証券市場へ上場している。2021年度におけるIPO企業の社長の平均年齢は50.3歳と、2011年度の52.3歳から若年化しているのが特徴だ。本企画では、市場に新風を巻き起こすことが期待されるIPO企業の代表者に、企業概要や上場の狙い、今後の展望についてインタビューを実施している。

2021年8月に東証グロース市場に上場した株式会社フューチャーリンクネットワークは「地域活性化」をコンセプトに掲げ、自社メディア「地域情報サイトまいぷれ」を中心とした地域情報流通事業やふるさと納税BPO業務などの公共ソリューション事業を展開している。今後の展望について、代表取締役を務める石井 丈晴氏に伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

株式会社フューチャーリンクネットワーク
石井 丈晴
株式会社フューチャーリンクネットワーク 代表取締役
1973年12月23日生まれ、千葉県出身。慶應義塾大学 商学部 卒業。新卒で株式会社リクルートに入社し、人事部で活躍。社会の役に立つ事業がしたいと考え、2000年3月、「地域活性」をテーマに株式会社フューチャーリンクネットワークを設立し、独立。地域の付加価値増大を目的に、地方企業と協業しながら全国で地域情報流通事業を展開する。
株式会社フューチャーリンクネットワーク
2000年に“地域活性化”をテーマに千葉県で創業。「地域情報プラットフォームまいぷれ」を活用した地域事業者向けの経営支援事業は全国813もの市区町村で展開されている他、公共ソリューション事業として、ふるさと納税BPO業務や地域ポイント事業などを行う。

目次

  1. 株式会社フューチャーリンクネットワークの事業概要について
  2. 株式会社フューチャーリンクネットワークが誇る事業の強み
  3. 上場の目的と上場後の変化について
  4. 今後の日本経済の行方について
  5. 株式会社フューチャーリンクネットワークの未来構想

株式会社フューチャーリンクネットワークの事業概要について

―― 御社の事業内容についてお聞かせください。

株式会社フューチャーリンクネットワーク代表取締役・石井 丈晴氏(以下、社名・氏名略):当社は、地域活性を事業理念としている会社です。現在は、地域情報流通事業と公共ソリューション事業を展開しています。

地域情報流通事業では、地域の付加価値情報を発信するプラットフォーム「地域情報プラットフォーム まいぷれ」を運営しています。地域の飲食店や小売店などの地域事業者からのプラットフォーム利用料(月額)を収益源とするサブスクリプション型のビジネスで、実際に足を運んで各地域事業者の魅力を取材し、発信しています。地域の付加価値情報は、クーポンや割引情報ではありません。そのレストランでしか食べられないお料理やその場所でしか見られない景色など、その地域、店舗ならでは魅力を発信するという点で、一般的なグルメポータルサイトなどとは異なります。

▼地域情報プラットフォーム まいぷれ」について

株式会社フューチャーリンクネットワーク
(画像=株式会社フューチャーリンクネットワーク)

情報を発信するチャネルは多岐にわたり、自社メディアである「地域情報サイト まいぷれ」を中心に、Googleマップやデジタルサイネージ、場合によってはテレビなどのマスメディアも活用しています。

この事業は、パートナーモデルで全国展開しています。全国各地のパートナー企業はそれぞれの地元エリアを担当して取材を行い、それぞれの地域の魅力を発掘してくれる重要な存在です。現在は813市区町村にパートナーがおり、その数は156社におよびます(2022年12月現在)。まいぷれ専業の会社やパートナーになるために創業される方も増えている状況です。これらは地域の雇用創出といった面でも地域活性化につながるものと考えており、今後も積極的に進めていきます。

▼パートナーモデルによって全国各地へ展開

株式会社フューチャーリンクネットワーク
(画像=株式会社フューチャーリンクネットワーク)

公共ソリューション事業は「地域情報プラットフォーム まいぷれ」の体制を活用して国や自治体の課題解決を行う事業で、さまざまなテーマに挑戦しています。 その中で大きなシェアを占めているのが、ふるさと納税の業務支援です。支援内容はさまざまですが、簡単にお伝えすると、ふるさと納税寄付受付サイトの裏側の業務を担っています。例えばメロンが名産の自治体であれば、生産者である農家へ出向き、返礼品にしてもらえないかと交渉したり、物流の対応や寄付者の受付なども行ったりしています。

長年にわたって築き上げてきた「地域情報プラットフォーム まいぷれ」を基盤として民間企業と公共の課題を解決するという、独自性の高い事業構造が当社の特徴です。

株式会社フューチャーリンクネットワークが誇る事業の強み

―― 競合他社と比較して、御社の強みはどこにありますか?

我々とまったく同じ事業を展開している競合企業は、ほとんどありません。地域の情報発信という点では大手企業の一部のプロダクトと競合しますが、それらは都市部を中心に展開されています。我々は創業当時から地方に目を向け、地域活性化を目指しているため方向性が異なりますね。

私たちの最大の強みは、全国のネットワークにあると自負しています。パートナー企業の協力のもと、人が足を使って情報を収集することによって、対面でのサポートができます。プラットフォームというとITのシステムが思い浮かぶかと思いますが、私は「人の力とシステムの力」を組み合わせて構築した体制がプラットフォームだと考えています。

デジタル化にシフトする世の中では、地域の中小事業者もIT技術を取り入れなければついていけない状況になっています。しかしながら、事業者の皆さんが高いITリテラシーを持っているかといえば、そうでもないのです。

一般的なWebマーケティングツールは、申し込みも利用方法を学ぶのもオンラインというものが増えており、ITに詳しくない方が使いこなすのはなかなか大変です。加えて、以前は地域の印刷会社などが事業者の販促支援を行っていましたが、そのような流れも失われつつあります。

我々のように直接訪問してご案内する、直接寄り添うというスタイルは前時代的に見えるかもしれませんが、競合が少ない領域であり、利用者の方々には満足していただけています。公共ソリューション事業においても、ネットワークの力が活かされています。特にふるさと納税の業務支援では、地域の生産者のもとに直接訪問して密に寄り添えるというフットワークの軽さが強みです。

――コロナ禍ではプラットフォームの利用店舗に変化はありましたか?

当初は苦戦すると思っていましたが、計画よりは遅いペースながらコロナ前後で利用店舗は純増しています。「地域情報プラットフォーム まいぷれ」は一か月単位の契約で、いつでも解約できる手軽なサービスですが、コロナ禍においても解約率は非常に低い割合で推移しています。

コロナ禍では地域の店舗が、衛生対策の強化やケータリング・テイクアウトといった新しいサービスを始めるなど、事業者のありかたも大きく変わりました。クーポンや割引といった定型情報よりも、事業者ごとに定形外の情報を発信する機会が増えたのではないでしょうか。我々のプラットフォームではオリジナリティ溢れる定形外の情報発信ができますから、事業者の変化を伝える手段として喜ばれているのかもしれません。

上場の目的と上場後の変化について

―― 上場の目的と実際の変化について、お聞かせください。

上場の目的は2つありました。1つは従来型の既存事業を拡大すると同時に、強みを生かして新規事業も仕掛けたいということです。なかなか想定通りにいかない時期もありましたが、創業から成長を重ね、何とか安定的に利益を出せるところまできた。我々が目指す地域活性化は、現状の延長線上でできるのか?届くのか?と考えを巡らせたことが、上場を目指す際のスタートラインになりました。

具体的には、より広く多様な情報とチャネルを得てチャンスをつかみたいということ、そしていつか資金を調達する際に、株式市場というプラットフォームを利用すればスピードを出せるということを考えたのです。

2つ目は、パートナーが増える中で我々の存在意義とサステナビリティを踏まえると、パブリックな企業になるべきではないかと考えたことです。

実際に上場してみると、肌感覚でも大きな変化を感じています。上場前はコンタクトが取れなかった企業から打診をいただいてアライアンスを組むなど、大きなチャンスをいただくようになりましたね。上場によって、周囲からの見え方がこんなにも変わるのかと少し驚きました。

入ってくる情報の量も質も、大きく変わりました。例えば、ある事業を計画していたとして「あのプレイヤーに話を聞いてみたい」「こういう可能性を探りたい」といった時に、いろいろなステークホルダーに相談すると、そこから入ってくる情報の量が多く、質も高いと感じます。

今後の日本経済の行方について

―― 激動の時代において、今後の日本経済の動向をどのように見ていますか?

世界を相手にすることを考えると、今までの延長ではなく、アップデートされた日本像を我々日本人、日本社会が受け入れなければならないと思っています。例えば、世界に対する影響力はバブル期ほど大きいとはいえませんし、中国のように急激に発展した国もあります。

「追い抜かれる」とネガティブに捉えるのではなく、「自分たちはチャレンジャーなのだ」と考えたほうがワクワクしますよね。「中国に挑戦しようぜ!」ぐらいの気持ちの前向きな意識転換が、日本には必要だと感じます。

国内に目を向けても、もっと多様性が必要だと感じます。私は地元の千葉県で上場しましたが、県内で上場する企業は年間1~2社あるかどうかです。東京からそう遠くない千葉県でもこのような状況ですから、ビジネスの中心が東京に集中し、いかに画一的な社会になっているかがわかります。

アメリカでは都市圏から離れた場所にシリコンバレーが生まれたように、各地方の多様性を磨くことがイノベーションの起爆剤になるでしょう。「仕事をするなら東京」ということではなくて、地方の経営者が独自のやり方で強みを発揮するようになれば、日本経済はもっと面白くなると思います。

――地域活性事業の将来性については、どのようにお考えでしょうか?

日本は、世界の中でもいち早く少子高齢化を迎えた国です。統計では、20~30年後にはアジア各国やイスラム圏も日本と同じような状況になると考えられています。だからこそ、我々が今取り組んでいる地域活性化というソリューションは、産業として世界へ広がっていくのではないかと思っています。

人口が減っても地域が機能する社会とは、どんな社会なのか。それを踏まえてインフラやシステムの構築が進み、充実した地域社会モデルができあがれば、世界に先駆けて新たなビジネスチャンスを生み出すことができます。我々のソリューションも、ぜひ海外に輸出したいと考えています。

株式会社フューチャーリンクネットワークの未来構想

―― 中長期計画を含めて、御社の未来構想をお聞かせください。

順調に成長を続けている既存事業については、今後も伸びていくと考えておりますので、計画どおりに安定的な業績拡大を目指します。今後は既存事業に加えて、強みを体系化して地域活性化を目指す新規事業領域を育てていくのが我々のテーマです。

チャンスも可能性もありますから、中期的には勢いをつけて成長していこうという計画です。新規事業の詳細は明かせませんが、創業当初からのテーマである「地域活性化」の延長線上でのビジネスモデル創出を目指しています。公共ソリューション事業においては、ふるさと納税の業務支援のみならず、官民協働の事業をさらに増やし、地域活性への貢献度をより高めていきたいと思います。

長期的な視点では、我々のビジネスモデルを輸出するべく、海外進出への道筋をつけるというプランを掲げています。必要に応じて資金調達も視野に入れながら、実現を目指します。

▼今後の成長イメージ

株式会社フューチャーリンクネットワーク
(画像=株式会社フューチャーリンクネットワーク)

――最後に、ZUU onlineをご覧の皆様へメッセージをお願いします。

地域活性化を掲げている当社は、今後社会的価値をより一層高めることを大前提として業績向上にも努めながら、応援してくださるステークホルダーの皆様の期待を超える貢献ができるという自信を持っています。「売上高の割に利益が少ない」という印象もあるかもしれませんが、今はアクセルの踏み時と判断した上での結果です。着実な成長を目指して参りますので、長期目線で投資していただけると幸いです。