本記事は、ジム・ロジャーズ氏の著書『捨てられる日本』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

都市とテクノロジー
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

サプライチェーンの脱・中国化が進む世界

脱・中国、日本回帰は可能か

近年、世界各国によるサプライチェーンの脱・中国を目指す動きがだんだんと生まれているが、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻がその動きを加速させている。こうしたサプライチェーンの「脱・中国化」は、さまざまな国にチャンスをもたらす。もちろん日本にもだ。

ただし、各国がこのチャンスを生かして成功できるか否かは、「需要があるモノをつくれること」と「それが高い競争力を備えていること」が鍵を握る。

近年の日本は「高コスト国」になりつつある。その背景には「かつての成功」がある。高度経済成長期と呼ばれる戦後の約30年間、日本は経済的に成功を収めたが、やがてほころびが生じてその座から転落し、衰退の道をたどった。過去の成功と現在の挫折の差分が大きいため、日本でビジネスをするには非常にコストがかかるようになってしまった。

このようななか、近年の円安傾向は歓迎されるものの、はたしてコストが抑えられるのか。今後の展開に注目している。

これから20年、注目すべきビジネスは半導体

コロナがもたらした大きな災難の一つに、世界的な半導体の不足がある。半導体の工場は台湾に集中しているが、台湾は中国との関係でリスクがあり、大いに懸念されている。

日本は約30年前、世界の半導体市場において実に50%のシェアを握り、他国に大きく差をつけていた。そしてあまりにも市場で強すぎたがゆえに、脅威を感じたアメリカとの間で摩擦が生じた。プラザ合意に端を発する円高、日本にメリットの少ない日米半導体協定などにより、日本の半導体産業は力を失い、世界シェアは10%以下にまで下がった。中国、韓国、台湾、アメリカが半導体産業を国家的に支援するなか、日本は後れをとっている。このような状況から脱するべく、日本政府は2021年に「半導体戦略」を発表し、半導体開発および生産拠点の誘致などに注力。新しい工場の整備および設備強化に補助金をあてるなど、積極的な取り組みを続けている。

私は、半導体が向こう20年の注目すべきビジネスだと想定しているが、これからの日本にはチャンスがあるかもしれない。

世界は常に変化を続けている。チャンスをつかみたいのであれば、安く、競争力が高く、時代に即したテクノロジーが必要不可欠だ。

日・中・韓、どう付き合うか

アジアの国同士、手を携えよ

日本の将来を考えるなら、中国や韓国とうまくやっていくことが重要だ。しかし残念ながら、日本はこの両国を警戒しており、円満な関係とはいいがたい。これからもさまざまな争いごとが起こるだろう。私は「どうして君たちはそんなに仲が悪いのか」と問いかけたい。なぜ同じアジアの国同士、一緒に力を合わせて世界を変えようとしないのだろうか。

政治家は、自国がうまくいっていない時には必ず他国を責めるものだ。今の日・中・韓の関係性には、それが表れているのかもしれない。

近い将来、米中戦争の勃発は避けられないと私は考えているが、そのような状況に陥った場合、たとえ中国が戦争に負けたとしても、中国と友好関係にない日本は成功しない側にいる可能性が高い。悲惨な状況を回避したいのであれば、中国や韓国との争いをやめることが先決だ。

アメリカとの関係を重んじる日本にとって難しい選択かもしれないが、もし私が日本人だったら、両国とはできるかぎりパートナーシップを組んでいきたい。

中国ではEV車のタイアップなどさまざまなビジネスチャンスがある。日本がイノベーションに自信がなければ、中国製品をコピーして販売するという道もある。

日本は、すでにあるものを改良して、低価格・高品質を実現することには長けている。戦後の驚異的な経済成長は、そのようにして達成された。

すでに述べたように、かつてイギリスはオランダから、アメリカはイギリスから、そして現代の中国はアメリカから最先端技術を取り入れて発展してきた。勢いのある国が持つ技術をうまく盗んで改良できる国には、成功が約束されているということである。

かつて日本は、アメリカやヨーロッパの企業がつくる製品を「より良く、より安く」コピーすることで成功を収めた。これは中国にもいえることだが、今後、日本は中国や韓国の企業から学べばいい。

いまだに中国や韓国を下に見る日本に、はたしてそれができるかどうかは別として、日本のコピー技術は世界最高レベルと断言できる。

国の覇権だけでなく、実業界においてもトップは常に入れ替わるものだ。

19世紀には世界の主要工業製品の半分を製造していたイギリスだったが、そこから他国の追い上げにあい、イギリス製品は市場で淘汰されていった。

日本も、1960年代以降しばらくの間はすばらしいクオリティの製品を製造していたが、それは今から約60年前の話で、その後は状況が一変し、現在は製造業のトップは中国ということだ。

日本は韓国に学べ

これまで見てきたように、中国の時代が到来することは明らかだ。そうしたなかで、日本と中国双方の隣国である韓国に注目すべきだと私は考えている。

韓国は現在、日本と似た問題を抱えている。出生率が低く、公務員になりたがる子どもが多い。

しかし朝鮮半島統一が実現すれば、こうした韓国の問題は軽減されるだろう。そして韓国は投資する価値の高い国になる。北朝鮮には若い女性が多く、出産にも積極的だ。

日本や韓国と違って、北朝鮮では出産や育児に対する意識は昔と比べてもそれほど変化がない。38度線崩壊を契機に北朝鮮から女性が流入する韓国は、少子化に直面する先進諸国と異なり、状況が改善する可能性が高い。

一方、中国や日本は、少子化問題の解決につながる好材料を持っていない。中国では最近、改善されつつあり、夫婦1組につき3人までの出産を認める育児制限緩和策を開始したが、1979~2014年に行われた「一人っ子政策(都市部を中心として実施された、夫婦1組あたりの子どもの数を1人とする人口抑制策。かつての中国は貧しく、将来の人口増による食料不足への懸念から実施された)」の悪影響が残っている。日本は、中国が直面している少子化に加え、高齢化という課題を抱えている。

なお、少子高齢化と切っても切り離せないもう一つの懸念材料は、増え続ける医療費だ。日本の医療費は年間1兆円ずつ増大しており、2040年には67兆円になるという予測もあるほどだ。

他方、シンガポールは健康保険料を2~3割上げたが、シンガポールのような独裁体制が敷かれていない日本では、ここまで思い切った策を選ぶことはできないだろう。日本は借金をして次の世代に先送りするか、それともシンガポールのように痛い思いをして将来的に国を繁栄させる道を選ぶかだが、どちらがいいかと聞かれれば、後者のほうが長期的観点ではいい、と私は答える。

38度線が開き、韓国にビッグチャンスが到来する

このような状況下において、38度線が開けば韓国にとてつもないチャンスが到来するだろう。

最近の様子から「北朝鮮は閉ざされた」と見る人もいるが、変革が訪れるまでの時間が若干遅延するだけのことだ。南北統一を実現するためにはさまざまなハードルがあることは事実だが、この点は両国に軍事費削減の余地があるし、他国からの出資もかなりの額を望むことができる。

現在、北朝鮮の人口は約2,500万人。天然資源が豊富であることに加えて、国民は皆勤勉で人件費が安い。韓国がいろいろな産業のノウハウを北朝鮮に教えることができるだろう。

ネックとなるのはアメリカの存在だが、韓国に多くの軍隊を駐留させておくよりは、段階的な経済開放のほうが現実的だ。

もし経済開放が実現すれば、韓国と北朝鮮へ訪れる観光客の数も劇的に増えるだろう。韓国と北朝鮮が統一されると、外国から投資を呼び込めるだけでなく、国内の投資も活発になる。

38度線が開く時は、1990年における東西ドイツ統一の時と同じような大きなサプライズになるはずだ。

ヴィリー・ブラントという旧西ドイツの元首相がドイツのテレビ・インタビューで「ドイツの統一は私が生きているうちには実現しないだろう」と言った。しかし同年11月、ベルリンの壁は崩壊した。皆さんも同じように、現時点では38度線が開くことは想像できないだろう。しかし「変化」とは、このように急にやってくるものだ。

なお、そのほかで最近、私が注目している国はウズベキスタンだ。

ウズベキスタンは中央アジアにある旧ソ連の国で、ソ連崩壊後に独裁者が国をさらに悪化させたが、今は別のリーダーに交代した。

金・ウラン・天然ガス・原油などといった天然資源が豊富なので、私は前途を期待し、この国へ投資を始めた。もしかすると、この国は将来「アジアの虎」になるかもしれない。

「二流国」は台頭してきた別の国から学んだり、手を携えたりしてチャンスをうかがうことが大切だ。「一流国」が永遠に続かないのと同様、「二流国」も永遠に続くものではないからである。日本も、このことを肝に銘じてほしい。

捨てられる日本
ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)
1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年間で4200パーセントという驚異的なリターンを上げる。37歳で引退した後、コロンビア大学で金融論を指導する傍ら、テレビやラジオのコメンテーターとして活躍。2007年よりシンガポール在住。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。 主な著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見』(日経ビジネス人文庫)、『危機の時代』(日経BP)、『ジム・ロジャーズ 大予測』(東洋経済新報社)『大転換の時代』(プレジデント社)がある。

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