本記事は、白濱龍太郎氏の著書『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

脳,睡眠
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日本人の睡眠時間は世界「最下位」

2018年にOECD(経済協力開発機構)が、加盟33カ国の平均睡眠時間の調査結果を公開しました。それによると、平均睡眠時間が最長だったのは、南アフリカの553分(9時間13分)。それに対して、日本の平均睡眠時間は442分(7時間22分)で、なんと最下位でした。

さらに、心拍計などを扱う企業の調査結果をご覧ください。世界中のユーザー600万人もの睡眠データを分析すると、アジアや南米の睡眠時間の短さが目立ちますが、日本の短さは男女とも突出しています。日本の場合、起床時間は平均水準ですが、入眠時間がとにかく遅いというのが要因のようです。わたしたち日本人は、世界で一番眠れていないのです。

ぐっすり眠る習慣
(画像=ぐっすり眠る習慣)
出所:ポラール・エレクトロ・ジャパン(2018年4月)

「睡眠時間を削って、仕事ややりたいことに費やす時間を増やしたい」と思う人もいるかもしれません。しかし、無理やり短時間睡眠にしていると、睡眠不足から不調をまねくだけです。睡眠不足になると疲れが取れず、かえって心身の健康を損なってしまい、日中のパフォーマンスを低下させることは目に見えています。

成功者にはショートスリーパーが多いとされていましたが、必ずしもそうとは限りません。ショートスリーパーとは、6時間未満の睡眠で自然に目が覚めて、日中もまったく眠くならずに、なんの問題もなく活動できる人のことをいいます。

19世紀にフランスの皇帝になったナポレオン・ボナパルトは、軍事独裁政権を樹立して国をひきいていました。睡眠時間は3時間だったそうで、ショートスリーパーとして世界的に有名な偉人です。ただ近年の調査によると、実は3時間睡眠のほかに昼寝や仮眠をとっていたという説も出てきていて、ショートスリーパーと定義づけられるのか微妙なところです。

一方で、Amazon創業者のジェフ・ベゾスは「8時間眠ると1日ずっと調子よく過ごせる」と語っています。また、AppleのCEOであるティム・クックは7時間睡眠といわれています。さらにMicrosoft創業者のビル・ゲイツも、7時間睡眠です。スペースX社を立ち上げた起業家として著名なイーロン・マスクは6時間とやや短めの睡眠ですが、ショートスリーパーとはいえません。世界的に有名な経営者の多くは、忙しいなかでも睡眠時間はしっかり確保しているのです。

睡眠による経済損失は18兆円!?

「最近よく風邪をひいてしまう」「なんとなくうつっぽい」「肌の状態が悪くなったみたい……」。こんな身体の不調を感じている人は、「睡眠負債ふさい」が原因かもしれません。

睡眠負債とは、借金のように積み重なり蓄積された睡眠不足のことを指します。睡眠負債が増えていくと、免疫力の低下をはじめ、あらゆる不調を引き起こす原因となります。また、集中力が低下してつまらないミスをしてしまうなど、パフォーマンスを著しく低下させるおそれもあります。

「プレゼンティーイズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「病欠」を示す「アブセンティーイズム」に対して、プレゼンティーイズムは日本語で「疾病就業しっぺいきゅうぎょう」と訳され、「出勤しても、頭や身体のなんらかの不調のせいで本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態」のことを指します。

このプレゼンティーイズムによって、全米では年間約1,500億ドルもの損失が出ているといわれています。2016年に発表されたアメリカのシンクタンク、ランド研究所の調査によると、プレゼンティーイズムによる日本の経済損失は、なんと1,380億ドル(約18.3兆円)にも達しているとのことです。

睡眠負債の返済をおこたると、どうなるのでしょうか。不眠状態を続けた世界記録があります。1964年にアメリカの男子高校生が264時間12分(11日と12分)眠りませんでした。すると、倦怠感けんたいかんからはじまり、誇大妄想こだいもうそう、幻覚、言語障害、極度の記憶障害などの症状が現れたそうです。それこそ簡単な計算もできないほどでしたが、15時間ほど睡眠をとったあとは正常に戻り、なんの障害も残りませんでした。

生物から睡眠を完全に奪うとどうなるか、マウスで実験されたことがあります。マウスを強制的に眠らせないようにすると、食事の量は増えたものの体重は減少。だんだんと体温が低下して、数週間後には死んでしまいました。明確な死因は特定できていませんが、とにかく睡眠時間を削るのは危険な行為だということがわかります。つまり、睡眠はどんな用事より優先させるべきものなのです。

では、睡眠負債はどう返済すればいいのでしょうか?

よく、休日に長時間眠る「寝だめ」で、平日の睡眠負債を返そうとする人がいます。しかし、残念ながら、「睡眠貯蓄」はできないのです。むしろ寝だめによって生活のリズムが乱れ、睡眠の質はますます低下していきます。

負債を返すには、睡眠だけでなく生活全般を見直し、少しずつ返済していく必要があります。例えば残業で1時間睡眠負債が発生したならば、翌日の予定を調整してプラス1時間寝るなど、その週のうちに返済するようにしましょう。ただし、睡眠時間の調整は長くても2時間以内にしてください。

休憩時間に15分程度の昼寝をすることも効果があるので、おすすめです。昼寝は、疲労回復と集中力アップの効果も期待できます。より昼寝の効果を高めるために、昼寝前にデジタルデトックスをしたり、昼寝中に目元を温めたりするのもいいでしょう。また、昼寝前にカフェインをとると目覚めがスッキリします。

ただし、最近の論文では、30分以上の昼寝は、メタボリックシンドロームのリスクになりうることがわかっているので、昼寝のしすぎには注意してください。

ぐっすり眠る習慣
白濱龍太郎
睡眠専門医
筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。公立総合病院睡眠センター長などを経て、2013年に「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を設立。これまで2万人の睡眠に悩む人を救ってきた。自身がオンオフを切り替えるのが苦手だったという過去から、いかに睡眠が日中の活動に影響するかを実感し「睡眠投資」という考えを発信。マイクロソフト、PHILIPSなど世界的企業での講演や、東京オリンピックでは選手村で選手をサポートするなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い。慶應義塾大学特任准教授、国立大学法人福井大学客員准教授、武蔵野学院大学客員教授、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』『いびきを自分で治す方法』(アスコム)など著作多数。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)、「めざましテレビ」(フジテレビ)などメディアにも広く出演している。

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