特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOを果たした各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

株式会社ライフドリンクカンパニーはミネラルウォーターや茶系飲料、炭酸飲料、茶葉製品などの製品・販売を行う1972年創立の飲料メーカー。2021年12月21日に東証二部(現東証スタンダード市場)に上場している。本稿では代表取締役社長の岡野邦昭氏に、事業の特長や今後目指すべき姿について伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社ライフドリンクカンパニー
岡野 邦昭(おかの くにあき)――株式会社ライフドリンクカンパニー代表取締役社長
1997年京都大学経済学部卒業。同年、監査法人トーマツ入所。株式会社ローランド・ベルガーにてコンサルティング業務、ヴァリアント・パートナーズ株式会社にて国内中堅企業に対する投資業務・投資管理業務に従事。2013年にシニア向け通販を営む株式会社全国通販の取締役CFOに就任し、2016年同社代表取締役社長に就任。2019年に株式会社ライフドリンク カンパニーの取締役に就任し、同年代表取締役副社長、2020年代表取締役社長に就任。
株式会社 ライフドリンクカンパニー
当社は、「低価格」を武器に「高い成長性」と「高い収益性」を両立している会社です。例えば、当社の2リットルお水の店頭価格は58円から68円です。他社商品と比較して約30パーセント安い価格で販売されています。また、直近3年間(2020年3月期から2022年3月期)の売上高成長率は14.2%、2022年3月期の売上高利益率は8.9%となっています。

目次

  1. 茶葉の卸売業から飲料事業へシフト
  2. ポジションの確立や工夫・改善を怠らない
  3. 設備投資やM&Aを通じて「MAX生産MAX販売」を進化

茶葉の卸売業から飲料事業へシフト

―― 最初に、株式会社ライフドリンクカンパニーについてお聞かせください。

株式会社ライフドリンクカンパニー代表取締役社長・岡野邦昭氏(以下、社名・氏名略):弊社は、大阪に本社を構える飲料メーカーです。ミネラルウォーターやお茶、炭酸飲料などを製造・販売し、小売のプライベートブランド(PB)飲料や低価格飲料のジャンルに特化しています。1972年に茶葉の卸売業を営む株式会社あさみやとして設立され、2001年に飲料事業に進出し、その後、飲料事業以外の事業にも進出しましたが、現在は飲料事業に集中しています。社名も2017年に現名称に変更しています。

▼ライフドリンクカンパニーのビジネスモデル

株式会社ライフドリンクカンパニー
(画像提供=株式会社ライフドリンクカンパニー)

――PBということは、大手スーパーマーケットなどに卸しているのでしょうか。

イオンや西友などの総合スーパー、ドラッグストア、ディスカウントストアなどのPB飲料や、弊社ブランドの飲料をこれらの店舗で販売しています。製造拠点は、北は岩手から南は宮崎(関連会社)まで全国にあります。

――50年におよぶ歴史がありますが、どのような経緯で今日に至ったのですか。

先ほど申し上げたとおり、弊社は初代オーナーの故田中綜治のもと茶葉の卸売りから始まりましたが、2001年に飲料事業に進出したと聞いています。それ以降もM&Aや工場新設を通じて飲料事業を成長させてきました。一方で、M&Aにより氷や麺、お菓子などの会社を傘下に収め、多角化も進めました。共通するのは大手メーカーの下請けではなく、小売と直接取引するという考え方です。当時、PB市場はまだ大きくなかったですが、低価格戦略を推し進めていきました。こうしたコンセプトのもと、飲料以外にも事業の幅を広げました。

その後、2015年にCLSA Capital Partners Japan株式会社がサブアドバイザーを務めるSunrise Capitalと資本業務提携を結びます。事業承継やビジネスのさらなる拡大が背景にあったようですが、これを機に弊社は2つの改革に取り組みました。1つは、事業を整理・再評価した上での飲料事業への集中です。もう1つは「MAX生産MAX販売」の推進で、この取り組みを進めた結果、一時期は厳しい状況もありましたが、2020年3月期、2021年3月期と順調に売上と利益を伸ばし、2021年12月にIPOを果たすことができました。

――「MAX生産MAX販売」は、聞きなれない言葉です。

弊社独自の表現で、工場の生産能力をフルに活かして生産数量を最大化し、それに合わせて販売先を確保するということです。これをやり切ることを「MAX生産MAX販売」の推進と呼んでいます。具体的には、増員による週末も含めた工場の24時間稼働化の実現、製造装置の停止時間削減などの細かい改善、といった取り組みになります。これらの積み重ねにより、2018年3月期に年間2,000万ケースだった飲料の生産量が、2022年3月期には5,000万ケースまで増えました。

▼「MAX生産MAX販売」の概要

株式会社ライフドリンクカンパニー
(画像提供=株式会社ライフドリンクカンパニー)

一方で販売面はどうかというと、我々の強みは低価格と安定供給です。ここ数年で小売PB飲料や低価格飲料のマーケットは急拡大しましたが、弊社の商品は価格競争力があることから引き合いも多く、生産量をしっかり増やしていくことができれば、販売先の確保することができます。よって、MAX生産が重要なのですが、それを実現することによりMAX販売につながるサイクルになっています。

――低価格は、どのように実現しているのでしょうか。

キーワードは3つあり、1つ目は品種を絞る、2つ目は工程をできるだけ内製化する、3つ目は工場を全国に分散することです。品種を絞るとラインの中で切り替えがなく、同じものを作り続けられるので、1本あたりのコストが下がります。例えば、弊社はペットボトルサイズを2リットルと500mlに絞っていて、550mlや600mlサイズはありません。内製化については、ペットボトルが該当します。ペットボトルを仕入れる場合と比較して物流費も抑えられます。弊社の場合は、原材料のレジンからペットボトルまで工場内で作り、飲料を充填して製品化しています。茶葉も鹿児島の知覧工場で焙煎しています。このように工程を内製化することにより、工程間のマージンがなくなります。更に、工場が全国各地にあることにより小売各社の物流拠点までの物流費を抑えることができ、また、ある工場で災害などのトラブルが起きても他工場が応援できるため、安定供給にもつながるのです。

――2021年12月に上場した理由は何でしょうか。

2015年にCLSAと資本業務提携を結んで改革を進めた結果、業績が改善して成長軌道に入りつつある中、さらなる成長投資のための資金調達を多様化することが最大の目的でした。新工場等の新規投資案件を検討していたことから、そのタイミングが2021年の12月だったのです。上場時に約18億7,000万円を調達し、既存工場の設備投資や新工場の建設に充当することができのは大きな成果だと捉えています。加えて本社、支社、工場を問わず志望者が増え、上場は採用面にも良い影響をもたらしました。志望者が増えれば選考の基準を高めることができるため、採用の質が向上します。また、従業員にも上場企業の一員という意識が芽生えたようです。

ポジションの確立や工夫・改善を怠らない

――資源高や円安などによって、日本経済は激動の時代を迎えています。現在の課題や今後の動向、ビジネスへの影響をどのようにお考えですか。

正直なところ、明確な経済予想は立てていません。私はさまざまなビジネスに携わってきましたが、そもそも短期的な予測が困難な世の中になっていると思います。例えば、弊社が上場した2021年12月はIPOが盛んなタイミングでしたが、「なぜこの時期なのか、2~3月に動かさないのか」といった声も少なくありませんでした。しかし、年明けまで待っていたらウクライナの問題で上場自体が危ぶまれたでしょう。また、弊社は2020年2月からECビジネスを始めましたが、同じタイミングで新型コロナウイルス感染症が拡大し、自宅における飲料需要が高まりました。これも狙ったわけではなく、偶然のことでした。先のことはわからず、今後も消費者にとって不安な出来事が続くかもしれませんから、その中で消費行動の変化を注視する必要があります。

例えば、必需品は安く買って余ったお金で余暇を楽しむなど、最近は消費行動において使い分けや二極化が進みました。こうした変化にどう対応していくのか、同業他社を見ながら考えなければなりません。将来の経済がバラ色とは思っておらず、その中で飲料は必需品だからこそ価格の選好がシビアになるため、弊社のポジションを確立することが重要です。

――資源高や労働力不足には、どのように対応する方針でしょうか。

レジンは原油価格に連動していますし、電気代の高騰や人件費の上昇など、コスト負担は大きくなるばかりです。こうした課題に対しては、MAX生産を進めて1本あたりの製造コストを抑えるだけでなく、ペットボトルの軽量化、工程改善による省人化などに取り組んでいくことが大切です。一方で大手飲料メーカーは相次いで値上げを実施しており、値上げは弊社としても大きなテーマです。

設備投資やM&Aを通じて「MAX生産MAX販売」を進化

――課題を解消しながら成長を維持するための目標や、5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。

弊社のビジネス領域である水・お茶・炭酸の市場は、今後も安定的に伸びると思います。私は水道水を飲んでいた世代ですが、子どもたちはミネラルウォーターが当たり前になっていますし、お茶もやかんで茶葉から煮出すことはありません。健康志向を背景とした加糖ではなく無糖飲料を好むといった生活様式や消費行動の変化も追い風となっています。中でも、小売のPB飲料や低価格飲料はさらに伸びるでしょう。例えば、アメリカではミネラルウォーターの販売におけるPBのシェアは40%を超えました。一方で日本は10%程度なので、さらなる成長が期待できます。お茶はともかく、水・炭酸は商品によって味に差がほとんどないため、強い小売各社と連携することでまだ伸びると思います。

そこで大切なのは、伸びるマーケットに対して供給量・生産量を増やせるかどうかです。やはり「MAX生産MAX販売」の推進や進化は大きなテーマであり、次のステップとして設備の入れ替えによる製造能力の増強や、現在静岡県御殿場市で進めている新工場の建設などを加速させなければなりません。2022年11月には同業他社のニットービバレッジのM&Aを発表しましたが、M&Aのような形で生産能力を獲得するという取り組みも進めていきます。

弊社は小売各業態のトッププレイヤーとお取引していますが、コンビニエンスストアは未開拓なので、生産能力を高める中で販売チャネルの一つとして獲得を目指します。

ECサイトをどのように育てるかは、将来を見据えたテーマの一つです。これまでは1本ずつ買っていた方が箱で買うようになり、運ぶのが大変なのでECサイトを利用するという動きは今もありますが、ますます増えると思います。その可能性への対応も大きなテーマであり、囲い込みを目的としたサブスクサービスなどを検討していますし、プロモーションにも注力する方針です。

――数値目標はありますか。

2022年3月期の売上高は約250億円で、今期の予測は約280億円(取材時点)ですが、M&Aや新工場の建設を通じて、できる限り早い段階で500億円を達成したいと考えております。

――最後に、ZUU onlineの読者にメッセージをお願いします。

弊社は主力事業が小売PBの製造委託なので一見地味な会社ですが、日常生活に欠かせない飲料を扱っており成長も堅持していますので、温かい目で見守っていただきたいと思います。弊社は飲料を通じてホッとできる瞬間を提供し、日常生活を豊かにする一助を担いたいと願っております。皆様にも商品をご利用いただき、株主としてもサポートしていただけると幸いです。