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事前に損失を予想していても(損失回避の)判断が遅れてしまい、損失が拡大してしまったことはないでしょうか。わたしたちがこのような非合理的な判断をしてしまうのはなぜなのでしょうか。投資家心理の謎は「行動経済学」という、経済学と心理学を融合した研究によって明らかになってきています。この記事では、具体例を挙げながら、投資行動における人間の心理の動きを探ります。

合理的とはいえない人々の経済学

行動経済学とは、経済学と心理学を結びつけた学問です。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネルマンやリチャード・セイラーらが先鞭をつけたとされています。行動経済学では、感情や直感に頼って判断や決定を行い、様々な情報に振り回される「合理的とはいえない人々」が、どのような行動をし、その結果、市場で何が起こり、所得配分や資源配分、人々の幸福や満足にどのような結果を及ぼすのかを追求します。

行動経済学の研究領域には、金融市場や消費行動、福祉政策があります。行動経済学の具体例としてよく知られているものに「フレーミング現象」があります。これは、表現の仕方によって人の感情と判断が変わるという現象です。

たとえば、牛肉のラベルに「赤身80%」と「脂肪分20%」と書いてあるしましょう。この2つの牛肉のパッケージを見て、どちらを「健康的だ」と感じますか。実際には同じことをいっているにもかかわらずも「赤身80%」と書かれている方をより健康的だと感じるのではないでしょうか。

金融業界では株式市場などのマーケットの動きや投資家の行動についての研究が進んでおり、実は「市場は非効率的」であることが研究者によって指摘されています。さらに、投資家がリスク回避を傾向する傾向や、投資決定に時間がかかる傾向などの行動パターンも明らかにされています。

投資家の心理と行動

投資には失敗するリスクがあります。行動経済学は、投資家が投資をする時にどのような心理的な影響を受けるかも研究する学問です。投資家は、自分が保有する資産の価値が下がった時に、損失を避けるためにリスクを取らない傾向があります。

また、投資においては、損失に対する恐怖心が非常に強く、利益を得る可能性があるにもかかわらず、リスクを避けるために投資をしないことがあります。

私自身も、投資を始めてから様々な失敗を経験してきました。たとえば、株価が上がっている時に買いたくなり、下がっている時に売りたくなることがあります。そして、逆張りするべき場面でも、感情が邪魔をしてしまい、うまく取引ができないことがありました。これは、行動経済学でいう「損失回避性」と呼ばれるものです。損失を怖がるあまり、不利な判断をしてしまうのです。「損失回避性」については、後ほど詳しく解説します。

また、自分の判断に過度に自信を持ちすぎる場合もあります。一度成功した手法や銘柄に固執してしまったり、マーケットの環境や他の人の意見を無視してしまったりします。

これは、行動経済学の「自信過剰バイアス」です。人は自分の能力や知識を過大評価しやすく、リスクを見誤ってしまうのです。

また、行動経済学では「時間割引」という概念もあります。これは、将来得られる報酬よりも、今すぐ手に入る報酬を優先する傾向があるということです。そのため、投資家は短期的な利益を得るために、長期的な視野を持たずに取引をすることがあります。

損失やリスクを完全に回避することはできませんが、投資家自身が知識を深めて努力することで、失敗するリスクを減らすことはできます。私自身も、失敗から学びながら、投資家として成長していきたいと思っています。

行動ファイナンスとは何か?

行動ファイナンスは、行動経済学を元にした投資分野の研究です。行動経済学で得られた結果を投資に応用し、マーケット動向を分析することを目的としています。投資家がどのような行動を取り、その行動がどのような影響を市場に与えるのかを分析することで、投資家がより賢明な投資判断を行えるようにすることが目的です。

行動ファイナンスでは、人間らしい感情や思考のクセを考慮して投資現象を分析します。それによってマーケットの非効率性やバブルなどのメカニズムを解明したり、自分自身の投資行動を改善したりできるようになるのです。

行動ファイナンスの主な理論であるプロスペクト理論の「参照点依存性」と「損失回避性」について解説します。

参照点依存性

参照点依存性とは、投資家が保有している資産の価格が過去の価格に比べて上がったか下がったかによってその価値を判断することです。過去の価格が高い場合、現在の価格が低くても高く感じます。

一方、過去の価格が低い場合は、現在の価格が高くても低く感じます。人は、物事を相対的に評価する傾向があるのです。

参照点依存性は、投資家の行動に大きな影響を与えます。過去の高い株価を基準にした場合、現在の株価は安いと感じて購入を検討します。しかし、過去の低い株価を基準にしている場合は、現在の株価が高いと感じ、売却を検討するようになるのです。

このように投資家の行動は、(株価の)相対的な評価に影響されます。マーケットが常に健全な状態にあるとは限らないということです。過去の株価に基づく判断ではなく、現在のマーケットをファンダメンタル分析で冷静に分析し、正しい判断を行うことが大切です。

損失回避性

損失回避性は、プロスペクト理論において重要な理論の1つです。投資家は損失によってもたらされる苦痛の方が同じ金額の利益による幸福感よりも大きくなるので、損失を避けるように行動します。

たとえば、以下のような質問があったとします。

  • 必ず1,000円もらえる
  • 50%の確率で2,000円もらえる(50%の確率で何ももらえない)

1と2の期待値は同じ1,000円ですが、プロスペクト理論によると(A)を選ぶ人が多くなります。これは、確実に1,000円をもらえるほうが、半分の確率で2,000円もらえるかもしれないことよりも魅力的に感じるからです。

株式投資においては、株価が上がったときの利益よりも、株価が下がったときに生じる損失がより大きく苦痛を感じられるため、投資家は株価が下落するリスクを回避する傾向があります。

相場格言「上げ坂、下げ坂、まさか」の教訓

「上げ坂、下げ坂、まさか」という相場格言があります。これは株式市場など、マーケットにおける予測不可能な状態を表現した言葉です。マーケットには、上昇している時期(上げ坂)や下落している時期(下げ坂)がありますが、いつまでも上昇や下落が続くわけではなく、途中で急激にトレンドが変わる「まさか」の時期がやってきます。

マーケットでは、2008年のリーマンショックや、2020年のコロナショックのような危機が時々起こります。「上げ坂の時」には楽観的になりすぎず、リスクを忘れない投資行動が大切です。一方、「下げ坂」のときは恐怖心に負けず、冷静な判断をすることが求められます。

マーケットは常に変化するため、投資家は予想できない変化に対応する必要があります。そんな予想できないマーケットに対処するために、行動経済学や行動ファイナンスの理論が役に立つとわたしは考えています。これらの理論は、投資家の心理や市場の動向を理解するのに役立ちます。


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