この記事は2023年3月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「見せかけの方針転換で日銀は6月にもマイナス金利解除に動く」を一部編集し、転載したものです。
日本銀行が昨年12月、イールドカーブ・コントロール(YCC)の許容変動幅を突如±0.5%程度に拡大したことで、市場ではさらなる政策修正に対する期待感が大幅に高まった。日銀は「イールドカーブの歪みといった『市場機能』の低下に対応するための変更」と説明しているが、これを額面どおりに受け取ることはできない。
イールドカーブの歪みはあくまで債券市場特有の問題であり、マクロ経済全体の経済的利益の最大化を目指す中銀が、信認を低下させてまで対応するとは考えづらい。また、一度政策修正を行えば、市場がさらなる修正を織り込んで金利上昇圧力が強まり、その結果、カーブの歪みが拡大することは明らかであり、歪み修正の手段として、そもそも不適切である。実際に、12月の日銀決定会合後にカーブの歪みは拡大した(図表)。このことを日銀が予想できなかったとは考えづらく、もともと歪みを正す意思は乏しかったと見るべきだろう。
中銀が不自然なタイミングで急激にスタンスを変更したことに加え、観測報道なども考慮すれば、政府が政策方針の転換に傾き、日銀がその意向をくんだと推測できる。12月は資源価格やドル円レートが頭打ちになるなか、日米で将来のインフレ終息のメドが立ち始めた時期だ。だからこそ、それに乗るかたちで政策方針を転換し、その成果をアピールする狙いが政府にはあるのではないか。思い起こせば、2013年の導入当初の「アベノミクス」も、欧州債務危機からの世界的なリバウンドに「乗っかった」政策という側面があり、岸田政権もインフレの鎮静化で再現を狙っているのかもしれない。
そうなると、日銀に求められることも見えてくる。インフレ鎮静化が視野に入っている以上、本気の引き締めは景気下振れや金利急騰につながるリスクの方が大きい。求められるのは「実際には緩和路線を維持しつつ、見せかけで政策方針転換を演出すること」だろう。
この要請に合致する政策として「マイナス金利の解除+YCCの現状維持」が考えられる。マイナス金利解除はシンボリックな政策で、方針転換を演出できる一方、実際の政策金利引き上げ幅はわずか0.1%のため、YCCの維持と合わせて実体経済や長期金利へのインパクトを最小限に抑制できる。筆者は植田新総裁就任後、早々に日銀が政策検証を行い、6月会合でマイナス金利を解除することを見込んでいる。
金利については、当面はYCC解除を含むさまざまな政策変更の可能性が意識されているのに加え、米ハイテク系銀行破綻の影響も不透明感が強く、上下に大きく振れる展開となろう。しかし、一連の政策変更を経て、YCCの継続が市場に認識されることで、昨年来、YCC解除を織り込んで上昇を続けてきた10年超の超長期ゾーンを中心に、国債金利は低下に転じることが見込まれる。
みずほ証券 チーフ債券ストラテジスト/丹治 倫敦
週刊金融財政事情 2023年3月21日号