特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、その中でさらに成長するための戦略・未来構想を紹介する。

サワイグループホールディングス株式会社は、ジェネリック医薬品業界で国内トップシェアを誇る沢井製薬株式会社を中核子会社とする、サワイグループの持株会社だ。2021年4月1日にホールディングス体制に移行している。本稿では代表取締役社長の末吉一彦氏に、事業の特長や今後目指すべき姿について伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

サワイグループホールディングス株式会社
末吉 一彦(すえよし かずひこ)
――サワイグループホールディングス株式会社代表取締役社長 グループ最高執行責任者(グループCOO)兼 グループ管理統括役員(グループCAO)
1957年9月19日生まれ。1980年住友銀行(現三井住友銀行)入行。2012年沢井製薬入社。経営管理部長、米国アップシャー・スミス・ラボラトリーズ取締役等を経て、18年沢井製薬取締役(常務執行役員管理本部長 兼 戦略企画部掌握)に就任。2021年4月、サワイグループホールディングス代表取締役社長グループ最高執行責任者 兼 グループ管理統括役員就任(現任)。
サワイグループホールディングス株式会社
――ジェネリック(後発)医薬品のリーディングカンパニーである沢井製薬を傘下に持つ持株会社。ひとりでも多くの人々の健康に貢献すべく「なによりも健やかな暮らしのために」を企業理念に、既存事業の一層の強化と新事業の育成によるグループの持続的成長を目指して2021年4月に持株会社体制に移行。
長期ビジョンでは、2030年度(31年3月期)の売上収益4,000億円を掲げ、国内シェア拡大を主軸に米国事業、デジタル医療機器などの新規事業による成長を達成する計画。

目次

  1. ジェネリック医薬品のリーディングカンパニー
  2. 持株会社体制に移行した4つの理由
  3. デジタル医療機器の開発・販売を開始

ジェネリック医薬品のリーディングカンパニー

―― サワイグループホールディングス株式会社について、ご紹介ください。

サワイグループホールディングス代表取締役社長・末吉一彦氏(以下、社名・氏名略):サワイグループは企業理念「なによりも健やかな暮らしのために」を掲げる、ヘルスケア企業グループです。元々の母体である沢井製薬は創業から90年近くなり、2021年4月には持株会社体制に移行して再スタートを切りました。

▼サワイグループホールディングスの概要図

サワイグループホールディングス株式会社
(画像提供=サワイグループホールディングス株式会社)

中核会社の沢井製薬はジェネリック医薬品のリーディングカンパニーであり、同事業を通じて患者さんの医療費自己負担額軽減や、国レベルで見ましても持続的な国民皆保険制度に貢献しています。昨今は世の中の変化を捉えさらに一歩踏み出し、病気の治療薬としての医薬品の提供だけにとどまらず、未病・予防も含めた人々の健康の維持増進に貢献できる企業グループになることを目指しています。

―― 御社は日本のジェネリック医薬品業界をけん引する立場です。創業から今日に至るまでの、事業の変遷をお聞かせください。

▼中核会社の沢井製薬

サワイグループホールディングス株式会社
(画像提供=サワイグループホールディングス株式会社)

元々の創業は1929年で、大阪の旭区に沢井製薬の前身である沢井薬局が誕生しました。法人化したのは1948年で、薬局から薬の研究・製造部門を持った一般家庭用医薬品メーカーに転身し、主に目薬やビタミン剤などの研究開発を行っていました。その後、1961年に日本で国民皆保険制度が導入するなか、医療用医薬品に軸足をシフトすべきではないかとの判断のもと、1965年には医療用医薬品メーカーへ舵を切り、私どもの強みを生かすためにジェネリック医薬品を中心に事業を展開してきました。

持株会社体制に移行した4つの理由

――2021年4月にホールディングス体制に移行したのはなぜでしょうか。

4つの目的があります。1つ目は、国内のジェネリック医薬品の使用が増え、数量シェアは80%に到達する勢いだったということ。政府も持続的な医療財政の観点から未病や予防にも力を入れるようになり、弊社も事業領域の拡大を考えていました。ただし、子会社方式では親会社の意向や考えで新事業を捉える可能性があり、上下ではなく並列した形で位置づけるほうが成長を促進させやすいとの判断がありました。

2つ目は、ジェネリック医薬品業界の再編淘汰の波です。ジェネリック医薬品業界のマーケットはこれまで順調に伸びてきましたが、ジェネリック医薬品普及率80%時代になると再編や淘汰が起きるはずです。そうはいっても上場会社を含めてオーナー色の濃い会社が多く、子会社になっていただくのは容易ではないと考えています。ホールディングス体制で「一緒にグループとしてやっていきませんか」というほうが理解を得やすく、仲間を増やしやすいと考えました。業界再編のなかで核になれる仕組みを作ったほうが、中核事業を伸ばしやすいのではないかというのが理由です。

3つ目の理由は、ガバナンスの観点です。現在は取締役会に監督機能の強化が求められ、複数名の社外取締役を迎えています。一方で経営の迅速さを維持する必要があり、双方を両立させる方法として持株会社体制のもと、執行は中核子会社の沢井製薬を含めたグループ会社が進め、肝心要の監督機能・ガバナンス機能はホールディングスの取締役会において社外取締役、あるいは監査役会を中心に監督してもらいます。ガバナンスの強化と経営の迅速さ、効率性を両立する体制に持株会社化が適切だと判断しました。

そして4つ目は経営者の育成です。まだ実現していませんが、新規事業を子会社化して若い人材を登用し、経営者の育成に寄与したいと考えています。

――現体制になってから2年弱経ちました。変化を実感していますか。

業界再編については、2022年3月に業界中堅の小林化工株式会社の生産活動に係る資産を当社グループが譲り受け、トラストファーマテック株式会社としてスタートを切りました。非常に歴史が長く地元の名門企業であり、その際も沢井製薬の子会社ではなく兄弟会社の形を取りました。さっそくこのホールディングス体制が効果を発揮したと思っています。

▼トラストファーマテック社を設立

サワイグループホールディングス株式会社
(画像提供=サワイグループホールディングス株式会社)

また、米国子会社を兄弟会社の位置づけに変えたことも大きな変化の1つです。5年前の米国進出時にアップシャー・スミス・ラボラトリーズ社を傘下に収め、沢井製薬との間では親子の関係でしたが、持株会社化した際に沢井製薬とは兄弟会社の位置づけに変えました。これにより、日本事業と米国事業の責任者が異なる体制になり、経営層の役割分担が明確になりました。持株会社体制のもと、会長職は1人が兼任していますが、社長職はわけた形で責任を分担しています。

▼米アップシャー・スミス・ラボラトリーズ社

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(画像提供=サワイグループホールディングス株式会社)

――昨今はエネルギー高騰や一時期より落ち着きましたが円安など、さまざまな変化が日本経済に襲い掛かりました。こういった状況を目の当たりにし、日本経済の課題や今後の動向、御社ビジネスへの影響をどのようにお考えですか。

国内ジェネリック事業に対する影響がもっとも大きく、そこをどう見るのかについてお話いたします。弊社は日本で医薬品の製造を行っていますが、原材料は海外に依存しているところがありますから原材料高は影響しますし、円安に伴う諸物価の高騰もストレートに響きます。いまの状況が続くとボディブローのように効いてくると思います。私たちがコントロールできないからこそ、元に戻らないにしても、ある程度のところで収まってほしいと願っています。

――さらなる成長を続けるため、今後の目標や5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。

長いスパンで申し上げると、10年後を意識して策定した長期ビジョン「Sawai Group Vision 2030」を実現していくこと、そのための手立てを着実に打っていくことにつきます。3ヵ年の中期経営計画も策定しており、10年プランの最初の3年間で特に力を入れているのは、業界の中における安定供給問題についてです。経営上の問題を起こす会社が相次いだことから供給不足が表面化しており、それを受けて弊社の能力を超えた需要があり、受け止めきれていません。強化策の1つが先ほど申し上げた小林化工の生産設備の譲受であり、新工場の建設も決断しました。思い切った生産能力の増強をすることで、コア事業の国内ジェネリック事業については、大きな手を打つことができつつあります。

日本では今後人口は減少していきますが、医薬品の需要が高い65歳以上の人口は2040年にかけて伸びていく見込みです。医療費節減対策の1つであるジェネリック医薬品のさらなる普及は国策として推奨され、今後も使用は促進されると考えられます。国内数量シェアが80%近くまで上昇し、今後は伸び悩むように見えますが、特許が切れる製品があれば参入の門戸は開かれ、市場は拡大するでしょう。ジェネリック医薬品市場における弊社のシェアは16%程度であり、シェア拡大を図りたいと考えています。

米国事業も長いスパンで伸ばしていきたいのですが、米国のジェネリック市場が激しい競争のなかにあり、5年前の買収は残念ながら一旦リセットを余儀なくされました。収益面で赤字からの脱却に舵を切り、立て直しを図っているところです。

新規事業は焦っても作れませんから、丁寧に種蒔きしながら取り組む次第です。時間を買うという点で、M&Aは1つの選択肢かもしれません。ただし、米国事業で損失を計上したこともあり、新規事業は自らチャレンジし体験したうえでM&Aをするなど、慎重に取り組むことを考えています。

デジタル医療機器の開発・販売を開始

――中期経営計画では新規事業として希少疾患をターゲットにした新薬開発、デジタル医療機器、健康食品の3領域を挙げています。

デジタル医療機器は、2022年8月に、メドテックベンチャーのCureApp社とNASH(非アルコール性脂肪肝炎)領域におけるアプリ治療の開発及び販売ライセンスの契約を締結しました。新薬を含め治療薬がない分野で新しい治療法を提供するという点で、画期的だと考えています。

また、片頭痛の急性期治療向け非侵襲性のニューロモデュレーション機器※について、2022年12月にPMDAに製造販売承認申請を行いました。早ければ2023年末の承認、2024年中の発売に向け準備を進めております。

※ ニューロモデュレーション機器:電気刺激や磁気刺激により神経機能を調節する治療法

さらに、2021年にリリースした、日々の健康状態を自身で記録・管理し、オンライン受診にも活かせるPHR(パーソナルヘルスレコード)管理アプリ「SaluDi(サルディ)」の普及にも力を入れています。患者さんにお使いいただくとともに、かかりつけ医・かかりつけ薬局の補助的機能も備えています。市町村や企業、健康保険組合単位で地域住民の健康維持・増進のためのお使いいただくコンセプトのもと、日立システムズや疾病管理システムなどを提供するインテグリティ・ヘルスケア、東京大学 COIと一緒に取り組んでいるプロジェクトで、健康増進に貢献できるツールとして将来性に期待を寄せています。こういったことに加えて健康食品や新薬の開発にもチャレンジしているところです。

補足:兵庫県養父市「養父市デジタルヘルシーエイジング事業」において「SaluDi」の採用が決定し、2023年 4 月より運用を予定している。
プレスリリース:https://www.sawai.co.jp/release/detail/588

▼PHR管理アプリ「SaluDi(サルディ)」(左)と健康食品「トリプル生活習慣」(右)

サワイグループホールディングス株式会社
(画像提供=サワイグループホールディングス株式会社)

日本の財政は非常に厳しいですが、一方で国民皆保険制度など医療をこれほど重視した国は他にありません。その医療をサステナブルにするという観点で、弊社のジェネリック事業は大いに貢献できます。また、医薬品以外の治療の選択肢や未病・予防にも貢献できる会社に発展したいと考えています。環境問題や従業員、ステークホルダー、サプライチェーンとの関係など、サステナビリティにも熱心に取り組んでいきます。ちなみに、2021年4月には70歳までの雇用延長も決定しました。お子さんが小学3年生まではフレックスタイム制にできるなど、従業員が働きやすい職場づくりを実践しています。

――最後に、ZUUonlineの読者にメッセージをお願いいたします。

普及率が80%に到達するなか、ジェネリック医薬品は日本の医療になくてはならない医薬品であり、弊社は同事業におけるリーディングカンパニーだと自負しています。また、業界では再編が加速したり経営上の問題も顕在化したりしていますが、弊社はそれをしっかり解決し、最後まで生き残ると信じています。ジェネリック医薬品は海外の方が普及していて将来のあるビジネスだと見られていることもあり、弊社の外国人持ち株比率は40%に達しています。日本には複数の上場会社がありますが、海外の機関投資家は弊社に将来性を見出していることにも、ご注目ください。