物価が高騰している昨今、生活資金を節約するのに地方に移住するのはありなのでしょうか。地方に移住することによって減る支出もありますが、逆に増える支出もあります。地方移住にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、地方移住について考えます。

物価高の時代、節約のために地方に移住するのはあり?

生活資金を節約するのに地方に移住するのはあり?
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

2022年に起きたウクライナ戦争をきっかけに原油やLNG(液化天然ガス)などのエネルギー価格や、小麦、飼料などの原材料価格が高騰し、物価高が世界共通の大きな問題になっています。そこで物価高対策の考え方の1つとして浮上するのが地方への移住です。

首都圏の物価水準が地方よりも高いのはデータ上からも明らかです。総務省が公表している「消費者物価地域差指数2020年(令和2年)」によると、消費者物価指数上位5位までに首都圏の東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県がすべて入っています。

1位の東京都(105.2)と最下位の宮崎県(95.9)では1.10倍の格差があります。宮崎県では月20万円の生活費で暮らせるのが、東京都では22万円かかる計算になります。1年にすると24万円の差が生じることになるので、地方へ移住したほうが生活資金の節約になると考えるのも無理はないでしょう。

地方移住で支出が減る傾向にあるもの

東京から地方に移住することで確実に支出が減るのは家賃です。東京23区と大都市圏以外の地方では家賃水準に大きな差があります。東京23区から周辺の地方に移住した場合、どれくらいの家賃水準に下がるのでしょうか。

全国賃貸管理ビジネス協会の調べによると、東京の家賃を100%とした場合、栃木県は64%、群馬県は65%、茨城県は66%と約3分の2まで低下します。これが同じ周辺でも神奈川県だと90%なので削減効果が小さくなります。

家賃以上に大きく下がるのが駐車料金です。東京都では1時間当たり600〜1,200円程度するコインパーキングの料金が、地方では200〜400円程度で駐車できます。約3分の1の水準です。月極料金の駐車場も地方のほうが大幅に安いと考えられます。

地方移住で支出が増えやすいもの

地方に移住すると、エリアによっては車で移動するしか暮らせない場所もあります。そのようなエリアに住むと、ガソリン代が増えるでしょう。場合によっては高速料金を支払うこともあるかもしれません。

意外に思うかもしれませんが、地方に移住すると医療費が増えます。人口一人当たりの国民医療費は東京よりも地方のほうが高くなる傾向があります。

厚生労働省の調査によると、2020年における東京の一人当たりの医療費は約30万6,000円ですが、茨城県は約31万2,000円、栃木県は約31万7,000円、群馬県は約32万2,000円となっています。全国で最も高いのは高知県で約45万8,000円とかなり高い数字です。

意外と変わらない可能性があるもの

地方に移住してもあまり変わらないと考えられるのがパソコンや携帯電話などの通信費です。地方に移住してテレワークをしたとしても、通信費を削減できる可能性は低いでしょう。通信費は料金プランを見直して下げる方法を検討するのが有効です。

外食費に関しては、チェーン店はほぼ全国同一料金と思われます。買い物に関しては、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで販売されるプライベートブランド商品はほぼ同一価格でしょう。生鮮食品などは地方のほうが安い可能性はありますが、東京でも安売り店を利用していた人はそれほど変わらないと感じるかもしれません。

地方移住のメリットとデメリット

地方に移住するメリットは、生活費が安いことです。先に紹介した消費者物価指数のデータから東京より地方のほうが物価は安いことがはっきりしています。物価水準が5%異なれば、月の生活費が20万円の場合で月1万円、年間では12万円も支出を削減できます。

地方は都心に比べて自然豊かな環境で暮らせるのもメリットです。「都会の喧騒を離れて」という言葉があるように、東京で時間に追われて暮らす人が、旅行で地方を訪れると心が癒されることがあります。自然豊かな環境で暮らせば、ストレスの少ない健康的な生活を送れる可能性は十分にあるでしょう。

一方デメリットは、生活の利便性が低いことです。利用できる交通手段が少ない、買い物できる場所が少ないなど、暮らしにくいと感じる部分もあるかもしれません。身近な存在であるコンビニも地方だと店舗数が少なくなります。

例えば、最大手セブンイレブンの都道府県別店舗数(2023年2月末現在)を見ると、東京が2,881店あるのに対し、最も少ない鳥取県はわずか47店しかありません。実に61.3倍もの開きがあります。自宅近くに買い物する場所がないことは、買い物弱者になる可能性が高いことを意味します。

地方移住のカギを握るテレワーク実施動向

今後の地方移住が進むかどうかのカギを握るのが企業におけるテレワーク実施の動向です。公益財団法人日本生産性本部が行った「第11回働く人の意識調査」によると、2022年10月時点でテレワークを実施している企業は全体の17.2%となっています。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年5月の31.5%に比べるとかなり減っているのがわかります。

今後新型コロナウイルスが収束に向かうにつれて、テレワークからオフィス勤務に回帰する企業が増えていくと予想されます。そうなると出社の機会が増え、東京にとどまったほうがよいと判断する人も出てくるでしょう。まずは勤務する会社のテレワーク実施の動向を確認してから移住の判断を下したほうが、より的確な結論を出せます。

自分の仕事や生活スタイルに合わせて選択しよう

地方に移住したほうがよいかどうかは、自分の仕事や生活スタイルに合わせて選択する必要があります。2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、出勤せず自宅で仕事をするテレワークが普及したことで地方へ移住する人が増え、2021年には東京都の人口が前年比でマイナスになる事態も発生しています。

しかし、ワクチン接種が進み、コロナが収束に向かう兆しが見えた2022年は都心回帰の動きに変わりました。総務省統計局が公表している「住民基本台帳人口移動報告2022年」によると、東京都特別区部(東京23区)の人口が、2万1,420人の転入超過となっています。前年が1万4,828人の転出超過だったので、前年からは3万6,248人増えた計算になります。改めて東京に住みたい人が多いことがわかる結果といえるでしょう。

首都圏→地方→首都圏の移動を繰り返すと、引っ越し費用もかなりかかります。地方へ移住したいのであれば、およそ次のような生活スタイルが求められます。

・ほとんどの仕事がテレワークで完結し、オフィスに出向くのが月数回という人
・都心の利便性よりも、自然豊かな環境で暮らしたいナチュラル志向の人
・元々地方に実家があり、移住しても住居費がかからない人
・エンタメや買い物にあまり興味がなく、たまに都心に出かける程度で満足できる人

これらの条件に当てはまれば、地方へ移住しても後悔しないかもしれません。

ただし、日本の人口は確実に減少が進んでいます。人口が減るとますます東京への一極集中が進み、地方の過疎化が加速する恐れがあります。ビジネスも首都圏や大阪、名古屋、福岡などの大都市でなければ成り立たなくなることも考えられ、企業も大都市圏に経営資源を集中させる可能性があります。

生活資金節約のために地方へ移住するのも1つの方法ですが、仕事との兼ね合いを考慮しながら、最善の選択をすることが求められます。

(提供:Incomepress



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