世界を取り巻く資源やエネルギー、廃棄物問題、気候変動などの環境問題は製品を開発する企業においても見過ごせない問題です。2030年に向けた持続可能な開発のためのSDGsや、2050年の温室効果ガス削減を目指したカーボンニュートラルなどが注目される中、いかに環境問題への取り組みを自社ビジネスとひもづけられるかが企業の課題となるでしょう。
世界では、国策としてサーキュラーエコノミーに取り組む動きが活発です。その動きの背景には、大量生産と大量消費型の経済活動から大量の廃棄物を生み出し健全な物質循環を妨げていることにあります。環境省の発表した『令和3年版・環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』では、対策をしないままだと、気候変動や天然資源の枯渇、生物多様性の破壊が進むことを懸念しています。
日本においても、企業価値を高める取り組みとしてサーキュラーエコノミー(循環経済・循環型社会)に移行する企業を求めている状況です。企業にしてみれば、短期的な収益ではなく中長期目線で取り組む環境保全活動となるため、事業として持続可能でなければなりません。
サーキュラーエコノミーとは、一体どのような企業価値をもたらすのでしょうか。また、サーキュラーエコノミーに取り組む企業にはどのような活動事例があるのでしょうか。今回は、サーキュラーエコノミーについて解説します。
目次
サーキュラーエコノミーとは
日本では、2000年より循環型社会形成推進基本法が公布されています。環境省の公開している「環境再生・資源循環」では、廃棄物処理と各種リサイクル法の強化を目的に循環型社会形成推進基本法が整備されました。その背景には、「大量生産・大量消費・大量廃棄」が浸透する経済社会への危惧があげられます。
循環型社会形成推進基本法は、環境への配慮や廃棄物への対処として3Rが掲げられます。
- Reduce:ものを大切に使って廃棄物を減らす活動
- Reuse:使えるものをくり返し使う活動
- Recycle:廃棄物を再資源化する活動
これら3つの頭文字を取ったキーワードとなる3Rが推進されてきました。3Rは、廃棄物が発生することを前提にした取り組みです。この3Rに対して、廃棄物や環境汚染を最初から発生させないように取り組む経済循環の形成がサーキュラーエコノミー(循環型経済社会)として世界的に進められています。
サーキュラーエコノミーの現状
みずほ情報総研株式会社が公開した「令和2年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業調査報告書」では、英国のエレン・マッカーサー財団による2020年9月に発表したレポートでサーキュラーエコノミーが2019年以降、急激に増加すると指摘しています。
経済産業省産業技術環境局が2022年12月に発表した「成長志向型の資源自律経済の確立」では、世界全体のサーキュラーエコノミー関連市場の拡大について、2030年で4.5兆ドル、2050年で25兆ドルを見込んでいます。また、日本国内のサーキュラーエコノミー関連市場は2030年に80兆円の拡大が見込まれている状況です。
このような将来への見解から、サーキュラーエコノミー関連へのESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を選別した重点的な投資)が活発化します。今後は、新規企業の参入も増加傾向になることが考えられます。
サーキュラーエコノミーの目標
世界で最も早く手がけた欧州連合(EU)による政策「サーキュラーエコノミーパッケージ」では、次の目的を示しています。
目的 | 具体的な取り組み |
廃棄物の発生を最小化 | 製品、材料、資源の価値を可能な限り永続保持 |
国際社会における競争力強化 | 資源枯渇および価格変動の抑制 新規ビジネスの創出 雇用の創出 国連の目指すSDGsの達成 |
EUでは、これらの目標を同時に促進することを目指しています。
サーキュラーエコノミーと従来の3Rとの違い
経済産業省が発表している「欧州のサーキュラーエコノミー政策について」によると、サーキュラーエコノミー型社会は、先述した3Rと次のような点で違いが示されています。
3Rによる旧施策 | サーキュラーエコノミー | |
政策 | 環境問題への取り組み | 環境政策と経済政策の両面 |
推進される方法 | 政策主導型 | 世論と政策主導の両面 |
施策対象範囲 | 国内を中心とするサプライチェーン | グローバルなサプライチェーン |
訴求内容 | 法の整備 運用 | 規制と標準化によるルール作成 |
3Rとサーキュラーエコノミーの違いから、サーキュラーエコノミー型社会は次のように定義されます。
サーキュラーエコノミーは、3R(Reduce:廃棄物を減らす、Reuse:廃棄物をくり返し使う、Recycle:廃棄物の再資源化)と、リアルタイムの需要を予測した価値提供や最適化したマッチングによる価値提供など経済的な実現効果を加味する強化された施策です。
サーキュラーエコノミーの仕組み
サーキュラーエコノミーの仕組みは、サーキュラーエコノミー国際的推進機関のエレン・マッカーサー財団が説くサーキュラーエコノミーの3原則により成り立っています。
- 廃棄物と汚染を生み出さない(取り除く)デザイン設計に取り組む
- 製品と原料の使用から価値を保持した状態で循環させ続ける
- 自然システムを再生する
サーキュラーエコノミーの3原則は、具体的に以下の活動を目指します。
Eliminate(排除活動) | 負の外部要因を明確化 排除する設計でシステムの効率化を目指す |
Circulate(循環活動) | 製品・部品・素材を技術面や生物面双方において最大限の範囲で使い続ける 循環させることで資源から最適な生産を可能にする |
Regenerate(再生活動) | 確保している有限の資源を制御 再生可能な資源フローから収支を調整 自然資本の保存・自然資本の増加 |
排除活動の項目は、二酸化炭素やメタンなどのGHG排出や有害物質などです。循環活動では、耐久性やリユース、リサイクルなどを進めます。その上で再生可能エネルギーの活用を優先します。
国内におけるサーキュラーエコノミーの動き
国内におけるサーキュラーエコノミーの動きでは、新型コロナウイルス感染症拡大と近年の異常気象による気候変動、生物多様性の保護などが課題としてあげられるでしょう。
プラスチック廃棄物における法律
環境省の発表した「令和3年版・環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」では、2021年3月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」の閣議決定が報告されています。その後、同法案は2022年4月に施行されました。同法律は、海洋プラスチックごみ問題や気候変動、海外の廃棄物輸入規制の強化などが背景となっています。その課題に向けて、次の基本方針を策定しています。
―プラスチック廃棄物の排出を抑える
―再資源化に向けた環境配慮設計を進める
―ワンウェイプラスチック(単発利用で廃棄される製品)の使用を合理化する
―プラスチック廃棄物の分別収集を実施する
―プラスチック廃棄物を自主回収する
―プラスチック廃棄物を再資源化する
これらの取り組みをライフサイクルで回す措置が定められています。
設計・製造:環境配慮設計指針の策定
販売・提供:使用の合理化
排出・回収・リサイクル:市区町村の分別収集および再商品化・製造販売事業者などによる自主回収・排出事業者の排出抑制および再資源化
これら以外にも、バイオプラスチックの実用化に向けたロードマップの作成やプラスチック資源循環分野でのESG投資ガイダンスの策定が実施されている状況です。国内におけるプラスチック製品の廃棄物への法律策定は、世界各国のサーキュラーエコノミーの動きに後れを取らない意味合いとして制定されています。近年では、国内においてもサーキュラーエコノミーへの注目が高まっていると考えられるでしょう。
サーキュラーエコノミー導入による企業のメリット
サーキュラーエコノミーを導入することで企業は、次のメリットを得られます。
―コスト削減
―資源の効率的な利用
―資源の抽出により投資収益を改善
―新たな収益源の創出
これらは、企業の内側で得られるメリットです。外部環境要因としてのメリットは、次の2つがあげられます。
―CO2排出の削減に貢献していること
―市場の拡大に期待できること
サーキュラーエコノミーの推進団体「Circle Economy」では、カーボンニュートラルに向けた目標を「2019年の温室効果ガス排出量591億トンから2032年までに39%削減できる」と発表しています。また、今後の国際的な競争力の活性化に日本も便乗する形が見受けられます。日本では、2020年5月に経済産業省より『循環経済ビジョン2020』が発表されました。同政策では、次のビジョンを掲げています。
―循環性の高いビジネスモデルへと転換する
―市場や社会から適正な評価を受ける
―柔軟に対応できる循環システムを早期構築する
サーキュラーエコノミーに取り組む5つの企業事例
サーキュラーエコノミーは、実際に企業がどのような導入をしているのでしょうか。ここでは、企業における設計や生産、利用、廃棄それぞれの事業活動からサーキュラーエコノミー(CE)の取り組みを5つ紹介します。
日本製鉄が取り組む設計のCE「次世代鋼製自動車のアルミ車体同等の軽量化」
日本製鉄株式会社は、国内大手鉄鋼メーカーです。同社では、次世代鋼製自動車 鋼材の高強度化に取り組んでいます。自動車ボディの軽量化にはハイテン(自動車用強高度鋼板)が活用され、鋼材として適用比率をアップし、衝突安全性の確保に力を入れています。
ハイテンとは、高張力鋼のことで一般的な鋼材よりも強度の高い鋼材です。引張強度が高いことにより、軽量化を実現できます。また、ハイテンを活用した軽量化はコストダウンにつながる点も取り組む理由のひとつです。
軽量化では、コストダウンを実現できることと同時に成形技術も求められます。ハイテンの強度が高い分、成形荷重の高さが課題です。強度の高さから、プレス成形作業中の破損も考えられるため、高度な技術力は不可欠となるでしょう。ただし、日本製鉄の取り組みが軽量化とコストダウンを生むことで循環経済へとつながります。
ダイキン工業が取り組む設計のCE「レトロフィットメンテナンスプランによる省エネの実現」
空調機メーカー大手のダイキン工業株式会社は、消費電力を約13%削減したビル用マルチエアコンの長寿命化に成功しています。消費電力を削減して機器寿命を長くする取り組みは、同社が設計したレトロフィットメンテナンスプランによるものです。
レトロフィットメンテナンスプランは、ダイキン製ビル用マルチエアコンに新型圧縮機と新型冷房制御基板の両方を入れ替えて搭載する仕組みです。レトロフィットメンテナンスプランにより、エアコンの省エネ性を向上させるだけではなく耐久性の向上も実現できます。
同社は、製品の開発・設計において3R(リデュース・リユース・リサイクル)および、リペアを重視しています。その取り組みが部品点数の削減やネジの削減につながっている状況です。同社の取り組みは、メンテナンスの利便性を向上させ消費電力の抑制を実現します。その結果、現在使っている空調機の長期利用ができます。この設計により、メンテナンスしやすさも担保できるため、持続可能な製品設計に役立っています。
西友と日立の協創による生産のCE「AIによる販売ロスの削減」
合同会社西友と株式会社日立製作所は、協創により「AIによる需要予測を基準とした自動発注システム」を各店舗で導入しました。このシステムは、AIが各店舗の商品ごとに需要予測をして、需要に応じた供給を正確に予測する仕組みです。
さらにその予測をもとに自動発注が可能となるため、販売ロスを削減できます。また、発注作業自体の自動化も可能となり省人化にも役立っています。販売ロスの削減は、製造元の資源の有効活用にもつながるため、循環化社会の形成に役立ちます。
シタラ興産が取り組む廃棄のCE「AIによる混合廃棄物選別の実現」
埼玉県環境SDGs取組企業宣言をしている株式会社シタラ興産は、産業廃棄物関連事業に取り組んでいる企業です。同社は、アジアで最初に「AI搭載自動選別ロボットを活用した混合廃棄物の選別および再生活用」を実施しています。
AIを搭載したロボットによる選別および再生活用は、原材料の再生活動をAI搭載のロボットで行い、選別作業の少人数化や効率化が実現できます。この取り組みは、廃棄物における3Rの実施ともいえるでしょう。一連の流れは、次のとおりです。
―建設現場で排出される混合廃棄物の回収
―混合廃棄物を破砕
―破砕物のカメラによるスキャニング
―AIが廃棄物を解析
―ロボットが種類ごとの選別を実行
廃棄物からは、再生砂やRPF原料(プラスチック・繊維・紙・木材など)を選別できます。これらを選別後、回収しリサイクル資源として活用する取り組みです。
フォーアールエナジーが取り組む利用におけるCE「バッテリーの再利用・再製品化」
電気自動車向けバッテリーの再利用と再製品化に注力しているフォーアールエナジー株式会社は、持続可能な循環型社会に向けて取り組む企業です。産業用蓄電池をはじめとする電池の安全性と再資源化を掲げています。その取り組みが電池の再利用に関する世界的評価規格「UL1974 」の世界初取得にもつながっています。
同社が取り組む電気自動車に使うリチウムイオンバッテリーは、4R事業として次の項目の実現になるでしょう。
―リユース:再利用
―リセール:再販売
―リファブリケイト:再製品化
―リサイクル:再資源化
同社は、現在もグローバル市場に向けて4R事業で二次利用推進を拡大している状況です。
サーキュラーエコノミーを理解して競争優位性を確立しよう
企業はサーキュラーエコノミーを導入することで、世界的な社会課題となるSDGsの取り組みも進められます。本来廃棄処理されていた部材が自社だけではなく、市場の再資源となり全体的なコストダウンにつながることも考えられるでしょう。
それだけにサーキュラーエコノミーは、企業の長期的な事業として継続しなければなりません。単発的な施策ではなく、中長期目線で捉えた方針の策定や体制づくりが求められます。今後、企業が変化の激しい時代を乗り越えていくには、持続可能な競争優位性の確立が必要です。
企業が競争優位性を確立するにあたって、自社の循環型社会を形成することは大きな価値の創出になるでしょう。循環型社会の形成には、企業事例で紹介したAIやロボットを導入した企業のDX導入は欠かせません。特に製造業や建設業など、業種に特化した専門性の高いDX推進では専門家の支援が重要になるでしょう。
専門家へ依頼することは、描いていたビジョンの実現性を高めるメリットがあります。相談の際は、環境負荷の低減や人材不足解消に貢献しているソリューションサービスをおすすめします。
(提供:Koto Online)