特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。
株式会社LATEGRAは、日本にまだVTuberがいなかった時からAR・VR・XRを活用したLive演出・コンテンツ制作を手がけてきた業界の先駆者。中国で大人気のバーチャルキャラクター「洛天依(ルォ・テンイ)」のプロデュースに始まり、「初音ミク」のイベントのモデリングや映像制作によって注目を浴び、現在は小学館と共同でメタバース事業も仕掛けている。今後は得意とする「XRテクノロジー」と「ライブエンターテインメント」でアニメやコミックなど日本のコンテンツをアップデートし、世界に発信していきたいという。今まさに波に乗っているLATEGRAの代表取締役 山形龍司氏に、独自の強みや今後の展望について伺った。
(取材・執筆・構成=丸山夏名美)
株式会社LATEGRA
最先端XR技術を駆使して、リアルとバーチャルが融合する拡張した世界を創り上げるプロデュースカンパニー。ライブイベントやメタバース開発などさまざまな事業展開を通して、1人でも多くの人のココロが動くLIVE体験を提供し、“おもしろき世”を創り上げることを目指している。
株式会社LATEGRAの事業概要と沿革
─ 現在の事業内容についてお聞かせください。
株式会社LATEGRA代表取締役・山形 龍司氏(以下、社名・氏名略):
ココロが動く、高鳴る、踊る感覚を全身で感じる「LIVE体験」を創り、届けることを軸に、いくつかの事業を展開しています。
主軸はバーチャルイベント(キャラクターライブなど)、AR・VR・XRを活用したLive演出・コンテンツ制作です。その他、バーチャルキャラクターのモデリングやモーション制作も得意としています。
近年力を入れているのがメタバースやNFT、WEB3.0を活用したサービスやコンテンツ制作です。2022年には小学館とのメタバースの共同事業「S-PACE(スペース)」もスタートし、他社との連携も強化したいと考えています。
▽小学館とのメタバースの共同事業「S-PACE」(https://s-pace.land)
─ 現在までの事業の変遷についてお聞かせください。
LATEGRAの前身の会社も含めると、私たちは15年ほど前からARやVRをライブに活用する演出・制作を手がけてきました。2011年頃に事業活動を東南アジアにも広げようと営業を始め、ご縁があって2014年に中国のバーチャルキャラクター「洛天依(ルォ・テンイ)」をプロデュースするようになりました。2016年に「洛天依」が中国の春節(中国におけるお正月)の人気番組に出る機会があり、その演出・制作を手がけたところ、「洛天依」が爆発的な人気となったのです。「洛天依」は今でも中国のVR市場を盛り上げた先駆的存在とされ、年末のカウントダウンや大型のイベントやライブに出演しています。
▽中国No.1バーチャルシンガー「洛天依(ルォ・テンイ)」のデビュー10周年を祝う誕生日ライブ
当時、このようなバーチャルキャラクターの活用は日本では例がありませんでしたが、数年遅れて日本でもVTuberブームが訪れ、私たちのようなビジネスが成り立つ時代になったのです。
さらに、コロナ禍でリアルなイベントが制限される中、私たちのようなオンラインを交えたライブを得意とする業界は追い風を受け、バーチャルキャラクター関連の仕事は増えました。その流れが、今取り組んでいるバーチャル空間のメタバース事業にもつながっていると思います。
競合他社にはない株式会社LATEGRAの強み
─ 競合他社にはない御社ならではの強みや、コアコンピタンスについてお聞かせください。
AR・VRのテクノロジーをライブに活用する事業は、日本でこれらが商業として成り立つ前から展開していますので、この分野の技術と知見は蓄積されています。また、AR・VRに関わる企業の多くは、自社のリソースだけでなく一部を他社に外注することで成り立っていますが、私たちはXR LIVEを実現するために必要な技術やリソースが、すべてインハウスに揃っていることも強みです。
例えば、キャラクターやイベントステージなどのクリエイティブを制作する際は、CGデザイナーやAR・VRのエフェクト技術者、エンジニア、照明、音響など、さまざまな技術を持つメンバーが必要です。それらをすべて統合している私たちのような集団は、かなり珍しいといえます。
それができるのは、私たちがもともとエンターテインメント業界からスタートしているからです。近年のブームに乗ろうとAR・VR分野に進出している企業はIT系出身が多いので、感性的にも技術的にも私たちとは特徴が異なります。
▽CGWORLD2022クリエイティブカンファレンスで紹介されたCG制作のワークフロー
業界のトレンドと注目すべきトピック
─ 現在の業界のトレンドや注目しているトピックがあれば、お聞かせください。
私たちの業界に深く関わるテクノロジーは、すごく進化していると感じます。ライブにおいてもハイエンド・ハイクオリティの企画制作に携わっているので、コンピューティングの技術や速度の影響を大きく受けるのです。
例えば、2020年に横浜アリーナに特設ステージを作って「洛天依」のライブを行った時に、中国にもリアルタイムでコンテンツを配信したのですが、それができたのは近年のテクノロジーの進化と、それを使いこなす人たちがいたからです。数年前だったらこのようなライブは難しい、もしくはユーザーが使いこなせなかったと思います。
LATEGRAが使う技術の多くはCGエンジニアリングなど、これまでゲーム制作で使われてきた技術です。しかし、ゲームとライブではリードタイムがまったく異なります。制作期間をきちんと取って、何度もテストをして作り込むゲームと違い、ライブではほぼリードタイムなしでハイクオリティのものを作らなくてはなりません。
そのため、どのような技術をどのように活用するかは、常に私たちの課題といえます。
株式会社LATEGRAの今後の展開
─ 今後、重点的に取り組んでいきたいことを教えてください。
1つは、得意とするXRライブの延長線上でライブ以外の事業も展開していくこと。もう1つは、日本独自のコンテンツを世界に発信していくことです。
▽LATEGRAのミッション「オモシロキ コトモナキヲ オモシロク」
私たちの仕事は、基本的に受託です。XRライブは唯一三次元で体験できるエンターテインメントコンテンツですし、その場で体験した人はすごくパワーを得られるはずです。しかしながら「その時」「その場」でしか体験できない「消えもの」であるがゆえに、受託側には経済的な資産が何も残りません。
そのため、小学館とのメタバースプロジェクト「S-PACE」のように、XRライブの延長線上で形が残る自社事業を手がけていきたいと考えています。
また、これからすごく伸びるインバウンドにも力を入れていきたいです。訪日外国人向けに日本のAGCコンテンツを提供する、といったことですね。日本にはアニメやゲーム、コミックなど、世界的に人気があるコンテンツがたくさんあります。しかし、中国を始め多くの国では、宗教や政府の制約によって、日本のコンテンツを自由に閲覧することができません。
そこで、訪日外国人が日本のオリジナルのコンテンツを手に入れられるようにしたいと考えています。日本のコンテンツをARやVRによってアップデートし、それを1ヵ所に集めてニューヨークのブロードウェイのようにしたら、すごく面白いはずです。
もちろん日本に来られない人にも、進化した日本のオリジナルコンテンツを届けていきたいですね。
株式会社LATEGRAから皆様へのメッセージ
─ 読者の皆様へメッセージをお願いします。
お話ししたとおり、今後は市場を海外まで広げて、より多くの人にコンテンツを届けていきたいと考えています。私たちのように「日本のコンテンツ力×XRテクノロジー×ライブエンターテインメント」ができる会社は、かなり稀有です。得意な分野と外部の力を組み合わせて、世界を明るく、楽しく、元気にできる事業を展開していきますので、ぜひご期待ください。